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勘違い

生真面目警察官

作者: ルーバラン

ふぅ……今日も事件の進展はなかったか……。

何か新しい情報がみつからなければ、このままではこの事件は迷宮入りしてしまう。


「おう、村田。お疲れ。どうだ、今日当たり一杯いかねえか?」


「は、申し訳ありません。事件の解決の糸口がつかめるまではちょっと……」


「かてえなあ……たまには息抜きしねえと、体ももたねえぞ。目撃者がいないひき逃げ事件の犯人なんて、早々簡単にみつからねえよ。幸い、被害者も怪我はしたが、死なずに済んだんだ。根詰めすぎてお前が倒れちゃ意味がねえぞ」


「いえ、私は犯罪に大きい小さいはないと思っております。どんな小さな犯罪でも時に人を傷つけ、もしかすると被害者のその後に大きく影響を与えてしまうかも知れません。そんななか、気を抜くことなど出来ません」


「はいよ、了解了解。それじゃ、俺は帰るよ、お先にー」


「はい、お疲れ様です」


そう言って先輩は帰っていった。

……しかし、どうするか……このまま署にいても、いい情報が集まってくるとは思えない。しかし、聞き込みにまわろうと思っても、この時間だ。明日にならないとできないだろう。

しょうがない、今日はさっさと家に帰って途中で飯を食って、明日に英気を養うか。






「あいよ、トンカツ定食お待ち!」


「ありがと、おばさん」


「おばさんは余計だよ! どうせならお姉さんっていいな!」


ガハハと屈託なく笑いながらドン、と盆を置く……まったく、あのおばさんは相変わらずだな。

テレビをのんびりと見ながら、ご飯を一口食べる。ニュースでやっているのは内閣の言動の揚げ足取りや、芸能人のスキャンダルといったどうでもいいニュースばかり。地方のひき逃げのような小さなニュースはテレビではやらないんだよな。


「……なあ、この前のはかなりやばかったよな……まだばれちゃいないようだが」


定食屋のがやがやとした喧騒にまぎれて、怪しい声が聞こえた……ちょっと聞いてみるか。後ろに座っているのは2人組の男か。


「ですね、でもばれたら絶対にやばいですよ……。くそっ、姐御ってば、汚れ仕事ばっかり俺らに押し付けやがって。吉見先輩、あの車どうしましょう?」


「しっ、声がでけえよ。誰かに聞かれたらどうするんだ! 姐御の耳まで届いたら一環の終わりだぞ!」


車だと!? これはもしや、こいつらひき逃げ事件の犯人か!?


「大丈夫っすよ、吉見先輩。こんなところで誰かが聞いてるわけありませんって。この辺は姐御も来ないはずですし」


「そうか、それならいいけどな」


残念、この私は聞いている。お前らひき逃げ犯の言動を、一言一句聞き逃さずにな。しかし……警察よりも怖い姉御とは一体誰なんだ?


「それより吉見先輩、どうしますか? 早めに証拠隠滅しとかないと、見つかったら俺らの首が飛ぶっすよ!」


いや、ひき逃げでは残念ながら、死刑になる事はないが、よかった。とりあえずこいつら、まだ証拠は隠していないようだ。今ならまだ間に合う。だが、こいつらの話を聞く限り、いつ証拠を消されるか分からないな。


「慌てるな、そうそう簡単に気づかれることはないだろう……どうにか延々とごまかし続けるというのも手だ」


こいつら、時効まで逃げ切る気か!? くそっ、まだ決定的な証拠が出てきていない。この2人の今の発言だけではしょっ引くのは難しい。

車の在りかさえ分かってしまえば、後は家宅捜索でもなんでもして、ひき逃げを起こした時の決定的証拠を見つけ出せるというのに。

このままここでこの2人の会話を聞いていても仕方がない。ちょっと探りを入れてみるか。


「なあ、ちょっといいか?」


俺は振り返って後ろの席に座っていた2人組に声をかける。


「んあ? なんだおっちゃん」


突然声をかけられて面食らった顔をしているけれど、吉見先輩と呼ばれていた方の男が返事をした。


「ちょっとさっき話してた車について聞きたいんだけど」


ビクビクッと2人揃って反応した。これは……黒だな。こいつら、絶対隠してやがる。


「いや、ついつい2人の話が聞こえちゃったんだけど、俺、うまーく証拠消す方法知ってるんだ。だからさ、力になれればと思って」


もちろん嘘だ。本来なら、これでいきなり信用しろというほうが無理だが、この2人は明らかに焦ってる。もしかするとくらいつくかもしれない。

……もう一押ししておくか。


「姐御に知られたくないんだろ?」


「ちょ、やばいですって吉見先輩! このおっちゃん、姐御と知り合いっすよ!? ばらされたらどうしましょう!」


「ちっ、まじかよ。姐御のやつ、こんなおっさんと知り合いなんかよ」


「ああ……だからこんなところで話すのまずいって言ったのに。よりによって姐御の知り合いのおっちゃんなんかに聞かれるなんて」


「ちょい待て! お前はここでなら話してもいいって言っただろうが。おっさんに聞かれたのはお前のせいだぞ」


……おっさんおっさんて……俺はまだ24だ。お前らより多分ちょっと年上なだけだと思うんだが、せめてお兄さんといえ。まあ、今はそんなことどうでもいいか。


「でだ、証拠消す手伝いをしたいんだが。どこに車があるか教えてくれないか?」


「せ、吉見先輩! このおっちゃんに助けてもらいましょうよ!」


「あ、ああ……そうだな。今、車は俺の家の車庫に隠してある。誰も入ってこないよう鍵かけてな」


……犯人の家とは。隠す気ゼロじゃないか。まあ、いい。まずはこいつらを重要参考人で署に連れて行く。


「あのさ、今からちょっと署にご同行願えないかな?」


『……は?』


見事なハモリ方だな。


「俺、実は警察なんだよ。証拠は消すんじゃなくて見つけるほうが本当の仕事。さっきの話しもっと詳しく聞きたいから、ちょっと一緒に来な」


『……は!? いや!? ちょっと待て!』


……2人揃ってすっとぼけやがって。後は捜査令状を手に入れて、物的証拠を見つけるだけだ。










「……ここがやつの家か」


やつらから聞き出して、証拠である車を……ようやくこの事件も解決だ。


「あっれ? おじちゃん、吉見兄ちゃんの友達?」


呼ばれたほうを見ると、10歳くらいのツインテールの女の子がちょこんと立っていた。棒付キャンディーをぺろぺろとなめながら、俺を見上げている。

それにしても、あいつは兄ちゃんで、俺はおじちゃんか。納得がいかない。


「……ん? いや、そういうわけじゃないが。ちょっとこの家に用事があってな」


「あ、そうなんだー。私も用事があるんだよ」


まあ、捜査の邪魔にならなければいいか。とりあえず、車庫、車庫……吉見というやつから手に入れた鍵を開けて……。


「さあ、車だ! 決定的証拠とのご対面だ! ……は? え? はあ!?」


……目の前にあるのは、車、車、車、車、車と車が5台……だが、ただの車ではない。足でコキコキと押して乗る車、電動式の車……どれもこれも子供用の車だけだ。


「ああ! 私の車があ! 何なのこの色お! 吉見兄ちゃんんんんん! 覚えてろお!」


「は? はあ!? はああああ!?」


「え? どうしたの? おじちゃん?」


いや、ちょっと待てよ!?


「ねえ……君、もしかして姐御?」


「ちょっと! 私の事姐御って言わないでよ! ああ、それも吉見兄ちゃんだなああ! 絶対ギッタギタにしてやるう!」


……ええと、何がなんやら分からなくなってきた。このちっちゃいこが姐御なの?


TRRRRR、TRRRRR……。


な、なんだよこんな時に、頭がパニック起こしてるってのに!


「はい、もしもし」


「こら村田! 今お前どこにいやがる!」


「へ? ひき逃げ犯人の証拠物件を押さえに容疑者の自宅に……」


「はあ? てめえ! ついさっきひき逃げ犯人は自首してきたよ! お前が勝手に拘束しているあの2人組は一体なんなんだ!」


「え、あ、えと? 犯人が自首? あの2人組は? それじゃ誰?」


「知るか! てめえ、誤認逮捕してやがったらただじゃすまさねえかんな!」


……あーうー、な、何が一体どうなってたんだ?








結局、彼ら2人組みは、事件とは何の関係も無いただの一般人であった。車というのは、姐御の乗り物のおもちゃのことであった。

2人揃って姐御の舎弟状態に何故かなっているらしく、車の色を全身汚れながら変えている最中に、失敗して、びくびくしていたのだとか。結局ばれてしまったが……彼らにはとても申し訳ないことをしてしまった。

誤認逮捕してしまった自分……これからどうなるのか。本日、上官に呼び出され今まさに上官室のドアをノックするところだ。ただド叱られるだけならまだいいんだが……。


「失礼いたします」


……今日1日、耐え切ることが出来るだろうか。


この話はコメディーなので『警官』『ひき逃げ』とあるのに、なぜか『ほのぼの』のタグが入ります。

誤認逮捕してしまった警官は、一体どうなるんでしょう?


誤認逮捕しないよう、頑張れ警察官。


それでは。

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