大きな栗の木の下で
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更新は不定期になります。出来る時に頑張ります
【あらすじ、お話し→お話】ある晴れた秋の日のこと、大きな栗の木の下で小柄な女の子が、背中に哀愁を漂わせ、涙を堪えながら、栗を拾っていました・・・
私は、落ち込んでる時に彼氏に浮気をされポイ捨てされた。ようやく気持ちに折り合いをつけたのに・・・
昨日元彼が、家にあった荷物を
——わざわざご丁寧に——
浮気相手の女と一緒に届けに来て
「いつまでもうじうじと、まだ辛気臭い顔してるのかよ・・・」
と、トドメの一撃を喰らわされた女、茶子です。
気晴らしに自宅の裏庭で、栗拾いをしているけど、気が緩むと悔しくて涙が出てくる。
「沢山拾ったら、何作ろうかなー。キントンに栗ご飯に、モンブラーン」
無駄にテンションを上げた背中のカゴには
"イガイガ"が、ガサガサ音を立てている。
「わざわざ見せつけに来るなんて・・・ちくしょう、この栗を投げつけてやればよかった」
悔しさを忘れたくて、滲んだ涙を拭う
「大きな栗の木の下で〜♪あなたとワタシ〜仲良しコヨシー〜♪」
とやけっぱちで歌を歌い、栗拾いをしていると、ブワッとつむじ風が、落ち葉と共に舞い上がり、思わず目をギュッと閉じた。
風が止み目を開けた時、景色に違和感を感じたが、目の前の立派な栗に気を取られ、カゴいっぱいに栗をせっせと詰め込んだ。
「そろそろ、いいかな?」
カゴがいっぱいになったので、帰宅しようと
自宅を探すが、周りは全く見覚えがない。
「ここ、どこ?」
裏山に居たはずだ。山と言っても木の生えた小さな丘だ。迷う訳がない。
「あれ?家が無い?」
辺りを見渡す。いつもの栗の木はあるが、他の木は見た感じ裏山の木ではない。
困った事に、自宅に携帯を置いてきてしまった。
今手元にあるのは、栗がいっぱい入った籠と、栗を掴む分厚い皮の手袋と、栗拾い用のトングだ。
「どうしよう・・・迷った?」
何なら、顎の下で縛れる麦わら帽子に手縫いを挟んで被り、足元は栗の針に負けない頑丈なゴム長靴を履いている。
栗拾いスタイルフルセットだ!
何が起こったのか分からず、途方にくれていたら、遠くに馬が走っているのが確認出来た。
———馬が走っている
しかも西洋の甲冑がその馬に乗っていた。
「なんで・・・馬?」
複数名乗っていた。まるでお話に出てくる騎士団の様だった。
「意味がわからない」
人が居た。でも、コスプレ集団だし、馬に乗ってるし。
栗折角拾ったのに。これじゃ栗ご飯も、きんとんも作れないじゃない。
———-もう、踏んだり蹴ったりだわ
「どうしようかなぁ、なんかおかしいよなぁ」
どうして良いか分からず、ただ立っているのもなんだしと座れる場所を探した。
足元には小枝と小石がゴロゴロしてるから腰掛けやすそうな石を探して座る事にした。
座った所で何も変わらず
「神隠しかなぁ・・・」
なんて呑気に呟き現実逃避をする。
目の前に広がるのは草原。後は栗拾いの山
帰りたいのに帰れない。
しかも暇だ。足元の石ころを数えるくらい暇だ。気分は賽の河原だ。
「え?もしかして死んでるの?」
栗拾い中に?つむじ風に飛ばされたっけ?
声にならずぶつぶつ言いながら小石を並べる姿はかなりの怪しさだ。誰も見ていないから良いのだが、今は誰か居てくれと思う。
「困ったなぁ・・・」
石を並べるのに飽きたから、石でも投げるかと、1円玉位の小石を手に取り軽く草原に向かって投げたら
シュパーン!!
200メートル位遠方で爆発したんだけど・・・
「は?・・・まさかね?」
もう一つ、今度は野球ボール位の石だ。
「ピッチャー振りかぶって、投げましタァ!!」
ゴォーッと風切り音が鳴りその後地震が起き、同刻
ズガーン!!
と爆発音がした。何故、石を大きくしたかって?なんとなくだ!あの爆破は私のせいなのか?だとしたらなんだ?
「な?何これ?」
こんな力メジャーリーガーもびっくりだし、野球が命懸けのゲームになってしまう。
そんな事はどうでも良い。この状況、誰か説明してくれ!と思うも誰も居ないんだよな・・・
何かが違うのは分かった。他に何か違いはあるかな?何したら分かるかな?
「とりあえず・・・」
とりあえず、さっき座っていた石叩いてみよう。まずはノック程度から
「もしもーし」
———コン
"グシャァッ"
ワンノックでした。いよいよおかしいよなぁ石が柔らかいのかな?場所を移動して石から岩に昇格した。
「もしもーし」
——コンコ
"バリグシャァッ"
・・・再びでした。
「んーこれはもしかして、いや、そんな訳無いか」
座る石がなくなって(破壊した)しまったから
座るにも力試しでも違う物を探す事にした。
とりあえず目についたのは直結50センチ程の木
手にしていたトングで
「フン!」
と木の前で木に触らず素振りで横一線を引いたら・・・
ズズゥン!
大木は綺麗に切れました。切り株に座れそうです。どうやら、私は失恋で頭がおかしくなったのか、はたまた、おかしな世界に来てしまった様です。
「私が変なのかしら?」
ふと、自分の手が頑丈になったのかと思い
背中に背負っていた籠を切り株に起き、いが栗を一つ手にして、直接突いてみたらトゲトゲがぐにゃりとゴムの様に曲がった。
今度は切り株にポンと落としてみたらサクッとかなり深く突き刺さる。
「どんな構造してるのよ?本当に栗?」
不安になり、籠の中伏から下は自宅裏の栗であるのを思い出し、先程トゲトゲがぐにゃりと肌を避けたのを良い事に、えい!っと籠の中に手を突っ込んだ。
「全く痛くないわ」
出来るだけ下の方に手を入れるも、下の方の栗も刺さらない。
「物質が変化してるのかしら?」
昔あった空想の産物
『どこにでも行けてしまう空間移動のドア』は科学的に、空間移動の際は肉体が、原子レベルに分解されて、再構築される的な話だったかな?
「移動する時、栗と私の遺伝子組み換え間違えちゃったのかな?」
変化した?向こうの世界の物がおかしいのかな?手に持つ栗拾いトングを見る。柔らかいのかしら?と倒れた木に当てて見ると
「まるでゼリーを切るようだわ!薄切りも、向こうが透ける程の切れ味?通販の包丁?」
栗拾いトング、どれだけ優秀なのよ。
ふぅーと息を吐いて自分の置かれている状況を理解する。
「転移だよね、これ」
困ったなあ・・・切り株に座り、どうするべきか考える。けど良い考えは全く浮かばない。
とりあえず今起きたことの意味がわからなさすぎて、失恋に対してはスッパリ忘れ去っていた。
「暇だしとりあえず、栗でも剥くか」
トングで倒れた木を座りやすいサイズに切り出し、それを椅子の代わりに持ってくる。
「木の塊のはずだけど、重さを全く感じないわ」
切り株の側に下ろすと、ドサッと重量のある音がした。
「重さが無くなった訳ではないのね」
とりあえず切り出した丸太に座り、切り株をテーブル代わりにこんもりと毬栗を積み、
片っ端からみかんでも剥くように素手で栗を剥く。剥いた栗を次々と籠に入れていく。
10分もかからず栗は剥き終わった。
栗の木の下に戻り、まだ落ちている栗も剥きながら拾い、辺りはイガイガだけ残った。何か、手先がやたらと器用にもなってるし、目も凄く良くなってる。
「わぁ・・・なんか、凄いわ?」
いつまでも切り株と栗で遊んでる場合じゃないよね。
「よっこらせ」
重くはないが、籠を背負う時ついつい言ってしまう。
「一旦、移動して見るか」
籠の上部に剥いた後のイガイガを日焼け防止に隙間なく詰める。イガイガ同士絡んで良い感じに蓋ができた。
どこに向かうべきかと遠くを見る。
遠くを見る、遠く、遠く、遙か遠く?
「どこまで見えるのよ、カメラのズーム機能かな?や、天体望遠鏡クラス?」
ピントを固定してそのままゆっくり視界を移動すると、障害物があるのか何も見えない。
ゆっくりズームアウトして行くと見張り台?
櫓の様な物が見えた。
「誰がいるわね?」
上部を確認すると人が3人ほど居る。見張りの兵士かな?ピントはそのまま更にぐるっと見渡す。後は森だから一旦捨て置く。
「・・・兵士?」
もう一度見張り台周りを見るとそこには簡易宿舎の様な物がある。そこには沢山の兵士が何だか慌ただしく武器を手にして右往左往している。
「何かあったのかしら?」
自分のいる位置を少しずらして、もう一度見つめるとそこには、山の様なサイズの猪がいた
「ここ異世界だわ」
妙な納得をしてしまい、自分の置かれている状況に思いをはせる。やたら強い腕力、はるか遠くを見れる瞳、無駄に強化されているのがわかる。
「勇者召喚に巻き込まれた転生チート?」
栗拾ってたのに?視界は山のような猪を捕らえたままだ。兵士たちはあまりの大きさの違いから手こずっているように見える。
面倒ごとに巻き込まれたくはない。正直関わりたくない。かすかな希望をもって周りを見ても援護はなさそうだ。
「見放すのも寝覚め悪いし手を貸す?」
しかし、目立ちたくないし能力バレしたくない。
「そうだ!」
走ってさっき切り倒した木の元へ行くと、トングでチョット先の尖った長めの槍のようなものを3本ほど作るり、山のような猪が見える位置へ移動して
猪の頭に向かって「えいっ!」と投げた・・・
私の実家は弓道場を運営していた。
物心ついたころから弓を触っている。大会も、何度となく好成績を残した。
何ならダーツも得意だし、陸上部の大会で頼み込んで槍投げにも参加したけど槍投げは的がないからかちょっと違った。
「よし、いい角度!」
昔から、的あてなどに、なぜか心が奪われた。血筋かな?自室の壁にダーツ練習用が設置してあるし、毎日とにかく的に向かって何か投げていた。
2本目も投げるかと構えた時、
スガン!ドゴーン!!
と、時間差で"さっき投げた槍"の衝撃による爆発音がした。土煙が立ち込めている。目を凝らすとそこには爆散した何かが見えた・・・
すっと目をそらした。だってグロいし、多分血液?紫色だったし。この世界にはあのような生き物が他にもいるのかな?あれは特別だった?
「槍せっかく作ったのに・・・余っちゃった」
重さも感じないし、折角だからと背中の籠に突き刺して持参しよう。他に同じのいないかなとズームアップして行くと不思議な感覚になった。
目的を持って探すと何故か障害物が透けて見えるの。
いたよ、山猪。勝手に名前つけたよ。
人は周りにいないけど、木や丘が邪魔でダーツの軌道では土地がえぐれて道が出来る未来しか見えない。
「・・・ついでにアレもやる?」
山猪は2時の方向30kmほど先に一匹と4時の方向15kmに一匹。背中の槍は2本。
丁度よい。籠を下ろし、槍を手にして槍投げのポーズ。アーチを計算して2時の方角の天空に1本。角度を変えて4時も方角にも1本的に向かって投げた。
「遠いけど、的は大きいから大丈夫でしょう」
“よっこいせ”と籠を背負う。
「さっきの兵士たちのところへ行こうかな?とりあえず世界観が知りたいし・・・」
ときっとまだ片付けの最中だろうからゆっくり向かおう。と歩き出した頃、忘れていた衝撃がやって来た。
ボカーン!グラグラ
近場の山猪の位置では、地震も起きたよ。高さがあったから仕方がないね
遠くで、でゴゴゴゴゴゴゴって音もする。2本目に投げた物かも知れない。念のため山猪を探るとどうやら居なくなったようだ。
しっかりとは見なかったよ?だって血みどろなんて怖い。
———とりあえず、
鎧の騎士のいるところへ行こう。
———この選択は、チャコの運命を
"大きく変える出会い"の始まりだった——
はじめまして、読んでくださりありがとうございます!
これから、チャコとイケメン達とのちょっとズレた恋愛模様が始まります?シリアス回やちょっとウフフなお話も。ちょっと長い話ですが最後まで楽しんで頂けたら嬉しいです。
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