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鏡のプロムナード  作者: 猫屋ナオト
第三章.古城(ココロ)の中の悪魔
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10.頭脳戦闘

『え、え……元の世界……?』雪乃はまったく状況を読み込むことができなかった。


 精神送信器(アガリスタ)からどうして元の世界へ来ることができるのか? どうして元の世界に異界語を話すミナセがいるのか?

 分からないことだらけだった。


『詳しい話は"今回の闘い"が終わった後にする。今は何も言わずにこれを受け取って』ミナセはそう言うと、小物入れらしき箱から翠色に輝く石を雪乃に差し出した。


『これって……エメラルド?』雪乃はそれを見たことがあった。確か自分が始めて王都を訪れた際、アイリスがアルコスタ王より受け取った物と同じ色をしていた。


『あなたはこれと同じものを必要とする時が来る。でもその時のあなたは"そっち"を使うことができないの。スペアと思って持っておいて』呆然とする雪乃を他所に、ミナセはエメラルドを雪乃の手に握りこませた。


『……分かったよ。でも、闘いが終わったらちゃんと話してもらうから』とにかく今は何も考えずに、流されてみよう。詳しい話を後でする、と本人が言っているのだからそれに従うほかないだろう。第一それを疑ったとして、どんな行動を起こすべきなのかすら分からなかった。


『うん、分かってる。それと……これも』ミナセは箱からもう一つ、手のひらサイズの四角に紐がついた物体を取り出した。


『空気中のエーテルを変換して電気に変えるアダプタよ。それであなたの持っている携帯電話を充電しておいて。後でこっちから連絡をするから』そういうとミナセは充電器を雪乃に渡した。


『それじゃあ急いでこの精神送信器に入って。今度こそルリちゃんの精神世界に送るから』


 ミナセに促されるまま、雪乃は棺桶状のカプセルの中に横たわる。直後に蓋がモーター音と共にゆっくりと閉じられた。


『絶対に、勝つんだよ』


 そんなミナセの声を聞いたと思った瞬間、雪乃の感覚は上下左右に揺さぶられ、意識が糸を切るようにぷつっと消えた――。




***



――その少し前。


「……あなたがミンドラ?」ルルリノの精神世界に着いたアイリスは魔物と思わしき生き物と対峙していた。


「待ちくたびれたぜぇ……やっと来たのかよォ」


 その生き物は魔物にしては珍しく人間とさほど変わらない身体の大きさだった。手足は異常なほど長細く、それに反するかのように大きい羽を持っていた。


「悠長なものね。これから狩られる立場の発言とは思えないわ」アイリスは腰の鞘から滅びの剣を抜くと、剣先をミンドラへと向ける。


「人間の癖に生意気なやつだ」対するミンドラは何もない空間から黒い三叉の槍を取り出すと、それをアイリスに向けて構える。


 じりじりと得物を構えた両者が距離をつめていく。先に動いたのはアイリスだった。


「ふっ!」


 鋭く息を吐きながら、両手に構えた剣で一閃。ミンドラは槍の柄でそれを防ぐ。


「そんなものか人間? 遅すぎるぞォ」


 余裕の表情を見せるミンドラだったが、アイリスも口角を吊り上げ余裕の表情で返した。


強化魔法(アペンド)――!」


 アイリスが叫ぶとグローブの宝石が輝き、剣と足に黒い霧(エーテル)が纏わり付いた。そして跳躍――ミンドラの背後を取ると叩きつけるかのごとく剣を振り下ろした。

 ミンドラは咄嗟に前方に転がるようにして斬撃を避け、四つんばいの状態でアイリスを睨みつけた。


「スピードが劇的に変わった。それがお前の技と本当のスピードか――"学習"したぜェ」


 ミンドラは槍を投げつけると同時に、羽を広げ飛んだ。不意の攻撃にアイリスは背中から倒れこむことで槍を避ける。その際にも視界からミンドラの姿を外さず、次に来るであろう攻撃に備えるため、足を上げ首と背中をバネのようにを使って跳ね起きると上空から攻撃を仕掛けてきたミンドラの槍を剣で捌いた。槍はミンドラが空中に飛んだ際形成されていた。アイリスはそれを見逃してはいなかったのだ。


「貴様……相当闘い慣れてやがるな」鍔迫り合いになり、槍に力を込めながらミンドラが言った。


「お生憎、それでご飯を食べておりますので」相手を挑発するような口調でアイリスが言い返すと剣で槍を弾き、一度距離を取る。


「(そろそろかしら――?)」


 一度アイリスは目線だけで辺りを見渡す。(ミンドラに悟られないための配慮だろう)エーテルの流れを感じないのでまだ雪乃はここに来ていないらしい。

 そしてふとした拍子に、視界の隅に僅かな黒い(もや)を発見した。恐らくあれが送信中の雪乃だろう。


「はぁっ!」


 ミンドラの注意を引くため、少しばかり大袈裟に声を上げ、ミンドラに斬りかかった。大仰な太刀筋は簡単に見切られ、槍を横凪にすることで斬撃は弾かれてしまう。


「問題」


「は?」


 突如、ミンドラが言葉を発した。突拍子も無い言葉に、アイリスは思わず首を傾げる。


「宿主が眠っている間、俺は活動できるのかなァ?」


 くっくっく、と堪えきれないらしい笑いを滲み出しながらミンドラが言った。


「確かにこの距離……俺は間違いなく"エーテル攻撃"を仕掛けていたが……」言葉を続けながら、ミンドラは勢い良く羽で飛び上がり雪乃の送信地点に振り返った。


「バカがっ!! てめぇらの作戦なんざ丸聞こえなんだよォッ!!」


 叫びながら、ミンドラが手のひらから収束されたエーテルを雪乃に向けて発射した。鋭い先端のそれは恐らく"エーテル毒攻撃"だろう。

 そしてそれは一直線に飛んで行き、雪乃の身体を貫いた。


「ひゃーっはっはっはァッ!! 一人おっ死にやがったぜェ!!」


 笑い転げるミンドラだったが、雪乃の姿を見てぴたりと動きを止めた。


「本当に効かないや……。身体を貫通してるのに痛みもないし、不思議だなぁ」


 何故なら、雪乃は貫かれた箇所を手でさすりながらまるで人事のように暢気な独り言を呟いていたからだった。


「てめぇ、なんで効いちゃいねェんだァ!? おかしいだろ、オイッ!!」


 半狂乱になりながら、ミンドラは声を荒げた。ミンドラからしてみれば完全に不意をついたはずだった。ルルリノが眠った後に聞かれているとも知らず暢気に作戦会議を始めた連中の裏をかいてやったつもりだったのだ。


「(まさか――ブラフかっ!?)」


 そう、雪乃たちはあえてあのタイミングで作戦会議をしたのだ。エーテル毒の効かない雪乃へその攻撃を誘う為に――そして。


「なにか手違いがあったのかしら?」


「なっ――。貴様が何故そこにッ――!?」


 雪乃に注意が向いている隙に、アイリスは二重強化魔法(ダブルアペンド)を足にかけ、先ほどミンドラに覚えられた("学習"された)スピードを上回る速度でミンドラの背後を取っていた。

 鋭く息を吐きながらアイリスが剣を振り下ろすと、その斬撃は羽の片方を斬りとっていった。


「グギャッ……アアアァァッ!?」


 痛みに叫びながら、ミンドラは落下していった。そして雪乃の隣には黒い靄が発生し――イリアの送信が完了しようとしていた。

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