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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
殺人輪舞の夢を観る

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第三章:輪舞。弐


ネットカフェ。

「おう、ここだ。」

小さな声で、林藤さんが俺を呼ぶ。

狭いスペースに、パソコンの画面を二人で覗く。

「これだ。神隠。な、書き込み見たら、この辺の地理に近い。状況も似ている。」

男ばかりの書き込み。女なら、噂で。面白半分。半信半疑な話も、あっておかしくない。

しかし、どの書き込みも胸が苦しくなる。

「夢幻。最近、変わったことはないか?」

「例えば?」

「近づいてくる人間。増えたりしていないか?」

「普通に接してくれる友達が一人。告白してきた女子が一人。」

「気を許すな。俺たちの捜す真実は、命にかかわるかも知れない。」

「はい。」

林藤さんは何かを考え、俺には言わなかった。ただ一週間後に、別の場所で会う約束だけ。


三日後。家に電話が鳴る。

「はい。お世話に。え?林藤さん。が?」

警察からの電話。林藤さんが、亡くなったと。

三日前。ネットカフェの防犯カメラが、俺たちを捉えていた。

俺は警察に呼び出される。もちろん俺が犯人ではない前提だった。

犯行時刻。俺は、塾にいて目撃が有る。犯行場所は遠い県外。俺には無理だった。

「座って。」

年配の、ベテラン刑事だろうか。目が、俺の目を見つめ。見透かすようだった。

「アイツ。あの村を調べていたんだろ?」

まず俺も。この人を読もうとして、黙っていた。

林藤さんは、慎重に行動しろと言っていた。誰が信じられるか。林藤さんの言った通り、村を調べて欲しくない人間がいる。かも。

俺の命も?

「言っていい。皆が知っている。警察も、村の人間も。もう10年になるか。はぁ。タバコが吸いたいな。屋上に、場所を移動してもいいか?」

「はい。」

10年。林藤さんは、28。18の時に彼女を亡くした。それから10年。真実を探し、この仕事に就いたのか?

警察署の中は、騒然としている。この人は信用できる人だろうか?

「いい天気だ。」

タバコに火をつけ、吸って。煙を吐く。俺の方を見ない。

「アイツは、真面目な奴だ。俺の部下だった。必死な奴の目。真実を求めていた。俺は、アイツの彼女も。君の彼女も。死んだのを確認した。」

「え。」

言葉を無くした。死。を見た?

「残酷な言葉だ。アイツは信じなかった。生きるなら、それでもいい。そう俺は思っていた。」

この言葉。まるで。

「刑事さん。林藤さんは、どうして亡くなったんですか?死因は何ですか?」

新聞には、小さく載っていたが。詳しくは無かった。曖昧で、調査中と。

「自殺。だと思っている。」

それは不自然な気がした。

「幸せそうな、顔をしていたそうだ。」

え?

「まるで、逢いたかった彼女に会ったような。そんな。」

「刑事さんは、見たんですか?」

「いや。同僚が、県外に迎えに行った。その時の様子だ。」

分からない。林藤さんに一体。何が?

「あの日、履歴を見たら分かると思いますが。」

俺は、神隠村のサイトの話をした。それを一緒に話したと。俺を気遣い、時間の空くその日に会う約束をしていたと。

ただ、不自然さを残さない。最低限の情報。

「そうか。夢幻君、君はどう思う?」

「どう?何にですか?林藤さんが、自殺かもしれないこと?」

それとも、村が関係するかも知れないこと?

「どう。思う?」

再びの問。

「幸せな顔。林藤さんは、追い詰められすぎて幻を見た?それで心が解放されたなら。俺は。」

「夢幻君。君は、生きなさい。若い。他に、いや。今は受け止められないかもしれないが。幸せがきっとある。」

「はい。」

涙が零れた。

生きる。エンを忘れる日が来るかもしれない。他に、好きになる人も。


俺は警察を後にした。

何かが引っかかる。けど今は時じゃない。

林藤さんは、あのサイトを見て。何かを考えていた。そして俺に告げずに県外。サイトの誰かと、接触を持ったのだろうか。

そして真実を知った?それだけで幸せな顔?林藤さんは、彼女を観たんだろうか?

幻を。観ながら。死んだ?



後日、刑事さんから連絡があり。村に連れて行ってくれることになった。

何故、急に?

でも、生きることを願う俺に、エンの家族を会わせたいのは気遣い。用心深く。

村のふもとに、古い道標。

「刑事さん、あの。」

「あぁ、川口でいいぞ?何だ?」

「川口さん、これ。古いですね。」

「あぁ、触るなよ。結界なんだ。一応、な。」

俺が、不思議そうな顔をしたので説明をしてくれる。

「アイツから、何も聞いていないみたいだね。神域。なのさ、ここは。だから他の人間が足を踏み入れることは出来ない。滅多に。な。何かがないと。」

「俺は、特別ですか?」

何だか、寒気がした。

「あぁ、特別だよ。彼女の家族が、落ち込んでいる。と、長からの呼び出しだ。」

川口さんは、長と。どんな関係なんだろう?まさか、この村の人?異質な村。長か。

ここにも道標。あそこにも。

昼間なのに、街中より寒い空気。神域?空気が澄んでいるような気がするのは、山の中だから?

この空気が、懐かしい記憶を呼び覚ます。ここでエンは生まれ育った。君の不思議な雰囲気。

神隠村。小さな集落。ここがエンの生まれ育った村。静かな所。エンの雰囲気を思い出す。

「この家だ。俺は、長のところに寄るから。一人でも大丈夫か?」

「はい。」

普通の一軒家。インターホンがない。

「こんばんは。」

玄関の明かりが増え、足音が近づいてくる。

「はい。君が、松渓 夢幻くんね。入って。」

優しそうなお母さんだ。中に入り、和室に通される。

「いらっしゃい。さ、座って。」

エンの雰囲気があるお父さん。

「はじめまして、あの。」

こんな緊張することって。ここにエンがいれば。

「楽にしなさい。」と、優しく微笑む笑顔もエンに近かった。

「エンは、お父さん似なんですね。」

俺の一言に、おじさんは涙を零した。

「すまないね。涙もろくて。」

やはり、エンは亡くなったんだ。

頭の片隅に、どこか。この異質な村が、エンを隠しているかも。なんて考えていた。

作られた物語のような。夢を観ていた。

俺はアルバムや、部屋を見せてもらって。思い出を聴いた。

でも二人は。俺の思い出については、あまり訊かなかった。ただ、エンを好きになってくれて。ありがとう。と。

「俺が、あの日。」

俺は、自分の後悔が。今更、心を痛めるなんて。

子供だった。生きていることに希望を持って。自分の軽率な行動が、エンを死に追いやったのではないか。そう、今更だ。

二人が、本当は俺を怨んでいるかもしれない。

「ふ。うっ。す。すみませ。ん。」

なんて浅はかな。情けない。消えてしまいたい。

おじさんは、俺の肩に手を置いた。

「夢幻君、君を巻き込んだのは。エンだよ。あいつは言っていた。自分の告白に、応え。好きになってくれたと。それだけで、どれほど幸せか。ありがとう。」

違う。俺は、そんな『ありがとう』なんて言葉。言ってもらえる資格はない。

「すみません。ごめんなさい。ごめ。ん。なさ。い。」

その後のことは、あまり覚えていない。自分の情けない幼さに幻滅し、どれほど未熟か。

ただ、川口さんがやってきて俺を連れて出てくれた。

「また、おいで。」

そう、おじさんの声が聞こえた。

大切だった娘を喪った二人を、長が心配して俺を呼んだ。

俺に対する憎しみは。本当になかった?本当に?俺なら。ただの付き合っていた俺でも。

俺は、ここで。また自分が浅はかだったのを知る。俺は、死を認めず。エンを殺した奴を怨んですらいない。

思い返してみる。死を認めない。殺した奴なんか、俺の中にいなかった。

情けない。現実逃避。

殺人。夢を観ているように。その周りを踊る。無様な俺だった。



林藤さんが亡くなって一週間。

本当は、この日。あの海で会う約束をしていた。そこで俺に伝えたいことがあると。

もういない林藤さんとの約束。何故か足を運んだ。俺の感情の吐きどころを求めて。




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