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鏡のプロムナード  作者: 猫屋ナオト
第二章.王都への散歩道
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3.エーテル

「……えっと、そんなに大きな木で大丈夫かな。ちゃんと燃える?」


 森の中で二人が調達してきたのは、抱えなければ持てないほどの大きさの太い木だった。

 アイリスが大きな薪を持ち、雪乃は両腕いっぱいの小枝を持っていた。


「今日はユキノにエーテルを使って割ってもらおうと思うの」


 特に疲れた様子を見せず、アイリスが言った。どうやら実戦形式で鍛え上げられているらしく、女性にしては見た目以上に無駄のなく、引き締まった筋力を秘めているようだった。


「エーテル? 確か魔物の黒い霧とか、アイリスが剣に纏わせてた黒い霧のことだよね?」


「そう。この世界で魔物と戦うためには必須のものよ。今後ユキノが戦わないとしても、使い方くらいは身に着けておくべきだと思うわ」


「エーテル」


 そう言いながら歩いていく内に、二人は拠点のテントへとたどり着いた。


「イリアちゃんはテントかな?」


 雪乃はそう言うと、抱えていた小枝をひとまず降ろしテント内を覗き込んだ。

 そこには置いたままの荷物に寄りかかり、軽く寝息をたてながら眠るイリアの姿があった。


「やっぱり疲れてたんだ、イリアちゃん」


 雪乃は側に腰を下ろすと、その長い銀髪を手で梳いた。


「ふぁ……あ、んんっ……あう?」


 イリアはもぞもぞと寝返りを打ちながら目覚めると、ぼんやりとした表情のまま間の抜けた声を出した。

 ふと、二人の視線が重なる。


「な……、なっ……ユキノ様っ!?」


「おはよ、イリアちゃん」


 数秒の時の後、顔を真っ赤にしながら慌てるイリアを他所に、雪乃は笑顔で声をかけた。


「お、おはようございます……」


 本人も眠るつもりはなかったのだろうか、恥ずかしい姿を見られなんとも言えない気持ちになりながら、イリアも挨拶を返した。


「やっぱり疲れてた? 無理しちゃ駄目だよ?」


「わ、私は――もう平気です」


 ただ強がって見せたわけではなかった。確かに疲労が溜まってはいたが、先ほどの転寝で幾分か体力を回復することが出来た。


「それよりもユキノ様、火の元の調達はどうなったのでしょうか?」


「うんっ、たくさん集めてきたよ。あとね、アイリスが凄い大きな木を持ってきたの。それを私が薪にするんだって」


「ユキノ様が?」


 イリアはいつもの半目を少しばかり見開き、首を傾げる。


「エーテル、だっけ。それの使い方を教えてくれるみたい」





***





「それで、エーテルって結局のところなんなの?」


 雪乃はエーテルの指導を受けるため、テントの外に出て鞘に入れたままの剣を構えた。アイリス曰く、上手くすればこのままでも木を割ることができるという。


「言葉にすると……なんていうのかしら。エーテルは思いのままに動かすことのできる物理力のことよ」


「物理力……?」


 知らない言葉だ、と雪乃は首を傾げる。


「説明するより見たほうが早いかもね。じゃあ私がゆっくりやってみせるから、見てて?」


 そう言うと、アイリスは剣を鞘から抜き剣先を天に向けた。そして腕のグローブに装着した三つの内、一つの黒い宝石が発光すると、あたりに黒い霧――エーテルが散布された。


「基本的にエーテルは空気中を漂っているのだけれど、それはごく薄いもの。視認できるほどではないわ。まずはそれを自然吸収する魔水晶でエーテルを持ち運ぶの」


 アイリスが腕を差出し、先ほど発光した宝石を雪乃に見せた。どうやらこれは魔水晶と呼ばれる物らしい。


「エーテルを思いのまま動かすっていうのは、まずは魔水晶からエーテルを解放すること。これが基本ね」


 よく見てみれば、先ほど発光した魔水晶から黒みが消えていた。他二つに比べ明らかに色が薄く、透明になっている。


「これが四分の一くらいのエーテルを解放した後の魔水晶。空の状態まで使い切ったら自然吸収で満タンにするには、大体一日くらいかかるかしら。戦闘用に消費したら満タン状態から二回くらいは使うことが出来るわ」


「へえ……使えば使うほど水晶みたいに綺麗になっていくのね」


「確かに、エーテルは黒くて汚いイメージがあるわね」


 アイリスは苦笑すると、剣を構えなおす。


「そして、次に大事なのはこのエーテルを武器に付与すること」


 言うと共に、アイリスは剣を空中に漂うエーテルの塊の中へ入れる。そのまま空をかき回すように剣を動かすと、エーテルは徐々に剣に纏わりつき始めた。


「これがエーテルの付与。例えばこれをこうすると――」


 アイリスが剣を構え、空を斬った。すると付与されたエーテルは剣から打ち出されるように離れ、奥にあった大木の表面にぶつかると大きな裂傷を付け、消えた。


「物理力っていうのはこういうこと。エーテルはそのままだとただの霧だけど、まとめて操れば大きな力になる。ここまではいいかしら?」


「うん、なんとか」


 大木の傷を見た雪乃は、呆気に取られながらも頷いた。


「でも、私その魔水晶っていうの持ってないよ?」


「あら? 気づいていなかったのかしら?」


「はえ?」


 雪乃は思惑と違うアイリスの言葉にすっとんきょうな声をあげた。


「ユキノが首から提げてるそれ、魔水晶よ?」


 アイリスの指差した先――そこにはガーネットから受け取った柘榴色(ざくろいろ)の宝石があった。

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