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鏡のプロムナード  作者: 猫屋ナオト
第四章.時の水(ビドロ)に乗って会いたい人がいる
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14.世界再現

「う……ううん……」


 雪乃が次に気がついた時、そこはガーネットの家の中だった。

 どうやらテーブルに突っ伏す体制で眠っていてしまったようだった。


「今のは、夢……それとも……?」


 目を擦り、眠気眼で雪乃は外を眺めた。

 すると、外は僅かに薄暗くなっており、更に目を凝らすと薄暗さの原因である黒い霧の塊が見て取れた。


「え……もうそんな時間っ!?」


 雪乃は慌てて飛び起きると、ガーネットの家を飛び出すように後にした。


「(そんなに深く眠っていないはずなのに……まるで時間が跳んだような……変な違和感だ)」


 拭いきれない違和感を感じながら、黒い霧の発生源へ向かって雪乃は走った。

 駆けつけたところで何をするわけでもない、しかしガーネットの最期は看取るつもりであった雪乃はただひたすらに走った。


「(いた……魔物だ――!)」


 息を切らしながらも辿りついた先に、見上げるほど大きな魔物を発見した。

 そしてそのすぐ近くには鎧姿のガーネットと、この時代の雪乃やイリアがいた。


 ガーネットは二人を守るように魔物と一進一退の大立ち回りを繰り広げていた。

 しかし雪乃には分かっていた。ガーネットはこの後、殺されてしまうことを。


「(助けられるものなら助けたい……でも――!)」


 助けてはならない。違う未来を生み出してはいけない。

 行き場の無い怒りが雪乃に握りこぶしを作らせ、歯を食いしばらせていた。自分は決して手を出してはいけないのだ。


 しばらく見守っていると、この時代の雪乃とイリアが戦いの場を離れようと駆け出していた。

 そして間もないうちに、ガーネットと戦っていた魔物が霧と化そうとしていた。


「(ここで……ガーネットさんは……)」


 そう、タイミングはここだった。失われることが分かっている命だったが、それでも雪乃は行動してはいけない。

 違う世界の自分が体験したことを、身を張ってまで教えてくれたことを無駄にするわけにはいかなかった。


 やがて魔物の姿は消え、この時代の雪乃とイリアの前に現れると、二人に襲いかかろうとしていた。

 しかしそこにガーネットが駆けつけ、何とか二人を守るもガーネットはエーテル毒による致命傷を負ってしまった。


「(そろそろ、行かなきゃ……)」


 ガーネットの最期はせめてすぐ側で……そう考えた雪乃は、ガーネットが吹き飛ばされた瓦礫へと向かった。


「(そういえば、この辺で誰かが目くらましの法を使ってくれたから私はガーネットさんと話す時間ができたんだっけ)」


 タイミング的にいうと、もうすぐ何者か(恐らくは村人の誰かだろう)による目くらましの法が使用されるはずだった。

 それを思い出した雪乃はそれに備え、出来るだけ目を手で覆いながら走った。


 しかし雪乃の思いに反し、その機会は一向に訪れない。


「(どうしてッ? だってあの時魔物は苦しそうに目を抑えて……)」


 何も起こらないまま、魔物はガーネットに向かって飛びかかろうとしていた。


「(こうなったら……私がエメラルドでっ――!)」


 しかし雪乃は思いとどまった。本当にそんなことをしていいのだろうか?

 未来から来た自分の行動は世界に影響を及ぼしてしまうのではないのだろうか?

 自分が体験した出来事と違う出来事は起こってはならないのではないだろうか?

 雪乃はそう考えていた。


 しかし、そこであることに気がついた。


「(あの時……つまり今この状況で。"魔物を止めたのは本当に村の人"だったのかな?)」


 そう、雪乃は思い込んでしまっていた。

 魔物が苦しそうに目を抑えていたのは見た。しかしそれを目くらましの法だと言及したのはガーネットだった。

 村人の誰かが使うのだろう――雪乃はそう思っただけで、使用するところを見たわけではなかった。


 つまりは――。



「そっか。あの時にもこうして、未来の私が裏で動いてくれてたんだ――」



 あの時――雪乃が一年前に体験した今。

 その時点から既に未来から来た自分が助けに来ていたのだ。今、雪乃がここにいるように。



「あの時目くらましの法……いや、エメラルドを使ったのは他でもない、私なんだッ――!」



 雪乃はエメラルドを握り締め、その力を発現させるため念じながら魔物に向かって飛び出した。

 それに気づいた魔物は一度ガーネットから目を逸らし、雪乃の方へと視線を移した。


「お願いッ……エメラルドーッ!!」


 雪乃が強く念じると、エメラルドはそれに答えるように激しく輝いた。

 翡翠色の光が放射線状に広がり、その光は魔物の目を直撃した。


「(これで、しばらくは動けないはず……)」


 息を切らしながら、雪乃は魔物を見上げた。魔物は苦しそうにもがき、そして目を押さえつけていた。


「(そしてもうすぐ私が魔物の方に向く……その前にっ!)」


 自分はあの時、自分自身の姿を見てはいない。

 世界を再現するならば、当然自分は見つかってはいけない――そう考えた雪乃は疲労した身体に鞭打つように体力を振り絞り一度建物の瓦礫へ身を潜めた。



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