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鏡のプロムナード  作者: 猫屋ナオト
第二章.王都への散歩道
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2.旅路

 見渡してもビルなどの人工物はなく、どこまでも続きそうな自然が見える。

 現代の少女が"異界"と呼ぶその地を、馬車が駆けていた。


 馬車を先行する灰色の馬の手綱を握るのは肩ほどまで伸びた美しい金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ少女だった。

 腰には立派な剣の鞘と、見慣れない二本のニードルを提げている。


 少女の名は、アイリス・アンダーソン。

 ある一国の元王女にして、現在は魔の物を狩る剣士である。

 長らく馬に揺られている所為か、その表情には少しばかり疲労の様子が見られた。



 馬車内には、二人の少女がいた。

 一人は一般の人間的なサイズを二回り以上も小さくしたような、小人ともいえる者だった。

 癖の無い腰あたりまで伸びた銀髪と、あまり豊かではない表情から人形を思わせる風貌の少女は、名をイリアという。


 他の世界からの来客が多いこの異界において言語関係の問題は切り離せないものだが、銀髪の少女はその問題を緩和させる"翻訳士"として生活している。

 現在はメイド服に身を包み、つい一月ほど前に異界へとやってきた少女の世話係をしている。



 もう一人の少女は、イリアが世話をする件の少女だった。

 まず目を引くのが異界ではあまり見られない、二つ結びにしたその髪型である。

 どこかのほほんとした雰囲気を纏わせており、常に危険の付きまとうこの世界では到底野放しにしてはおけないタイプの少女だった。

 少女は名を初瀬雪乃(はつせゆきの)と言い、名が表すとおり現代の日本人である。


 三人の少女は大陸を牛耳る"王都アルコスタ"へと向かう旅路の途中だった。

 道のりはかなり遠く、出発してもう二日が経つというのにまだ目的地まで半分程の距離しか進んでいないという。


 現代の世界でこのような経験のない雪乃にとっては、何日も移動に費やすというのは耐え難いことだった。

 ただ、馬車内では異界語の勉強を続けることにより暇を持て余すことは無かった。


 もうそろそろ日が傾きかけた頃、アイリスは馬を止めた。


「今日はこの辺りで野営をしようと思うのだけど……いいかしら?」


 アイリスが馬車のカーテンを開き顔を覗かせる。


「そうですね。ここなら見通しも良いですし、万が一戦闘になっても対応は可能でしょう」


 イリアがカーテンの隙間から辺りの様子を見渡しながら言った。

 地理的に安全な場所かどうかを確認していたようだった。


「うん、イリアちゃんがそういうならきっと大丈夫だね。私もここでいいよ」


 一方、サバイバルに関して疎い雪乃は反論することなく二人に任せることにしている。


「じゃあ、決まりね。馬車を街道から離すから、一旦降りて」


 アイリスの言葉に頷いた雪乃がまず馬車から降りた。

 後に一人で乗り降りができない小さなイリアを受け止め、二人は馬車から降りることができた。


 アイリスは馬を街道の外れへ誘導すると、舗装のされていない芝生に駐馬させた。僅かな段差の衝撃を拾って、馬車が大きく揺れた。


「それじゃ今日も私とユキノでテント張って、イリアは携帯食料の準備をお願いね」


「うん、わかったよ」


「了解しました」


 この二日間ですでに決まっている役割をアイリスが告げると、早速各々は準備に取り掛かった。

 雪乃とアイリスは馬車内の荷物から一際大きな麻袋からテントの元となるシートを取り出すと、芝生の上に広げた。


 アイリスは腰のニードルを一本取り出すと、フック状になった柄でテントを支える四方部分の楔を打ちつけていった。


「いつも思うんだけど、それ便利そうだね。魔物の牙もそれで折ったんだっけ?」


 テントの骨組みを固定し終えた雪乃が、アイリスの作業を見つつ呟いた。


「そうよ、これはワイドニードルって言ってね。二本揃えれば戦いやサバイバル、広い範囲で活用できるわ」


 アイリスが件の道具――ワイドニードルを眺めて言った。

 アイスピックを大型化したような外見をしており、柄部分を太いフック状にすることで針部分と合わせて多用途に渡り使用可能にした道具らしい。


「食料の準備が出来ました。後は火さえあればすぐにでも食事可能です」


 テントを張り終えて少しした頃、イリアが言った。


「ご苦労様、イリアはテントで休んでいいわ。これからユキノと二人で薪を集めてくるから」


「いいえ、私もお供します」


「イリアちゃん、身体が小さいから私たちより疲れてるでしょ? それにほら、見張りがいないと荷物が不安だし、ね?」


「ユキノ様がそうおっしゃるなら……」


 雪乃が心配なイリアはひと時も離れたくはなかったが、雪乃自身に説得されてしまえば従うほかなかった。それに長旅で疲れを感じているのは確かだったし、見張りを一人も立てないというのは少々不安が残る。

 イリアは渋々了承すると、一つお辞儀をしてテントの中へと入っていった。


「さ、行きましょユキノ」


 そう言うとアイリスは雪乃の手を引き、街道から離れた小さな森へと向かっていった。

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