行倒れの魔族は魔王の第一補佐官だった
明日の投稿はちょっとゆっくりかもしれません
翌日、お昼頃私とペリルは昼食を持って捕虜の元に向かった。いつもはどうしていたのだろうか?
「シュピンネ達の食事はいつもどうしているの?誰か運んでいたの?」
私が尋ねるとペリルは
「前に来た後、一度容姿を見に来たんだ。その時に空間魔法の鞄に入れて渡したよ」
魔族はその時も泣きながら感謝していたらしい。
「少しは落ち着いて話ができる様になったかしら?」
多分、無理だろうな?と思いながら牢に向かう。牢の扉を開き中に入ると、捕虜達は何故か牢の掃除をしていた。
「あー、何で掃除をしているんだ?」
ペリルが尋ねると
「あ、お疲れ様です!我々世話になりっぱなしは落ち着かなくて、せめて掃除くらいはと思いまして」
シュピンネは牢の格子を磨く手を止めてピシッと姿勢良く立ち報告してくれた。
「・・・鍵は?念の為かけてあったよな?」
捕虜だもの、当然鍵をかけるよね?
「はっ!鍵はかかっていましたが、簡易的な物だったので一旦外して、清掃作業が済み次第また施錠する予定でした!」
それ、牢屋の鍵として機能してないわよね?
「・・・もう鍵はかけなくていい。元気そうで良かったよ。よく眠れた様だね?」
シュピンネの顔色はかなり良くなっていた。
「お陰様で、こんなに視界が良好な日は・・・いつ以来だろう?」
いや、聞きたくないわぁ
「とりあえず、君達に話しておきたい事があるからちょっと座ってくれないか?」
ペリルがシュピンネに伝えると
「集合!椅子をお持ちしろ!」
シュピンネがまるで級長のように号令をかけた
「こちらにおかけ下さい」
ペリルと私は用意された椅子に座る、魔族達は床に正座をした。
「・・・普通に座らないか?そのままじゃ足が痛くなるよね?」
床は石畳だ。かなり痛いと思う。
「いえ、我々は捕虜です。魔族として甘えは許されません」
キリッとした顔で言われてもなぁ、見ているこちらにダメージが来るんだけど
「うん、じゃあ命令。足を楽にして?」
魔族は驚愕の表情だ。いや、そんなに驚く事か?
「くっ、命令ならば仕方がない。おい、足を崩すぞ!」
シュピンネ達は気合い入れて足を崩したが、今度は姿勢の良い体育座りをしていた。大人の体育座り笑ってもいいかな?
「もういいや、ちょっと確認したいんだ。君達は魔王の支配から逃れることが出来るなら、魔王は生きていても良いと思えるか?」
魔族を支配する装置を破壊さえ出来れば魔族は自由になれる。魔王を討伐までする意味はあるのかしら?
「・・・魔王の支配から逃れる?そんな事が可能なんですか?支配から逃れる事が出来るなら、今の魔王はあまり強くないので恨みがある奴に倒されるでしょう。生死はどちらでもいいです」
むしろ生かした方が今までの不満な気持ちをぶつける事が出来ていいのかもしれない。
「分かった。ありがとう。とりあえず近いうちに魔王の捕縛と装置の破壊に行くけど、魔王は誰に引き渡したらいい?」
シュピンネ達は顔を見合わせて考えている。
「我々が本来なら魔王になって頂きたかった方がいます。今は魔王の第一補佐に付いていますが、あの方がいなければ早々に魔族は壊滅していました。今も魔族をギリギリで守ってくれています。でも、マハト様はかなり強いので支配が無くなるまでは近寄らない方が良いです」
第一補佐官か、実際はほとんどマハトが仕事してそうね?
「マハト?あいつは折角元気になったのに、結局戻ったのか?」
あ、もしかして前に聞いた行倒れの魔族?
「ペリル様、お知り合いですか?もしかしてマハト様を助けてくれた人間とは、ペリル様の事ですか?」
やっぱり、行倒れの人だ。頑張りすぎだよ
「まあ、そうなるかな?あの頃マハトはかなり危なかったけど、今は大丈夫なのか?」
同じ事になってないのかな?
「マハト様は戻って来てからかなり魔王に抵抗していました。元々能力が高い人です。体力が回復した事で冷静な判断力も戻り、今は魔王の目を誤魔化しながら我々を守ってくれています」
這ってでも仕事に戻ろうとした人だ。解放されて回復したら魔族の国は住みやすくなるだろうな
「元気にやってるなら良かった。マハトなら話が早いだろう。装置の破壊が済んだら会いに行くよ」
ペリルはマハトの事を気にしていたみたいだから、少し嬉しそうだった。
「ペリル様、コイツらをマハト様への伝令に使いませんか?マハト様が滞在する場に向かわせます。どこにいるか不明ですが3人いれば手分けして探せます。通信具を渡す事が出来れば連絡も可能になります」
内通者って訳ね?
「ありがたいけど、君達は大丈夫なのか?戻るのは嫌じゃないのか?そもそもバレずに戻れるのか?」
魔族達はヤル気に満ちた顔をしながら
「「「お任せください!」」」
と、訓練したかの様に返事をした。本当に魔族は素直で真面目だ。私はそんな魔族を見て早く解放してあげたいなと感じた。
「そっか、わかったよ。ちょっと待ってね」
ペリルは鞄からデザインの違う指輪を3個取り出してそれぞれに魔法陣を刻んでいる。
「え?もしかして、ペリル様自らの手で通信具を作られているのですか?」
シュピンネがペリルの手元を見て驚いている
「普通の通信具だとバレちゃうだろ?見た目の違う指輪なら首から下げてもいいしバレても形見だとか言い訳しやすいだろう?」
ペリルは通信具をさっさと作ってそれぞれの魔族に渡した。相変わらず仕事が早いね?
「とりあえずマハトへの連絡はお前達に任せたよ。受け取り次第連絡をしてくれたら助かる。渡すまでは互いの連絡手段に使ってくれていい。シュピンネは、まだゆっくりしなきゃダメだよ?暇なら本でも読むか?」
ペリルは鞄から本を数冊取り出して渡した。
「・・・ペリル様、可能であれば何か仕事をくれませんか?」
シュピンネは根っからの仕事人だった。
「何か、考えておくよ。それまではその本を読んでおいて?感想も聞くからね?」
ペリルにはシュピンネに仕事を与える気はさらさら無かった。
行倒れマハトはペリルにかなり感謝してます。何ならペリルはマハトの推しです。魔族に素晴らしい人が居たんだと名前は伏せたけど自慢していました。
トングはもう少しで一旦終了予定です。
もう少しだけお付き合いくださいね!




