今までありがとう
次回最終回
王宮でゲートの話を聞いた時からチャコの様子がおかしい。上の空というか、心ここに在らずだ。見ていて少し不安になり、話を終えた後、部屋を出る時に思わず手を握った。
「チャコ?どうかしたの?」
私は我慢が出来ずに尋ねてしまった。尋ねなければ良かったんだ。
「ペリル、今から栗の木に向かって?行かなきゃダメみたい」
チャコはそう言った後、何も言わずに黙っている。もしかして、聖なる栗の木に何かあったのか?
「分かった。急ぐなら転移しようか?」
栗の木にもしもの事があってはまずい。チャコなら俺と同質な魔力だから一緒に飛べる筈だ。
「うん、お願い」
チャコはなんだか魔力が不安定だ。やっぱり栗の木に何があったんだ。俺はチャコをしっかり抱きしめて聖なる栗の木の前に転移した。
転移した先では、栗の木の前にゲートが既に開いていた。ゲートの奥には見た事の無い建造物が見える。
「あ、私の家だ」
チャコが腕の中でつぶやいた時、ゲートの中に人影が現れ、こちらを見て驚愕した
「茶子?茶子!!叔父さん!!茶子が!茶子がいたよ!」
1人の青年が叫び、誰かを呼んでいる。チャコが細かく震えている。
「チャコ?大丈夫か?」
俺が尋ねても聞こえていない。ゲートの奥から年嵩の男性が現れた
「茶子!無事だったのか?!」
近づいて来るもゲートの結界に阻まれこちらに来れない様だ。
「・・・叔父さん、亮太・・・」
この人はチャコに色々教えてくれた叔父さんか?リョータとは誰だ?
「チャコ、ごめん!こんな事になるまで俺、気付けなくて!自分の事ばかりで、茶子の事ちゃんと見てなかった!茶子は我慢強いから、2年も一緒に居たのに、全然甘えてくれなくて相手にもされなくて、寂しくて浮気した。でも、俺、直ぐに後悔したんだ。俺が大事だと思って、好きだったのは、茶子だけだったんだ。目の前の事に囚われて大事な事が見えなかった。愛してるのはチャコだけだ。チャコ、頼む、やり直そう?だから戻ってきて!!」
あちらからは俺が見えないのだろう。だから勝手な事ばかり言うんだ。
「チャコ、亮太君はチャコがいなくなった日から毎日ずっと探し歩いて居たんだ。仕事も休みをとって今までずっと。彼から話を聞いたよ?確かに酷いと思うが、2人はすれ違っただけじゃ無いのか?ちゃんと話をしなかっただけだろう?今どうなってるのか叔父さんには分からないが、戻って来なさい」
そうか、この2人はチャコを愛してるんだ。俺よりもずっと長い時間をチャコの側で過ごしていたんだ。引きずる程愛した相手がチャコを求めている。俺はチャコの傷に漬け込んだだけだったな・・・
「チャコ、戻りたい?」
チャコが幸せになるなら、俺は身を引かなければならない。
「え?ペリル?「チャコ!ダメだ!一緒に居てくれ!帰ってこい!」
チャコが一瞬こちらを見たが、元彼の叫びに咄嗟にそちらを向いたその時、チャコの存在が少し薄くなった。
「俺は我儘だった。チャコの事が好きで大事だった。でもチャコはいつも俺に対して一歩引いて居たから、俺の事なんて、対して好きじゃないんだって、勝手に思って居たんだ」
チャコはトラウマがあったから一歩ひいていたんだよ?
「浮気も初めはチャコの気を引くための演技だったんだ。でも、あの時酒に酔って、その、間違いを犯して、バレて、ヤケになって別れるなんて言ったんだ。チャコがこっちを見てくれるならって」
酒か・・・お前は間違えたチャコを許せるか?
「戻ったからって、直ぐに付き合わなくていい。また必ず俺の事好きにさせるから、もう、間違えない!だから、俺のそばにいてくれないか?俺はチャコしか嫁にしたく無いんだ!」
チャコは彼をじっと見ていた。その目には涙が浮かぶも優しい眼差しだった。チャコは彼の言葉に誘われる様に俺から離れそうになり
嫌だ!行かせたく無い!!
俺はチャコを抱きしめる力を一瞬強めたが・・・
直ぐに俺は腕の力を抜いた。
引き止めるのは簡単なんだ。物理的にこちらに意識を向けさせればいい。力技でゲートから離れて仕舞えばいい。
でも俺は、チャコに自分の意思でそばにいて欲しいと思ってしまった。俺を選んで欲しい。強く思ったら、強引にチャコを引き止める事は出来なかった。
チャコは影が薄くなりながら、ふらふらと2人に近寄って行く。こちらを見る事は無い
多分、こちらの記憶は消えるのだろう。
辛い。言葉にならない。魂が引きちぎられる。でも、目を逸らす事はしない。俺が唯一愛した相手だ。
「チャコ、今までありがとう。自分で望んだ幸せを選ぶんだよ」
目一杯の強がりと愛情を込めて、チャコに言葉を捧げた。きっとチャコには聞こえて無いだろう。
ゲートが眩しく輝いたその時、チャコの声が聞こえて来た。
ペリルは有言実行します。どれだけ辛くても相手の意思を尊重します。
次回、最終回 大きな栗の木の下で です
チャコの決断を見届けて下さい。




