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ろくわんこ

第2部、工房編開始です。


犬を愛でつつ、瓢箪水筒を作りつつ、犬を愛でつつ、犬を愛でる予定です。まったりお楽しみください。

【sideセン】


 朝起きたセンは、朝食部隊(朝食を狩ってくることを仕事にしている早起きなわんこ達)が狩ってきた一角ウサギの焼き肉食べ、シロとモコを背中にへばり付かせてツメのマークの掘られた洞窟に来ていた。

 ツメのマークは、物品の加工を仕事にする犬が住む家、という意味らしい。口先が器用(手先が器用な犬は存在しない)な職人が住んでおり、この職場にはブルドックであるゴンゾウが居た。ゴンゾウのサイズは3m半くらいで、もちろん名前はセンが付けた。なぜこのような渋めの名前かというと、佇まいとか、鳴きバウッとか、なぜか石製の煙管キセルをふかしているとか、そういった全てから貫禄が滲み出していたから、である。いや、煙管ってあんた。いいのかそれで。


 とりあえず自己紹介を済ませ、シロとモコを頭の上の定位置に移動させつつ、仕事内容を聞く。

 するとゴンゾウは、貫禄ある渋い動作で、床に置いてあった瓢箪と3m程度のツルを、バウ と指さした。低く渋い声は、どこか安心する。


 (・・・えーっと?)


 指された瓢箪は、以前見た事があった。そう、ジョンが水を汲みに行った時に首にかけていた巨大瓢箪の小さいverである。そしてその隣にはツルがある。すると、なにか。つまり、


 「このツル使って、瓢箪を首から提げれるよう加工してほしい、って事・・・か?」


 バウッ。

 うむ、そうじゃ。と、頷くゴンゾウ。そしてゴンゾウは、おなかいっぱいだからか ぐでーっ とセンの頭の上でトーテムポールみたいに重なっているシロとモコを見やり、バウッ とひと鳴きする。

 その鳴き声を聞くや否や、シロはガバッと起きた。(下のシロが急に起きたため、上に居たモコが30cmくらい浮いた)そして、瓢箪に駈け寄り、全ての瓢箪を真剣な様子で、足先でつついたり小さな舌で舐めてみたり、瓢箪の口を覗いてみたり、口に頭を突っ込んでみて抜けなくなってジタバタしたりし始めた。おちつけ。

 シロはその後、ゴンゾウさんに体を にょいーん っと引っ張ってもらうことで、スポンという軽快な音と共に救出され、さらに瓢箪をいじりながら数秒悩んだ。そして、きゅい っと一声頷く。なにやら決定したのだろう、瓢箪の一つをハグッと口にくわえてセンの元に駈け寄り、 ぼく、これがいい!これがいいの! とセンに向かって目で訴えかけた。


 (・・・・・・ああ、なるほど。出来上がった一つ目の瓢箪は、シロにプレゼントして良いって事か。で、シロはこの瓢箪を使って欲しい、と。 集められたひょうたんとツタの数を見た感じ、今日のノルマはこの瓢箪達を全部作る事、かな。)


 尻尾を全力で振りつつ身を寄せてくるシロから瓢箪を受け取ると、センはシロの頭を撫でながら、ツルが置かれている方を指さした。シロは意味がわかったのか、今度はツルがたくさん置いてある場所に向かって駆けていった。今度はツタを選んでくるのだろう。

 さて、と。腰を上げ、センは行動を開始する。とりあえず、スタートダッシュに出遅れてトテトテと瓢箪に向かって歩いているモコを抱き上げ、瓢箪の前に移動する。そしてあぐらをかいて座り、股の上にモコを乗せた。モコは思わぬ特等席にご満悦である。


 よし、と一声気合いを入れると、センは瓢箪を4個手に取る。3つほどモコに渡し、一つを自分の顔に近づけ観察してみる。瓢箪を受け取ったモコは、早速吟味を始めているようだ。膝の上がモゾモゾくすぐったい。

 センが手に取った瓢箪のサイズは、モコやシロの半分程度のようだ。考えるに、おそらくこれは小型犬が使用するための物だろう。足下に残った瓢箪達を見ると、手に持った物より少し大きめのサイズから元の世界の大型犬にピッタリなサイズまであった。

 センは、モコが これがいいです!これでおねがいします! と差し出してきた瓢箪を受け取り、よくできたね、えらいねと背中を撫でる。そのときセンはふと、気付いた。この、たくさんある瓢箪の中に、ジョンが使っていたような異世界巨大犬用の大型瓢箪が無いのだ。

 もちろん、今日たまたま巨大サイズが無いだけかもしれない。しかしこの光景から、センは一つの事に仮説を立てた。もしかしたらジョンが使うような巨大サイズなら、大人になった超大型犬たちでも口を使えば作る事が出来るのではなかろうか。だから大型~小型サイズと違い、巨大サイズの瓢箪は必要量を確保できている。その結果、作る必要がない巨大瓢箪は、この場に無い。


 (うん。この推測は、あんがい合ってる気がするなぁ。)


 どのツタを使おうか真剣に悩み、引っ張ったり匂いを嗅いだりガジガジ味見をしたりと奮闘しているモコを眺めつつ、センは更に考える。

 つまり、太い縄やロープをくわえて太い穴に通し、力を合わせて引っ張って結ぶ、といったスケールの大きな力作業なら、(やっぱり苦手でやりたくはないだろうが)、口を上手く使えば巨大わんこでも作れなくはないのだろう。逆に、巨大わんこから見て手のひらサイズな瓢箪を、その大きな足で押さえて、大きな口で細いヒモをくわえて、更に細い穴に通して、そのあとで細い糸を頑張って操って結び目を作って・・・というような細かい作業は、できなくはないかもしれないが・・・相当辛い。少なくともやりたくない。


 (なるほどなー。つまり、当面の俺の仕事は、こういった子犬用の工作物品を作成すること、って感じになるのか。差し当たっては、水場に行かなくても水が飲めるという超便利な水筒から・・・と。 いやしかし、仮説が正しいとすると、構造が単純で大型なら、器用な犬が頑張れば作る事ができるのか。・・・うむ、言っちゃ悪いが予想外だ。その巨大犬ボディーで図画工作とか、ゴンゾウさんマジ職人。)


 目の前で煙管をふかし、しかし煙を子犬や客人へ当てないようさりげなく後ろを向いて吐き出しているゴンゾウさんを見る。今気付いたが、ゴンゾウさんの立ち位置が、部屋の奥から部屋の出口側、風下の場所へ変わっていた。ブルドック特有のシワに隠れて見にくいが、子犬たちを見る細い目は穏やかな光をたたえている。どうやらこの御仁、とんでもなく渋い御方のようだ。惚れて良いっすか。


 ふと足下を見ると、モコとシロがツタをくわえてGパンを足でつついていた。2匹とも目はキラキラと輝き、尻尾はパタパタと振られている。どうやらお気に入りのツタが見つかったらしい。

 膝の上に2匹を抱きかかえ、ツタを受け取りながら、なんとなしにアゴをくすぐってあげる。もふもふだ。


 (シロは白いツタ、モコは黒っぽいツタ、か。・・・うん、柴犬特有の茶っぽい体だと、2つとも似合いそうだ。俺から送るはじめての恩返しだし、今までの感謝を込めて、立派な物を作ってあげよう。・・・・・・って、おい。なんかこのツタ、唾液でネッチョリしてるぞ! おまえらまさか、徹底的に味比べしたのかw なんでいちいち味見するんだよw ツタの強度に味は関係ないだろうにw ・・・・・・まぁ、かわいいから許すけど。)


 べちょべちょになった手をGパンで拭きつつ、とりあえず2匹を腕で抱き上げ膝に乗せる。そして、 オシッ と一声気合いを入れると、仕事を開始した。センの真似なのか、膝の上から きゅーっ! きゅいっ! というかけ声が聞こえる。やる気三倍だ。


 (まずは必要なヒモの長さを計るために、シロとモコの身体検査かな。よーし、やるぞっ!)

 

 身体検査中にモフモフなってしまうのは不可抗力。仕方ない。そう、モフモフしてしまうのは仕方ないんだうへへへへへへー・・・。

 そんな不純な思いを抱えつつ行動を開始したセンを、ゴンゾウは細い、しかし優しい目で眺める。


 煙管から出た煙が、快晴の空へ昇っていった。

 きょうも、良い天気だ。

 かわいい系が来ると思ったか? 渋キャラだよ!


 仕事の合間の妄想では、ゴールデンレトリバーとかハスキーとかプードルとか考えてたのに、いざ書き始めたら渋いブルドックが出現しました。予想外すぎて困る。手が、手が勝手に・・・。

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