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第八話 残された謎を追って。

「さて、次はどこへ向かいますか?」


 事件から1ヶ月経った。警察は犯人死亡でこの一連の事件を終わりとした。ただ、玉川としては納得できるはずもなく、取材という名の捜査を継続していた。違うのは隣にいる人物だ。


「とりあえず、近くの喫茶店にでも行こう。」


「了解。」


 カフェを提案してこないのも、阿吽の呼吸で話が進むのも付き合いの長さによるものだ。川井は玉川好みの喫茶店を提案し、歩幅を合わせて歩いていく。



 事件はマスコミで大きく報道された。警察の捜査や当日の行動は賛否が分かれたが、大きく叩かれることはなかった。吉川刑事の葬儀が無事に終わった頃、木村が突然辞表を書いて警察を去った。川井が引き止める暇もないほど風のように去ったらしい。



「青葉も吉川さんのことがショックだったと思います。」


 喫茶店で川井はつぶやいた。どう見ても川井が一番ショックを受けているが、それはあえて言わないでおいた。


「記者にならないかと勧誘してはみたが、『ゆっくり休みたいので、しばらく考えさせてください。』だったからな。」


 そう伝えると、川井はこちらをジーッと見つめて言った。


「玉さんも青葉の方が良かったんですね。私より。」


「そんなこと言ってないだろ?あいつが記者に向いてるって言っただけだ。」


「ならいいんですけどー。」


 酔っているわけではないのにこの感じなのは木村の影響だろうか?玉川はため息をついた。


「で、話を戻します。玉さんの今の考えを教えて下さい。」


 この感じも木村に似ている。とか言ったら怒りそうなので玉川はそのまま話を始めた。


「事件前の謎が全く解けないのに、さらに謎が増えた。一つ一つ答えを探しているが…。」


「それを私にわかるようにお願いします。青葉にしたときよりよりもわかりやすく。」


「わかった。まずこれを見てくれ。」


 玉川が見せたのは事件のとき道路の電柱に取り付けたカメラの録画映像だ。川井には捜査に関する映像を全部渡していたので、川井は前に一度見たこともあり早送りしながら内容を確認した。


「何も映ってないですよね?これ。」


「ああ。何も映ってない。」


 玉川の答えに川井は「バカにしてます?」という目をした。玉川は次の映像を見せた。それはさっきのカメラを設置してから川井と合流するまでの映像だ。


「井ノ上さんを刺した犯人が走っていく方向以外、私にはわかることがないのですが。」


 川井は映像を真剣に見ながら答えた。


「さっきの映像は隣の道の犯人が走ってくる向きとは逆方向で、カメラの後ろ側に犯人が入ったビルがある。今見ているこの映像には一本隣の道から犯人だけが道を曲がったことがしっかり映っている。だとしたら絶対に映っていないとおかしいものがある。」


 熱血で猪突猛進タイプだが頭は悪くない川井は少し考えて答えにたどり着いた。


「吉川さん。吉川さんが映ってない。なんで?」


「そう。吉川君が映らないはずはないんだ。しかもその後の無線では犯人を特定してビルに入っている。井ノ上先生が刺されたこの事件を見てない限りビルに入った怪しい人物を犯人だと断定なんてできないはずなんだ。吉川君はどこにいたんだ?」


「確かに…。」


 川井はそうつぶやいて考えている。それが一段落したのを確認して玉川は話を進めた。


「もう一つの謎はこの映像のこの部分だ。」


 玉川は映像を犯人と遭遇した場面まで巻き戻した。


「このとき犯人はこの男に刃物を突きつけたが刺さなかった。だが止めに入った井ノ上先生は刺した。」


「確かに。両方刺すか、両方刺さないが自然ですよね。しかも井ノ上さんは通り過ぎる瞬間に躊躇なく刺してる。これって井ノ上さんを刺すことは最初から決めていたって感じですよね?」

 

 玉川は頷く。この点が玉川を一番悩ませている問題だった。


「そもそも先生がこんな時間にこんなところにいることが不自然だ。犯人に呼び出されでもしない限りありえない。」


「まさか、井ノ上さんは犯人と知り合い?」


「ないと信じたいが…。」


 驚く川井に玉川はそう答えることしかできなかった。ないと思いたいが、知り合いであった方が説明がつくことが多すぎる。


「次の謎はお前も気づいていることだと思うが…。」


 玉川が視線を向けると川井は大きくうなずいた。


「『吉川さんがなぜ死んだのか?』ですよね?」


「ああ。お前も含めあの場にいた警察官は全員防弾チョッキなどを着ていた。それでなくても犯人が心臓を狙うことは想像できる。吉川君ほどの人物ならなおさらだ。なのに吉川君は何も準備せず、心臓を刺された。しかも吉川君は発砲し、犯人を射殺している。少なくともあの時のお前と同じで銃を撃つ覚悟はしていたはず。なら、刺されずに相手を撃てているはずだし、なおさら心臓を刺されないようにしたはずだ。」


 川井は黙って頷く。吉川君の能力を誰よりも知っている川井だからこそ誰よりも納得していないはずだ。


「そして最後の謎はあの爆発だ。前回と全く違う。警察を撹乱するためなら、そもそも犯行声明なんて出さなければよかったはず。しかも1回目の爆発はただの爆発だった。」


「そうですね。捜査の結果、爆発は1つ目は時限式だったみたいですから。二つ目の爆発では被害者の車はその場で爆発させたのに。意味がわからない。」


「2回目の爆発が起きてから、俺と木村が犯人と遭遇するまでそんなに時間は経ってない。なのに仕掛けたカメラにもその場にいた警察官の目にもにも不審人物は映ってない。瞬間移動でもしないと不可能だ。」


 しばらくの沈黙があと、川井は「謎はまだまだ多いですね。」とつぶやいていた。玉川はうなずく。


 謎が多い。ただ、この場所で悩んでいても始まらない…。


 玉川はゆっくりと立ち上がった。


「井ノ上先生に会いに行こう。話を聞けば何かわかるはずだ。」


 川井はうなずく。喫茶店で出された飲み物を飲み干して、二人で店を出た。





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