紙飛行機は空の…上?!
「学歩は紙飛行機作るの、下っ手くそだなぁ! すぐ落ちるじゃん」
「もうそれ、ネタだろ? ここまで進歩しないのは、珍しいもんな」
校庭で、囃す声が響く。
手を離した直後、地面に激突する。
織田学歩の折った紙飛行機は、絶望的に飛ばなかった。
作り方を丁寧に教えても飛ばない。
もしや手首のスナップに問題が?
「何でだろう……」
落ちた飛行機を拾い上げながら、学歩が首を傾げる。
「おっ、何? その絵」
学歩の紙飛行機に描かれた、辿辿しく歪んだ線を見て、一人が尋ねた。
「え? ハムスター。うちで飼ってて可愛いから」
「ハムスターには見えないって。絵も壊滅的とか、学歩は不器用の王様だなぁ」
「てか、ハムスターは飛ぶ生き物じゃないぞ。だから飛行機飛ばないんじゃないか?」
「せめてモモンガとかにしとけよ」
口々に声があがる。
どこまでも高い空の下、いつまでも賑やかな昼休み。
そんな小学生時代をふいに思い出したのは、テレビの中の宇宙飛行士が、紙飛行機の映像を紹介していたから。
(そういやいたな。紙飛行機がすごく下手だったやつ)
小学校を卒業し、中学、高校、大学、そして就職。
地元で遊んだ仲間はバラけ、誰がどこで何をしているのか。疎遠が過ぎて、まるで知らない。
(同窓会とか滅多にないもんなぁ)
小学校の同窓会は特になく。現在会っても、誰だかわからないだろう。
仕事で疲れた体を椅子に沈め、手元のコーヒーを口に運ぶ。
家のテレビでは、宇宙飛行士の解説が続いていた。
「宇宙では重力がないから、浮かぼうとする力だけが働くんです。結果、上に向かって宙返りを繰り返します」
宇宙飛行士の手から離れた紙飛行機が、滑車を回すハムスターのように弧を描く。
(へえ。宇宙だと、紙飛行機って落ちないのか)
感心して眺めていると、飛び続ける紙飛行機を宇宙飛行士が止め、手に取った。
「長く飛ぶでしょう? いたって普通の紙飛行機なんですよ」
そう言いながら、彼が手の中で紙を広げて見せた。
「学歩!?」
思わずガタリと立ち上がる。
飛行機には、歪なハムスターの絵が描かれていた。
すごく、見覚えがある。
「あいつ、絵が全く進歩してない……っ。ははは!」
仲間の快挙に痛快な気持ちが湧きあがり、思わず笑いが零れた。
──僕きっと、紙飛行機を長く飛ばしてみせるよ──
昔、言ってた気がする。
「それで宇宙で紙飛行機飛ばしたってか。凄すぎんだろ」
紙飛行機がド下手だった友達は。
空の上で、紙飛行機を飛ばす男になっていた。
お読みいただき有難うございました!
宇宙だと延々飛んでるイメージがある紙飛行機。
それで一作書こうと検索したら、"宙返りを繰り返す"って出てきました。
「そうなの?」と驚いて調べたら、揚力だけが発生するので縦の運動だとぐるぐる舞い、横の力が加わるとまた違った結果になり。
まっすぐ飛ばそうとするなら、尾翼を調整して迎え角にすれば、揚力出なくて水平に飛ぶって……。
ややこしいわぁぁ!( ;>∀<) 私、物理とか理科の話になると、まったく頭に入ってこないんです。重力、浮力、揚力、お手上げです。
だから作中に「こうはならん」というミスがあったらごめんなさい!
・ ・ ・
うまく出来ないことは、舞台を変えたらうまく行くかもよ。
その舞台は自分で掴みとっていくんだよ、と頑張った学歩君でした。
なろうラジオ大賞参加、二作目。よろしくお願いします。