よんわんこ
出会いと最初のご飯編、修了。
【sideセン】
セン(人間)は、竈を囲むように置かれた椅子岩に腰掛け、木の枝の先に付けたウサギ肉塊を火で炙る。巨大兎の肉は鶏肉に近く、脂身というよりかは引き締まったタンパクが美味しい。岩塩を振りかけただけだが、素材の味が良いのだろう、センは久々の食事を全力で摂取した。
途中、シロとモコが串から肉を引き抜く作業に悪戦苦闘しているのに気付いた。後足で棒を挟み、口で肉を引っ張っているが、なかなか上手くいかないようだ。きゅいきゅいきゅーきゅー頑張っている。
それはそれで、かわいくはあるのだが・・・と思いながら、センは手に肉串を持ち、シロの前に持って行ってあげた。空腹だったのだろうか、目の前に差し出された肉に、はぐっ、っと噛みつくシロ。そして噛みついた後正気に戻ったのであろう、シロは肉をくわえたままセンの方に視線を向け、いいの?これたべていいの? と訴えてきた。抱きしめて良いっすか。
「いいよ、食え食え。手伝ってやるから。」
センはそう言うと、シロがくわえたままの棒を引っ張る。すると、串から肉がスポッととれた。シロは取れた肉をハグハグと食べていく。そして全部食べ終わった後、「つぎは?つぎのおにくは?」ときゅいきゅいセンを見るのだ。反則である。
センは、自分で食べるよりシロに与える事に夢中になっていった。
センの反対側には、ジョン(巨大柴犬父)が肉塊の刺さった丸太をくわえて座っており、肉を火で炙っていた。5mスケールの巨大丸太と1m四方のブロック肉は圧巻である。犬なのに器用に口を使い、丸太を回転させて火がまんべんなく行き渡るよう工夫しているのが小憎らしい。
ちなみにジョンは、カルラ達に蹴り飛ばされ木を五本くらいなぎ倒しながら吹っ飛んだにも関わらず、残念ながら無傷であった。さすがファンタジーである。センはもう考えるのをやめた。
しかし、焼く肉塊のサイズが大きいため、火が通るのになかなか時間がかかるようだ。長時間 待て を強要されたジョンの下では、あふれ出した食欲が水たまりを作っていた。
シロは現在、センの膝の上で餌付けされていた。センが焼けた串肉を差し出す度、カプッと食いつきハグハグと食べる。一心不乱に肉にかぶりつく姿はひじょうに愛らしい。
センはふと、悪戯心が沸いたので、噛みついた棒を持ち上げてみた。食い意地が張っているのか、シロは噛みついたまま離さないので、そのままシロが釣れた。ぷらーんぷらーんとぶら下がっている。
(・・・。)
だるん、とぶら下がってるシロと目があった。こころなしか、楽しそうである。
センが棒を揺らすと、シロも左右にプラプラ揺れた。尻尾がパタパタと揺れていたので、わりと楽しいのだろう。ちょっとかわいい。
そうして、シロを揺らしたり持ち上げたり回転させたり大車輪っぽい事をしてみたり楽しんでいると、ふと足に違和感があった。目を向けると、口に枝をくわえたモコが、「わたしも!わたしも!」とつぶらな瞳でこちらを見ている。尻尾とかもう全力で振っていて、なんて愛らしいんだ・・・。
焼けたお肉の付いた枝を一本持ってきて、モコの前に差し出す。あ、食いついた食いついた。そして持ち上げる。ぷらーん。おーおー、嬉しそうだ。
手に持った棒の先に噛みついた2匹の豆柴は、枝にぶら下がったままお互いにじゃれついている。ぺしぺしとお互いの体を叩き合ったり、押し合ったり。かと思えばお互い疲れたのか だるーん と休憩を取ったり。まさに、平和、であった。
センは、2匹が怪我をしないよう細心の注意を払いながら、じゃれあう様子をやさしい瞳で眺めていた。
【sideカルラ】
(この人間は、なんなのかしら。)
森でいつものように一角ウサギを狩っている最中ふと助けた人間を、カルラは眺める。
オスの人間族だ。人間族は、我ら犬神族の近いようで遠い隣人、である。
ここ数百年ろくな交流がなかったが、昔は共存していたらしい。しかし、犬神族の圧倒的武力を悪用し、または怖れたのか、大喧嘩になり、そのまま人間なんかだーいっ嫌いっ!ベーッだ! と犬神族は森に帰っていった・・・らしい。もう昔の話だ。今さらどうでも良いと思う。
また、交流が少ない理由として、犬神族は縄張りをあまり増やそうとしない事と、ただの人間族ではすぐに一角ウサギや格闘パンダといったモンスターに食べられてしまい森に深く入れない、ということが挙げられる。
そう考えると、目の前でシロの世話を焼いている人間がどうやって生き延びたのか、謎である。実はちょー強いのかしら。
(とりあえず食料を与えてみたけど、その独特な知性には驚かされたわ。「最近の人間族はマジ半端ねーよ姉貴ぃ!」 と、人間族の町に行ったサスケが言っていたけど、本当だったようね。)
自分の分のウサギ肉を焼きながら、物思う。
(まぁ・・・とりあえずは・・・。)
愛しい娘達が棒にかぶりついたまま振り回されてるのを眺める。この程度で犬神族が怪我をする事は無いのだが、人間は力加減を気をつけているようだ。やさしい男なのだろう。
(いい歳して嬉々として丸太をくわえて、自分もセンに振り回して欲しい! と頼もうとしているバカジョンに、愛の鞭をくれてあげようかしらね! あなた、体格差何倍だと思ってるのよっ!)
これが、家族全員でとった、最初の食事であった。セン曰く、とてもやさしい味だったようだ。
(8/1 表現を微調節)
まさかジョンがこんなにオチ担当になるとは・・・。
ちなみに、知性を持った獣たちは色々出てくるのですが、基本的に人間族と会話は出来ません。
あと、犬耳娘とかの、獣人もでてきます。ただし、あくまで人間ですので、獣たちとは会話できません。
次回でたぶん村に行きます。やっと話が進むよー。
感想お待ちしています。