第四章〜彼らの生きる世界〜
「―…もしもし?」
『おー、俺だ。元気そうだな、湊麻。』
電話越しに聞こえる懐かしい声に、湊麻の頬が緩んだ。
「兄さんも…相変わらず元気そうだね。安心した……。」
湊麻の安堵の声と、遠くで聞こえる歓喜の音を耳にして、湊麻の兄―…蛍麻が小声で呟く。
『―……で、アイツはどうだった?』
「……架羅の事?うん、兄さんから聞いてた通りだったよ。…おっちょこちょいで危なっかしいし、考えも…行動だって無謀な事ばかりだし……。」
全くだ…と、蛍麻が相槌を打つ。
「でも…、すごく純粋で、真直ぐで…。…―…守ってあげたい……そう、思ったんだ…。」
花嫁が投げたブーケが、架羅の伸ばした両手の中へと堕ちていった。
受け取った彼女の満面の笑みを遠目で見る湊麻。ふと顔を上げた架羅と、湊麻の視線が絡み合った。
「見て見て湊麻ぁ!!ブーケ取っちゃったー!!」
架羅が嬉しそうに手を振った。湊麻は優しく微笑み、手を振り返す。
『…さすが双子。思うこと、ドンピシャだぜ?』
電話の向こうで、蛍麻の笑い声が聞こえた。
「だね。」
つられて湊麻も笑いだし、暫らく二人で笑った。
と、突然。
『何笑ってんのよ!?あれだけ用件は手短に言えって言ったでしょ!?こんの…馬鹿蛍麻ぁ!!』
怒声が笑い声を掻き消し、耳を突き抜けた。
『うわぁーっ!!』
直後、蛍麻の叫び声と、大きな物音が届いて……
電話が切れた。
ピピピ…
すぐに電話が掛かってきた。
「兄さん!大丈夫なの!?さっきのって…」
『…お久しぶりです…、湊麻…。』
湊麻の言葉を遮ったのは心配した兄の声でなく、おとなしい雰囲気の漂う女性だった。
「……深傴?久しぶり!元気だった?」
女性の声を聞いたとき、脳裏に当てはまる人物が浮かんだ。
『はい…何とか。』
女性―…深傴が苦笑したのが、電話越しで分かった。
「で、深傴が何の用?」
『先程の蛍麻の話の続きをしようと…。』
躊躇いがちに答える。
それを聞いた瞬間、兄の事を思い出した。
「そうだ、兄さんは!?一緒にいるんでしょ!?」
『はい…あれは―……ひゃぁっ!』
突然、深傴が電話越しに悲鳴を上げた。
「深傴!?」
呼び掛けるが、返答は無し。
―…ぞっ……
何の予兆だろうか。
悪寒が湊麻の背筋をなぞった。
『すぅ―――…』
「!?」
深傴じゃない、誰かが大きく息を吸い込んだ。
――その瞬間、
『くぉらぁーっ、湊麻ぁー!!!』
一気に耳を突き抜ける声に、咄嗟に反射神経が働き…湊麻は受話器を耳から離した。
『一体いつまで油を売ってんの!?禁忌の娘と遊ぶ暇なんて無いのよ!分かってんの!?早く来なさい!!』
その声は、先刻の電話で聞こえた怒声。
「……はい……。」
この有無を言わさない感じ…深傴の双子の姉、傴尓だ。
『ふぅ。…あ、湊麻。ごめんなさい、手短に伝えれば良かったのですが…。』
確信を持てた時、今度は深傴の声が聞こえた。
最初の深傴の安堵の息は、傴尓から投げられた受話器を無事受け取れたからだろう。
「気にしなくて良いよ。時間が迫ってるから、気が立ってるんだよ。…きっと。」
少し泣きそうな声の深傴を、優しい言葉で慰める。
『……湊麻、“例の計画”についての小会議をします。すぐに隣街のキルゴに来て下さい。』
先程の声とは違う、真剣な声で深傴が言った。
「わかった、すぐに行くよ。」
湊麻もまた、真剣な声で答えた。
そして、通話は終わった。
授業中に書きました☆不良っこの夕凪です。そのかいあって、早く更新できました。…さて、新キャラの双子ちゃん登場です♪ずっと書くの楽しみにしてたんですよ!ちなみに、姉が傴深で、妹が深傴で…。詳しくは次回にて(ぉぃ!