いちわんこ
ついに書いてしまった・・・。見切り発車ですが、よろしくお願いします
(ここはどこよ・・・。)
水間セン(すいま せん)は、目の前に広がる密林を呆然と眺めた。
大学からの帰り道を歩いていた・・・はずだ。しかし、気が付くと密林に立っていた。ギャアギャアと鳥?の鳴く声が、森に響き渡る。
(意味がわからん。・・・わからんが、現状把握を後回しにして最優先で対処しなければいけない物は・・・無いようだな。)
命の危機も迫っていないし、まわりに大型の動物も居ないようだ。とりあえず、落ち着いて考える時間はある。センはそう考えると、自分の状態を確かめはじめた。
服は最後に着ていたジーパンにチェックのシャツ。持っている物は、いつも使っている鞄だけのようだ。鞄の中身は大学院生らしく、ノートPC・携帯電話・財布・iPod・イヤホン・筆記用具・雑多なプリント・ノート・参考書といったもの。どうやら、無くなった物はないようだ。
腕時計を見ると、18日の23時半を示していた。
(・・・俺が研究室を出発したのが18日の23時ちょいだったから、まだ10分も経ってn・・・っ!? 太陽がでてるだと!?)
慌てて空を仰ぐと、燦々と輝く太陽の姿が目に入った。要するに、時間は10分も経過していないにもかかわらず、日が昇る位置、つまり日本と地球を挟んで反対側まで来た事になるのだ。
(考えられる現実的な手段は、俺を気絶させて移動させた後時計を弄った、って辺りか。その辺りを確認する方法は・・・)
センは携帯電話を取り出し、いじりはじめた。日付は腕時計の時刻と同じ。これは簡単に操作できるので意味はない。電波は圏外。圏外という事は、日本でもそう珍しくないので参考にならない。他の物も、時刻を簡単に弄れる物ばかりなので、どうやら時計を弄ったかどうか確認する事は出来ないようだ。
(木の年輪で方角と緯度。夜星を見れば地球の南半球か北半球かわかるな。・・・まぁよく考えれば、漠然とした場所や方角が判ったところでメリットは無い。とりあえず現状確認はこの辺りにして、今後の方針だな。)
歩くか、留まるか。歩くなら何を目指すか。
とりあえず助けが来る保証が無いので留まるは除外。おそらく自分は遭難した感じだと思う。なら目標としては水を探すのが一番か。どうやらここは山ではなく平地の森のようだから、山と違って指針が無い。つまり・・・
(何を目指すにも指標がない。つまり、適当に歩くしかない。)
センはため息一つをつくと、論を詰めて考えた俺が馬鹿みたいじゃねーか、と思いながらも密林を歩き出した。
(犬だ・・・。)
あれから一時間程度歩いただろうか。今、センの前には一匹の柴犬が居た。愛くるしい目にフサフサの耳。どう見ても柴犬である。柴犬なのだが・・・
(でかい・・・。)
そう、でかいのだ。1m70センチのセンの優に2.5倍はあるだろう。愛くるしい外見そのままに大きくなったその姿は、純粋な野生動物の威厳を放っているように感じる。もし今ここで襲いかかってきた場合、ひとたまりもないだろう。センは被捕食者としての本能的な恐怖を感じたため、冷や汗をかきながら一歩後ずさろうとして
「わふ?・・・とことことこ。 ぺろり。 きゅーきゅー」
じゃれつかれた。
そう、たぶんではあるが、じゃれついて来たのだ。トコトコ歩み寄ってきてひと舐めしたあと、センを鼻っ面で押し倒したが、それもたぶん腕に鼻頭を擦りつけようとしただけだろう。アゴに舌でアッパーカットを喰らわせてきたのも、おそらく顔を舐めあげようとしただけであろう。鳴き声もガウガウバウバウではなく、わふわふきゅーきゅー言っていた。
だが、センから見たらどうなのだろうか。
なんか巨大な野生動物が現れて、無造作に襲いかかってきて(主観)気付いたら至近距離、顔を舐められた挙げく突進で(主観)押し倒され、大きな口をガバッと開けて(犬歯とか見えた)舌でアゴを痛打された。
(あ、俺死んだわ・・・。)
そもそも研究という激務開けで疲労も蓄積していたのだ。緊張に耐えられなかったのか、センは気絶した。
センが気絶から覚めた時、一番最初に感じたのは、ふかふかであったかい感触であった。
茶色がかった尻尾がセンの体にかけられ、体は柴犬のふかふか成分に包まれていた。極楽である。
寝起きのボーッとした思考で、ああここ天国かー。天国って、もっふもふでほっかほかだったんだなー、さすが天国だうへへへへー。とか考えている間に柴犬が気付いたのだろう。わふ、と一声鳴いた。
そして、それに返事をするように、1匹の巨大柴犬と2匹の豆柴(豆柴は普通サイズだった)がニュッとあらわれ、くわえていた巨大ウサギの死体をセンの前に置いた。ほれ、腹減ってるだろこれやんよ。食え食え。とばかりにセンの方に鼻頭で押す。
(あー、これたぶんウサギだよな。超でかいけど。むしろ俺よりでかいけど。で、それを俺の方に押すって事はつまり)
「食えってこと?」
わふわふ がうがう きゃんきゃん きゅーきゅー
センの問いに、四匹は軽く頷く。もしかしたらこの巨大柴犬とその子供(たぶん柴犬夫婦と2匹の子犬だろう)は、人間の言葉がわかるのかもしれない。
しかし・・・。と、センは目の前に差し出された巨大ウサギを眺める。この柴犬一家がセンに危害を加える気がなく、むしろ助けようとしている事は判った。そしてここが地球でない事も受け入れた(こんな巨大な柴犬は居ない)。だが、生のウサギを差し出されて食えと言われても、正直無理である。せめて火を通したいところだ。
「あー、柴犬の・・・何て呼べば良いんだろう、じゃあとりあえず布団になってくれた柴犬をジョン、うさぎを狩ってきてくださった柴犬をカルラ、かわいい子供をモコとシロって呼びますね。」
わふ がう きゅい きゅー
四者四様のかわいい返事に、あ、こいつら絶対日本語理解してるわ・・・。と思いながら、センは話を続ける。
「えと、このウサギ、大変嬉しいのですが、とりあえず俺は、生では食べれないと思います。」
わふ がう きゅい? きゅー?
あ、モコとシロは理解できてないっぽいぞ。小首をかしげちゃって、あーもーかわいいなーもー。
「なので、とりあえず火で焼こうと思うんですよ。」
わふ がう きゅいきゅい(トコトコスリスリ) きゅーきゅー(よじよじ)
あ、こらモコ体擦りつけるな。シロはよじ登ろうとするな。
「差し当たっては、ウサギの内蔵の除去と皮剥ぎなどの解体作業。薪を集めて竈を作る。この2つを行おうと思います。・・・って言っても人間じゃないしわかんなi・・・」
わふ(とりあえずツメでウサギを切り始める) がう(近くの枯れ木をくわえて集め始める) きゅいきゅい(スリスリペロペロ) きゅーきゅー(よじよじぷらーんぷらーん)
(あ、わかるのねー。理解しちゃうのねー。何でもありですねー。あと子犬2匹はやめい。特にシロおまえ自由すぎ。)
「じゃ、じゃあ頑張って作業しましょー。目指せ晩ご飯!」
わふーっ がおーっ きゅいっ きゅーきゅー(ぷらーんぷらーん・・・ポテッ。・・・ピェーンッ)
四者四様の返事を聞きながら、センは晩ご飯に向け行動を開始する。サバイバルという不安の固まりの中だが、腕から落ちて泣き始めたシロをあやしていると、何とかなる気がしてくるから不思議であった。
処女作です。アラや汚点は寛容な心でスルーをお願いいたします。
主人公の性格が、なかなか定まらないのが難しい。魅力有る人になーぁれっ!
(7/31改)