第一章2〜決意の誕生日〜
「遅いよ、架羅。いつもより30分位。」
階段を下りると、すぐにキッチン。そこに立っている女性は、朝食の後片付けをしている。
「ぅ……。おはよぉ、篝姉さん。」
「悪い夢でも見たのか?おばけとか、篝とか……」
食卓のいつもの席に座っている男性が新聞を広げながら、からかうように言った。
「ちょっと雅樹?今何て言った??」
「…二人ともおはよ。」
これが、いつもの朝食の風景。
「そういえば、明日は架羅の誕生日よね?」
指を鳴らしながら、篝姉さんが言った。
「うん。16歳になるよ。忘れてないよね?」
私の台詞に、二人は苦笑いを浮かべた。
「そっか。早いな…。」
雅樹兄さんがぽそりと呟いた。
確かにこの5年という月日は、文字通りあっという間に過ぎ去ってしまった。
独りぼっちになってしまったあの日、私は夢中で走り回った。
そして、此処に辿り着いた。
突然転がり込んだ私に驚きもせず、冷静に対処した雅樹兄さん。傷ついた私を暖かく迎えてくれた篝姉さん。
だから今こうして、私はいる。
ふとテーブルの端に目を向けると、黒い羽と白い羽が2枚ずつ置いてあった。
「それ……
「!?な…、なんでもないわよ。ただの鳥の羽。玄関先に落ちてたのよ。」
私の言葉を遮りながら、篝姉さんが慌てて羽を隠す。雅樹兄さんは苦虫を噛んだような複雑そうな顔をしている。
「……そう?」
「そうそう。あっ、架羅。今日は部屋の片付けをするんでしょ?早く済ませちゃいなさい。」
「……はぁい。」
私は席を外すことにした。もちろん、フリだけ。
食器を流し台に置いて、キッチンを後にする。階段に脚を掛け、あたかも登るような音を立てその場に残る。
聞き耳を立てると、二人の安堵の溜息が聞こえた。
「……危なかったぁ。」
篝姉さんがテーブルに突っ伏した。
「……もう、奴らがそこまで来ているんだな。」
雅樹兄さんは新聞を畳み、篝姉さんを見つめる。
「えぇ。気付かれたみたい。」
「なんとかならないのか?引っ越すとか……」
「いきなり出来るわけないでしょう?架羅になんて説明するのよ。」
頭を抱える篝姉さん。しばらく沈黙が続いた。
「どうして、あの子は普通に暮らせないの?」
ゆっくり重い口を開いた篝姉さんの瞳には、涙が流れていた。
「………っ!」
その姿を見た瞬間、私の足は階段を静かに素早く登っていた。
奴らって何?
あの羽は誰の物?
普通に暮らすって?
私は、今まで二人に……
迷惑をかけていたの?
部屋に閉じこもって、少し前に叩き込まれたことについて、冷静に考えた。
もう、迷惑をかけたくない。
そんな私が辿り着いた答えは……
この家を出ること。
節目の、
私の誕生日に……。
夜、
月がとても綺麗で見とれてしまった。
自分も輝かしい人生を送ることが出来るだろうか…
私の夜は、果てしなく続いていく……
そんな気がした。
今回で第一章が終わりです。長いなぁ……。 今回出てきた黒と白の羽は、形見の羽ではないのであしからず。 ややこしい作者でスミマセン。m(_ _)m