鴉、目を覚ます1
はじめまして。
近未来×超能力×警察。
絶対命令能力「鴉鳴」を持つ主人公と、無能力者の先輩刑事の話から始まります。
──「能力がない奴にも、勝ち筋ってのは、ある」
この一行を、覚えておいていただけたら嬉しいです。
1
2047年、5月17日、午前6時半。
黒島廻は、見たこともない景色の夢から覚めた。
真っ白な部屋。誰かが向かい側で、自分とまったく同じ顔をして笑っている。「メグル」と呼んだ気がする。あるいは、自分が「レイ」と呼んだのかもしれない。
──いつもの夢だ。
起き上がると、首筋にじっとりと汗が滲んでいた。窓の向こう、桔梗台の摩天楼の隙間から、灰白色の朝の光が差し込んでいる。今日もTBZは、能力者1万4千人と、それを知らないふりをして暮らす480万の人間で混雑している。
母の声が階下から飛んでくる。
「廻、朝食できたから、冷めないうちに食べてね」
「うす、いま行く」
階段を降りると、母──黒島燈は朝食をすでに並べ終えていた。
「夢、また見たの?」
「……なんで分かるんだよ」
「うふふ、母親だもの」
燈は笑った。だがその目の奥に、ほんのわずか、何かが沈んでいる。廻には見えない。見えないように、たぶん、ずっと前から沈められている。
「行ってきまーす」
「いってらっしゃい。……あなたは、特別な子なんだからね」
廻は靴を履く手を止めた。
「……それ、最近よく言うな。重いんだけど」
「あら、言ってた?」
「言ってた」
「忘れた」
母はけろりと笑って、皿を片付け始めた。
2
群影課──通称「カラスの巣」。
群青区の旧消防署を改装した、表向きは「特区警察 公文書管理室」。中身は、能力者犯罪専門の特殊課である。
廻が扉を開けると、朝礼はすでに始まっていた。銀髪ショートの女が、こちらを振り返る。
「8分の遅刻」
「課長、おはようございます」
「8分の遅刻」
「すんません」
「8分の遅刻」
「……」
廻は気まずさを噛み殺して、自分の席にすべり込んだ。
奏井透、26歳、警部、群影課長。クールで毒舌。机の端に置かれた古い結婚指輪は、もう何年もそのままだ。
デスクから顔を上げたのは、廻のバディ──東雲直毅。
「課長、たまには見逃してやってください」
「東雲が甘やかすから直らないのよ、こいつ」
「直らなくていいんですよ、廻は」
東雲は笑った。35歳、警部補、家族持ち、無能力者。彼の柔らかい声は、課のどこにいても聞こえる気がする。
奏井は欠伸混じりに、中断した案件を読み上げ直した。
「白雨埠頭でD級の能力者が暴れてる。倉庫1棟ぶっ壊して、人質1名。鴉号で出ろ」
「了解」
「黒島」
「はい」
「『鴉鳴』、5語以内、3回まで。守れ」
「守ります」
「東雲」
「はい」
「お前は無理すんな。能力者相手だ」
「了解」
東雲は微笑んだ。




