第三章3〜闇の中で〜
叫んでも叫んでも、その声は闇に溶けてしまう。
一体、此処にきて何日が過ぎてしまったのだろう。
俺にはまだ―…帰るべき場所があり、待っていてくれる人はいるのだろうか…。
「湊麻、この階段……」
「きっと、この先に声の持ち主がいるはず…。とりあえず、今日は休もうよ。明日、もう一度ここを開けて先に進む……それでいい?」
この先に、何があるかは予想不可能。ならば休息を取って、万全の態勢で臨んだ方が良さそうだ。
「わかった。」
冷静に判断して、今日は就寝することにした。
翌日、无稀さんと鏈さんは、式の準備の為に出掛けた。
部屋に残った私と湊麻は、昨晩の階段を出した。
「うー……。朝でもこの中は不気味だねぇ…。」
「かなり深いみたいだし。」
そーっと覗き込んで奥を見ようとするが、三メートル先までがやっとだ。
「うぇっ!なんか風が……生暖かい風がっ!!」
奥から微かに吹く風が、頬を撫でる。背筋がぞっとして、湊麻にしがみ付く。
「とにかく行ってみよう?昨日の声、確かめなくちゃ。」
そっと宥めるように、優しく湊麻が言った。
「……うん。」
行けるとこまで行ってみよう。出来る限りのことをやってから、後悔しよう。
……恐いけど、頑張ってみよう。
深く、長く続く階段は闇とほぼ同化している。入ってすぐ右手に灯りがあり、ご丁寧に蝋燭が用意されていた。
「なんで、蝋燭が?」
「出入りの時に、必要だから?」
湊麻が蝋燭を手にとって、意味深に呟いた。
「じゃぁ、誰かがここを使ってるってこと?」
でも、一体誰が?
考えながら進むと、暗闇から光が現れた。
目の前に現れたもの、
それは、鈍く光る無数の鉄の棒で出来ていた。
まだ実物を見たことがない、牢屋………。
「誰だ…?…鏈…か?」
中からあの声が聞こえてきた。中を照らすと、そこには一人の男性がいた。
「え!?」
「貴方…!?」
一体、ここで何が起こっているのか……。しばらく私達は、立ち尽くしていた。
「準備は整ったな。なかなか良い感じじゃないか。なぁ、无稀?」
「…………。」
気分が悪い。早く助けて…と、何かに祈っている自分がいる。
「いよいよ、明日だ。」
鏈はニタリと笑っていた。
牢屋と反対側の壁に、鍵が掛かっていた。扉を開け、男性の傍に座る。
「俺は凉。」
「架羅って言います。こっちは湊麻です。」
「凉さん、何故こんなとこに?これ…牢ですよね?」
自己紹介を手短に済ますと、湊麻が本題を口にした。
「これか?これは……鏈が造ったんだ。」
凉さんの言葉に、私達は耳を疑った。
「鏈さんが!?」
「一体、どうゆう……!?」
軽く苦く微笑み、凉さんが説明を始めた。
「鏈は…俺と无稀を引き裂こうとしたんだ。」
「そんな!」
こんな裏があるなんて、想像できなかった。
私は動揺していたが、湊麻は冷静だった。
「仕方ないことだ。アイツは、いつでも完璧な台本を望んでいる。」
凉さんの表情が陰る。
「自分の思い通りに人生を送る。一度決めた事は、必ず実行。その為には、どんな犠牲も厭わない。」
「だからって……。」
また、牢内を沈黙が制する。誰も口を開こうとはしない。
あまりにも、この現実はひど過ぎる。自分に出来ることは……?
「……出よう…。」
「「え?」」
発した言葉に、湊麻と凉さんは同時に聞き返した。
「ここから出よう?无稀さんと鏈さんは、明日が式なんだよ?凉さんは…それで良いの?」
「………。」
やはり、凉さんにも未練があるのだろう……表情を堅く、苦くした。
湊麻は、柔らかく笑って頷いてくれた。
「取り返そう、无稀さんを……!」
明日が勝負だ。