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鏡のプロムナード  作者: 猫屋ナオト
第四章外伝.未来と過去の散歩道
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外伝3(2).策を立てよ

「例えばさ、君がジョンソン君より得意なもの、勝っていそうなことってなんだろう?」とユキが言った。


「俺が勝ってるところ? そうだなぁ……」ユキの言葉に、ガーネットはうーんと唸り考えた。


「やっぱエーテル学……かな。俺いつもテストで一番だし、満点取ったことだってあるんだぜ」とガーネットは得意げに言った。


「そういや、今日の喧嘩の発端も、あいつが俺のこと「エーテル学は出来るくせになんで実習は出来ないんだ」――って言ったとこから始まったんだっけ」


「つまり君は、エーテルの扱いは苦手だけど、知識は人並みより優れているってこと?」


「まあ、そういうことになる……のかな」ガーネットは照れくさそうに言った。


「でもよ、エーテル学が戦いの役に立つの? 知識だけじゃあなんともならないよ」自分の特技は戦いには生かせない――ガーネットはそう主張した。


「確かに、知識は持ってるだけじゃあ戦いの役には立たない。でも、それって武器とか武術とかも一緒じゃない? そういうのって"使って初めて役に立つ"んじゃないかと思うんだ」とユキは言った。


「武器は持ってるだけじゃ意味が無い……武術は会得しただけでは意味が無い……ってこと?」


「そんな感じかな」


「ってことは、俺の知識ってやつは今はいわば"持ってるだけ"で、それを使えば戦いにも活かせる……ってことか」


 ユキの言いたいことがなんとなくでも理解出来たのか、ガーネットはうんうんと頷いた。


「次は負けた理由を探してみよう。それを一つずつ潰していけば、君が勝つことができるはずだよ」年齢の割には落ち着いており、助言をすぐに飲み込むことが出来たガーネットにユキは笑顔で言った。


「負けた理由――か」


 ガーネットは空を見上げ、考えた。その答えを出すのにさほど時間は必要としなかった。


「やっぱエーテルを使えるか、使えないかってことかな」


「そう、ならその理由を潰すにはどうすればいいかな?」ユキは諭すように言った。


「うーん……俺がエーテルを使えればなぁ……」


「でも、短期間でそれは難しいよね。とすると他にどんな手があるかな?」


「……逆にあいつのエーテルを使えなくする……とか?」ガーネットはしばらく考えた後、ぽつりと言った。


「へぇ、そんなことができるの?」話を振ったユキ自身、ガーネットの言葉に目を丸くした。


「やってみなきゃわかんないけど……エーテルの制御が難しい環境ってあるからね。確かエーテルの応用力学でそんな話を聞いたことある」おぼろげな記憶を辿りながら、ガーネットが言った。


「それはいいね、使えるかもしれない。他にはどんな敗因があるかな?」


「やっぱ、あいつのパンチをそのまま食らっちまったことかな。そもそもパンチさえ食らわなけりゃ川へ落ちたりしなかったんだし」とまだかすかに痛む頬を触りながらガーネットは言った。


「なるほどね。そしたらそのパンチを受けないようにするにはどうするか……とか、受けること前提で戦うにしてもただ受けるだけじゃなくて何か反撃の一手を考えておくとかね。こんな風にして負けた理由を一つずつ潰していけばいいんだよ」


 とそことなく誇らしげに、ユキは言った。


「なんかユキ姉は理屈っぽいな」


「あ、あれ……そうかなぁ?」てっきり尊敬されるものだと思い込んでいたユキは、ガーネットの反応にたじろいでしまった。


「でも、おかげでなんとかなりそうだ。ありがとうユキ姉、俺これから家に帰って戦いの準備してくるよ!」にかっと笑顔を向けると、ガーネットはそのまま走り去ってしまった。


 残されたユキはなにやらぶつぶつと呟きながら、庭園のベンチに腰掛けボーっと空を見上げることにした。



「まさか昔のガーネットさんがあんな男の子だったなんてね」




***




 -数日後-



「ようジョンソン、会いたかったぜ。その馬鹿みてぇな鼻面を拝むまでこうして待ってた甲斐があったぜ」


 魔法学校に通じる橋の手すりに腰掛けたガーネットがひょいと飛び降りて言った。


「机の中に果たし状なんてものが入ってたから誰かと思ってきてみれば……霧なし(エーテルの使えない)ガーネットじゃないか。ここ最近見ないから家でブルってるのかと思ってたぜ。オムツの替えでも買いに来たのかよ?」


 と少々大柄な少年、ジョンソンは軽口でガーネットを嗜めた。


「へっ、おむつが必要なのはジョンソン、お前のほうなんじゃないのか。なんせお前は今から川で水泳するんだからな」


「思い出したぜ、そういえばお前はあの川で泳いだことがあったんだっけな。よかったら俺にも水泳を教えてくれよ。川に飛び込んで泳ぐコツをよぉ!」


 かっかっか、とジョンソンは大口を開けて笑った。


「こら君たち、汚い言葉で侮辱しない」と割って入ったのはガーネットと共に居たユキだった。


「なんだガーネット、一対一じゃあ俺に勝てないから冒険者の人を雇ったのか?」


「違う、この人はただの見物人だ。俺は一対一での決闘をお前に申し込むぜ」とガーネットはジョンソンを指差し言った。


「決闘だぁ? こないだは俺に無様な負け恥じを晒しておいて、まだ川で泳ぎ足りないのか?」


「うるせぇ、次に川へ沈むのはお前の方だ!」


「なんだとぉ……?」


「こらこら、だから汚い言葉を使わないの。ルールはそうね……武器は危ないから素手で戦うこと。でも魔水晶とか、凶器じゃない道具の使用は有りとする。勝負は私が止めに入るくらい結果が目に見えるか、川に落ちたほうが負けってことでいい? 二人とも?」


 なんとか二人の間を取り持ちながら、ユキは言った。


「ああ、それでいいぜ」


「意外だな。お前のことだから魔水晶禁止にするのかと思ったぜ」とジョンソンが言った。


「俺はエーテルを使ったお前に勝つんだ。お互いに持ってる力を全部出そうぜ」


「気持ち悪い奴だぜ……橋から落ちて頭がおかしくなっちまったんじゃないのか」


「はっ、言ってろ……いくぜッ!!」


 こうして二人の少年による、決闘が始まった。

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