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鏡のプロムナード  作者: 猫屋ナオト
第五章.暴かれた秘密の"プロムナード"
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11.魔物在らず物

「……は? え、何、が?」


 雪乃は目の前の真っ黒な生命体が発した言葉を理解できないでいた。

 ミンドラ。ルルリノの友達。ミーちゃん?


 経緯は分からないが、何かが繋がったような気がした。

 つまりは。


 ミンドラは実は生きていて、ルルリノと仲良くなっていて、そして今自分の身を助けてくれた。

 ……本当に純粋に、ただ仲良くなったのだろうか。


「あんた、洗脳とかしてないでしょうね」


「どういう思考回路してりゃ今そんな言葉が出てくんだァ? してねェよ、つか出来ねェし」


 せっかく助けてやったのに不本意だ。などとミンドラは吐き捨てる。


「いや、だってあんたは妙な作戦練ったりとか、ルリちゃんを操ったりしてたし……」


「そ、そうですよ。また何か考えがあるんじゃないですか」


 イリアも、さすがに前例を体験している所為か疑り深い。

 かつては敵だったミンドラ。それを先ほどのような一度の助けで信頼することは出来ない。


「あー……人間ってなァ、どうしてこんなに面倒な生き物なんだ。やっぱりお嬢が特別なだけか」


 そう言って、ミンドラはルルリノに振り返る。ルルリノは会話が良く聞こえていなかったのか、ミンドラに対して笑顔で返し、軽く手を振った。

 お嬢、というのはどうやらルルリノを指している言葉らしい。


「特別って、なにが」


「無償の信頼、ってヤツ。見返りも必要とせず俺を生かしてくれたんだ、お嬢は。だから俺も無償の手伝いをするのさ」


 ミンドラの言葉に、雪乃は言葉に詰まった。アイリスが聞いたら、"綺麗事"と一笑しそうな言葉だった。

 しかし、不必要な争いをしたくない。会話が出来るなら、話し合いたい。


 普段から密かにそう考えていた雪乃は、ルルリノとミンドラという存在がその理想を体現しているように見えた。


 ――信じてみたい。

 これが自分の甘い部分なのだろうか。ただ、もういがみ合ったり、戦ったり、相手にその気が無いならそれを尊重してあげたいと思った。


「……難しいんだね。信じることって」


 だから雪乃は、柔らかな笑顔でミンドラに手を差し出した。


「ユキノ、様?」


「――そうだなァ。俺も最初はそうだったよ」


 ミンドラも、それに答え手を差し出した。人間の手とは比較にならないほど大きな手だった。しかし、しっかりと両者は手を握り合った。

 そしてやがて、イリアも満を決し、二人の手に、自分の手を重ねた。


 三人が仲間となった瞬間だった。


「ルリちゃんだけじゃなく、人間のことも助けてくれる?」


「それはどうだろうなァ。……でも今決めた。俺は"お前らも"守ってやる」


「よかった。皆も、ミーちゃんと仲良くなれたんだね」


 ルルリノは、笑顔でそう言った。


「だからそのミーちゃんってのやめてくんねェかお嬢……」



 と、そこで突如。メテオラの吐き出したコメトラ達が活動を始め、雪乃達を囲み始めた。


 対して、雪乃たちもルルリノを守るために、囲うような陣形を取った。


「……で、どうすんだ。殺していいのか、あいつら」


 ミンドラが、虚空からエーテルの槍を出現させる。


 雪乃はひとつ、大きな深呼吸をして、口を開いた。


「好きに暴れて」


 人間に脅威となる魔物には反撃を。雪乃はそんな考えだった。


「説得したりしねェのか」


「この魔物には、会話できるような"知性"を感じない。暴れるだけの魔物は――戦って止める」


 そう言って、雪乃は痛む右腕に耐えながら剣を構えた。


「(こいつ……本当にあの時の人間か? まるで別人じゃねェか)」


 確かにコメトラは言語を扱わない。そのことはミンドラも分かっていた。

 しかし、それを直感で、それも断言しきった自信と、そして何より今見えた少女の表情。それはミンドラが考えていた"ユキノという少女"のイメージを覆すものだった。


「まあ待て、戦いは俺がやる。一つ、二つ――八つか。俺一人で十分だな」


 ミンドラはコメトラの数を数えながらそう言った。


「そんな、私も戦える。覚悟くらい――」


「違ェよ。怪我人は大人しくしてろってことだ」


 遮るようにそう言ったミンドラの姿が、消える。その瞬間、一体のコメトラの身体が弾け跳んだ。

 雪乃の目には、ミンドラが何をしたかも分からなかった。


「脆いなァ。俺の"同胞"にしては――おい、人間」


 呆気に取られていた雪乃は、それが自分を指している言葉だと気づくのに、時間が掛かった。


「あ……え、私?」


「こいつら"魔物"じゃねェぞ」


「魔物……じゃない?」


 雪乃もイリアも、ミンドラが言っている意味が分からず、首を傾げた。


「俺達魔物は……知ってるだろうが、大半はエーテルで構成されている。攻撃も、エーテルそのものを使うことが多い。エーテルに関する"耐性"は並みじゃあねェ。だから同胞殺しは簡単にはできないはずなんだ――だが」


 瞬間、ミンドラはエーテルの塊を一体のコメトラに投げつけた。それに触れた瞬間、コメトラの身体は簡単に潰れた。


「なんでこいつらはこんなゴミクズのように死ぬんだ? ……答えは簡単だ。何故ならこいつらには」


 更に一撃。話すついでだと言わんばかりにごく自然な動きでコメトラにエーテルの槍を突き刺す。コメトラはあっさりと四散していった。


「"核"がねェんだ。どういうわけか知らんが」


 ミンドラの言葉に、雪乃は気づいた。

 そう、本来なら魔物と言うのは、まず核となる部分を切り取りそして震感魔法(エーテルクエイク)により殺すものだった。それなのに、先ほど倒したコメトラは核を切り取らずとも、殺すことが出来ていた。


「こりゃ、こいつらを生み出してる"親"も普通じゃねェだろうなァ」


 そう言って、ミンドラは巨大なメテオラに視線を向けた。


 ゴウ、ゴウ、と。

 強風が荒れているかのような音で、メテオラは鳴いた。



 


 

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