受け継がれた血統と、敵わない男
横で文字の練習をしているチャコを見る。
何度か記入して問題ないと感じたのか、彼女はさっさと書類にサインをしていく。
「ペリル、ちょっといいか?」
俺はペリルをチャコの部屋の反対側の部屋に呼び付けて少し話をする事にした。
「ペリル、防音頼む」
俺はペリルに指示をだした。
「ソージュ様、どうしましたか?」
彼は、パチンと指を鳴らし防音の魔法を使う。
ペリルは大概の魔術具を必要としない。ほとんどワンアクションで成立する。
——全く便利な力だな
「いや、ちょっとな。唐突だがペリルはチャコの事、実際どう考えている?珍しく気に入っている様に見えるんだ。先に言っておくが俺に遠慮はするなよ」
普段から遠慮なんて全くしない事は知ってるが、念の為な?
「何を言い出すのかと思えば……チャコですか?遠慮なくって元々僕は思った事しか口にしないですよ?」
遠慮しないのは当然のような態度だな?
「……そうだったな」
もう少し普段は遠慮しても良いと思うんだが……
「なんだろう?感覚的には妹って感じですかね?可愛くて、からかって虐めたくなる。勿論女性としても魅力的ですよ?好きあらは口説く位には」
前半は深く頷けるが、ちょっと待て。
「既に口説いていたのか?!」
そんなタイミングなどあったか?
「戯れ程度しかしてないですよ?だって本気出したら多分、ソージュ様より僕、先に手を出せちゃうし」
待て待て待て、いつの間にだ?
「……随分と自信あるんだな」
自分の顔がピクピク引き攣るのが分かった
「ソージュ様は人とあまり関わってないでしょ?だから知らないだろうけど……彼女は、男によって付けられた心の傷があるんです。
それによって、男に臆病になってるんだけど、実は女性は傷がある方が口説き易いんですよ。だから、今なら彼女は簡単に手元に落ちてくるんです」
沢山見てきたからこその言葉か……でも……
「そんな傷に漬け込むような事……」
なんか、酷くないか?
「だから本気は出してないんですよ?今はチャコには癒しの時間が必要なんです。彼女は未経験って訳じゃないから、肉体関係だけならむしろ簡単ですよ?」
ペリルは、簡単な事だと、あっさり言い退けた。
未経験じゃない。確かに色々慣れてるように感じる時もあったな。
簡単に流されて、俺の事を受け入れてしまいそうではあったが……
「そんな関係は……」
何が違うように思う
「さすがに僕もしませんよ。僕は彼女の傷を更に広げる気はないので。手を出せる状況でも、相手から求められない限りは出さないですよ。
ちなみに僕は、ソージュ様のお下がりでも、共有でも良いと思ってます。チャコへの気持ちと言われてもそのくらいですかね」
ん?求められたらペリルは手を出すのか?それはありなのか?ペリルなら大丈夫かもしれないのか?
お下がりってなんだ?俺を待ってるって事か?
俺は思考回路がまとまらなくなった。
「俺は、ペリルには敵わないと分かっている。彼女が幸せならそれでいいとも考えるが……でも、彼女が必要だし、必要とされたいんだ」
ペリルの事は、考えるだけ無駄なような気がした。ついため息がでる。
俺は自分の事で精一杯だ。
「ソージュ様の気持ちは理解しています。彼女が誰を選ぶのか、選ばないのかは彼女にしかわかりません。
たとえ一時、良い関係になったとしても、人の気持ちは移ろうものですし、そんなに慌てなくても良いのではないですか?」
そうかもしれないが、今は時間がないんだ。
「でも、魔王討伐後に、帰ってしまうかもしれないじゃないか!」
長くても2.3ヶ月しかないだろう
俺は、早くこちらを見て欲しくて焦っている。
「ソージュ様、それが本当に彼女の幸せならば、潔く身を引いて下さい。ご安心下さい。その時は、僕が忘却魔法を叩き込みます」
彼女の幸せ?その為に俺には……忘れろと?
「ペリルは平気なのか?!」
なぜそんなに平気なんだ!
「ソージュ様、自分の願いや気持ちを押し付けるだけが愛ではありませんよ。
彼女を愛するなら、そのままの彼女を受け入れ、たとえ身を切るような思いであっても、彼女の望みを叶えてあげるべきではないでしょうか?」
ペリルが俺の目をじっと見て諭す。
彼女の幸せの邪魔はさせないと、強い意志を持って
「ペリル……」
正直ペリルには驚いた。俺よりもずっと彼女をしっかり見ているじゃないか……
「僕は、チャコが帰る選択をしたなら、応援します。
彼女との楽しかった日々を宝物にして、彼女の幸せを、此方から願いますよ。
たとえ切なくて苦しい気持ちがあっても、それが彼女への思いなら、それすら愛おしい」
キッパリ言い切ったペリルを見て、こいつは本当にいい男だなと思った。
「ソージュ様、彼女に選ばれなかったなら、それは我々の、己の努力不足です。
私は、望んでいなくてもナトゥーアの人間です。
そして貴方は、誰よりも女神に寵愛されたナトゥーアの王族です。その誇りだけは忘れてはいけません」
ナトゥーアか……そうだったな
「……選ばれなかったなら己の努力不足か。ナトゥーアの考え方だな、全く嫌になるな。
ただ唯一を望みながら、ペリルとなら共有しても良い等と考えてしまう辺り、ナトゥーアの血だよな」
認めたくなくて目を背けて来たけど、納得できてしまうのは血筋的に仕方がないのかもしれない
「貴方は血統は元より誰よりも、ハーレムを築き上げた初代王と似ていると言われているのですから、女神の影響力もあり、一つの愛に固執するのは仕方がないのかもしれませんね?」
ハーレムの初代王、たった1人を愛する為にハーレムを作り上げた王か……
——理解したくなかったが
「……とりあえず、これから先努力してみるよ。チャコが此方に残って、時間をくれなければ、俺はペリルには全く歯が立たない。彼女が残ってくれるなら、俺じゃなくても構わない。ペリル頼む協力してくれ」
俺はまだ、ペリル程の領域には立ってないんだ
ペリル、実はソージュよりも好きになっちゃってますよね。お預けは出来るけど。
女慣れはしてるけど、本気の気持ちは初めてかも。




