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鏡のプロムナード  作者: 猫屋ナオト
第五章.暴かれた秘密の"プロムナード"
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8.小隕石を破壊せよ

「他の皆さんはまだこちらに来るまで時間がかかるようですね」


 民家の屋根の上に立ち、メテオラを見据えながらイリアが言った。


「そうだね、メテオラが動かない間に皆が集まれたらいいんだけど――あれ?」


 と、雪乃が小隊員の心配をする最中、その視界にざわざわと蠢くものを見つけた。


「ね、ねぇイリアちゃん。あれってもしかしてコメトラってやつなんじゃ」


 指差したその先には、十数匹ものコメトラが民間区域へ進撃を始めていた。

 その区域を担当する小隊が対応に当たり始めるも、敵の数が圧倒的に多いせいで、処理しきることが出来なかった。


 何匹かのコメトラの進入を、許してしまっていた。


「ユキノ様っ、あっちの方向にはルリが、お母さんがっ――」


 そしてコメトラたちの進行ルートの先……そこにはイリアの実家である小屋も含まれていた。

 民間区域担当の小隊は、更なるコメトラの進行を阻止するだけで精一杯のようだった。


「ねぇアイリス聞こえる!? 他の区域にコメトラが……そっちにはイリアちゃんの家がっ……どうしたらいい!?」


 慌てているせいか、ままならない言葉で雪乃は言った。端的に、伝えるべきことを。


「ええ、聞こえていたわ。そっちのメテオラはどうなの!?」


 脳内に、アイリスの声が聞こえる。


「まだ動かないみたい! ねぇ、私――」と言い掛けたところで。


「分かってるわ。イリアの家方面の援護をしたい、そうでしょ?」


「うんっ!」


「いいわ、そっちのメテオラは私達でなんとかするから、ユキノとイリアはコメトラの処理をおねがいっ!」


「分かった、行こう! イリアちゃん!」


「はい!」


 雪乃は早々にイリアを抱きかかえ、イリアはEコムの制御に専念し始める。雪乃の身体がぐっと引っ張られたかと思えば、更に急加速し行く先々の民家の屋根を跳び継いでいった。


「アルフレド! あんたのほうはどうなったの!?」とアイリスの声が聞こえた。


「今二匹処理したところだ! ――ちっ、またきやがった! こいつら、相応の知能があるぞ……気をつけろ!」


 アルフレドの声が、各々の頭の中で響いた。雪乃はそのほうがむしろやりやすい、と思った。


「見つけた――!」


 そして雪乃は民家が続いていた区域最後の屋根を蹴った。そして民間区域へと繋がる橋の上でを蠢くコメトラに狙いを定め――。


「やぁっ!!」


 Eコムによる突進力と、落下による衝撃力を合わせた力任せの一撃を、コメトラへと叩き込む。

 岩肌で出来たコメトラの外装に剣が突き刺さり、コメトラは痛みのためか、苦しげな声をあげた。


「ユキノ様っ……!」


 コメトラの叫ぶような雄たけびに、イリアは顔をしかめた。剣は深いところまでコメトラを斬った。その痛みは想像に絶するものだろう――雪乃もイリアも、それが敵であってもいい気分ではなかった。


「大丈夫、イリアちゃん。すぐに終わらせる――」雪乃はそう言うと、懐の袋から三角形の形をした手のひらサイズの塊を取り出した。


 すぐに終わらせる。と言うものだから、イリアはてっきりエメラルドあたりを剣に纏わせるものかと思っていたが、どうやら違うようだった。


 雪乃が取り出した三角形の塊は"振動爆雷"といい、王都騎士団の間で扱われる対魔物用の兵器だった。

 使い方は単純で、振動爆雷は滅びの剣の剣先にぴったりはめ込まれるように作られており、それを魔物に突き刺し少量のエーテルを流し込むだけ。

 そのエーテルがトリガーとなり、震感魔法(エーテルクエイク)を引き起こすことが出来る。


 魔物を処理する上で基本事項である震感魔法(エーテルクエイク)はエーテル消費量も多く、そしてその実用性とは裏腹に、使い方を習得している者はあまり多くなかった。

 振動爆雷は、その問題を解消するために作られた兵器なのだ。


 雪乃は振動爆雷を剣先にセットする。


「ゴァァァァァァァッッ!!」


 コメトラはまたも雄たけびを上げ、雪乃へと突進する。


「イリアちゃん、離れててっ!」


 と雪乃はそう言いつつ、半ば強引にイリアを突き離す。イリアは押されるがままに雪乃から離れた。


 コメトラの腕が、雪乃の身体を狙い振り下ろされる。雪乃はそれを滅びの剣の平で受け止めた。

 硬質な腕と、金属製の剣がかち合い、大きな衝撃音が鳴った。


 大きな衝撃に、雪乃は数歩押されてしまい、橋の手すりまで追い込まれてしまう。


「ユキノ様っ!」イリアは不安げに叫んだ。いくら戦闘訓練を積んでいたとはいえ、所詮は真似事。エーテルを使えない状況での雪乃はあまりに弱々しく見えた。


 そして、もう一度コメトラが腕を振り上げた。これ以上雪乃に後ずさることは許されなかったが、それでも雪乃は腕を避けようとはせず、剣で受け止めた。


 また大きく衝撃音。雪乃は吹き飛ばされ、身体は橋の手すりを越えそのまま自由落下し――。


「ユキノ様ーーーッ!!」


 ふっと、その身体はイリアの視界から消えた。イリアは顔を真っ青にしながら、叫んだ。

 橋の下は川になっているが、所々に岩もある。落ちどころが悪ければ死に至る可能性だってある上、コメトラが雪乃を追わないという可能性はないとは言い切れない。


 案の定、コメトラは雪乃を突き落とした手すりへ近づき、そのまま川へ飛び込まんとばかりに身を乗り出していた。


 イリアはコメトラに近づくという危険を顧みず、橋の手すりへ近づいた。橋から下へは高さもかなりあるので、運よく水へ落下できてもただでは済まない――。

 そう思い、イリアが身を乗り出した時だった。


「やぁぁぁぁぁっっ!!!」


 ふと、イリアの視界に雪乃が急に現れた。コメトラのすぐ側に雪乃が現れたのだ。

 コメトラは手すりへ登るために腕を使っている。雪乃の姿に反応が出来ても、体が追いついていない――!


 一瞬の隙、雪乃は叫び声にも近い掛け声と共に、滅びの剣――その先に装着した振動爆雷をコメトラに突き刺した。


「イリアちゃん!」


「はいっ!」


 雪乃がイリアへ手を伸ばす。

 二人にそれ以上言葉はいらなかった。


 イリアは飛び込むように雪乃へ近づき、その伸ばされた手を握った。

 その瞬間、イリアの身体を通り、エーテルが振動爆雷へ流し込まれる。


「グギィィィィィィッ!!?」


 コメトラの身体は一瞬にして膨れ上がったかと思うと、強風が吹いたような音と共にその身体は霧となり四散していった。


「……知能があるなら、剣を刺した私をそう簡単に許さないものね。あんなに痛そうだったんだから」


 雪乃はぽつりとそう呟いた。


 そしてどうしてか、自らが今しがた行った行動にデジャビュを感じた。何故か気のせいではないと思えるほど、鮮明な感覚だった。

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