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第五話 犯行予告

「さ~あ、今日はどこへ行きますか~?」


「どこぞのアニメの次回予告じゃないんだぞ…。」


 三人でマスターの喫茶店で酒を飲んだ翌日、木村と合流したときのテンションがこれだった。大して飲んでいないのに少しのだるさを感じるのは、こちらが弱いからか歳だからか…。


「ちなみに先輩もいつも通りでしたよ。玉さんにおぶられてタクシーに乗ったって伝えたら顔を赤くしてましたけど。」


「まだ酒が残ってたんだよ。何度も同じことをしてるんだから、今さら恥じらいなんてないはずだ。」


「え~?本当にそうなんですか~?」


 木村はニヤニヤしながらまだ話を続けようとしたが、玉川は無理やり終わらせた。秋晴れの中、改めて取材を始めた。



 木曜から土曜まで容疑者佐藤創志の取材を重点的に行った。友人知人からアパートの管理人まで幅広く聞いてまわった。ただ警察の捜査以上の重要な情報はなかった。


 佐藤創志は三十二歳で独身。大学を卒業後一流企業に就職したが、勤務態度が悪く会社に損失を与えたことを理由に退職。その後は職を転々としていて、最後に勤めていたのがバーだった。大して働いてもいないのに、「今度自分の店を開く。」と周囲に話していたらしい。

 また、佐藤には逮捕歴があった。捜査資料と裁判記録の閲覧で大体の内容はつかめた。事件は三年前と七年前。どちらの被害者も性的暴行後建物からの転落し死亡。いずれも強姦罪と殺人罪で起訴されたが、佐藤の家は金があるのかどちらも有名な敏腕弁護士が入った。その結果、強姦罪は『酔った状態で覚えてない』や『合意があった』などの理由を押し通し、殺人罪については立証することが難しく、結果比較的軽い罪で済まされたようだ。



「被害者は…、遠藤結美エンドウユミと佐々木若菜ササキワカナ。二人とも若いな。住む地域も出身もバラバラ。犯行もハロウィンと大晦日の混雑時。時期は計算だとしても被害者は計画的ではなさそうだな。」


 そこまで口にして隣を見ると木村は表情を固くしていた。嫌悪感や怒りが見てとれる。


「悪いな。読み上げる必要はなかった。」


「いいえ。大丈夫です。私も警察官ですから。」


 こちらの視線に気づいたのか木村は背筋を伸ばしてみせた。


「ただ…、こういう話を聞くたびに怒りは込み上げます。それこそ自分でも抑えられないほどの…。」


 過去に何かあったのかはわからないが、木村の怒りがこちらに伝わる。玉川は木村の肩を軽く叩いた。


「その怒りは当然だし、あっていい。ただ、それを弱者を守るために使えばいいんだ。」


 木村は目を大きくしてからうなずく。そしていつもの顔で言った。


「ほ~~んとに同じなんですね~。先輩と。やっぱり付き合ってます~?」


「それが言えれば大丈夫だな。次行くぞ。」


 ため息がてらそう言うと、木村からは明るい返事がきた。



 その日の夜、再びマスターの店に三人で集まった。川井の情報は容疑者を犯人と特定できるものばかり。一番の情報は第一の被害者と犯人の映像。交差点を上から撮影していたカメラ映像だ。


「犯人と思われる黒いマントと顔には覆面のような物をかぶった人物と被害者が交差点ですれ違い、その後被害者はその場に倒れた。犯人と思われる人物はそのまま人混みに消えた。この映像を見る限り犯人は通りすがりに迷わず犯行を行っている。狙ってやれたなら完全にプロだな。」


「ですね。しかも被害者が倒れるまで周囲は誰も気がついていない。これって被害者は悲鳴もあげなかったってことでしょ?」


「そういうことになりますね。他の被害者も倒れて血が流れるまで 誰も刺されたことに気づいていないみたいですから。だから犯人の目撃情報もないのでしょう。」


 誰も酔っぱらっていないこともあり、正しく話し合いが進む。川井もさすがにソフトドリンクで我慢している。木村が加わってから学習速度が上がった気がする。


「玉さん、聞いてもいいですか?」


 木村が挙手。玉川と川井が身構えたのは、半分の確率で冷やかしだと思えたからだった。


「玉さんはこの事件、これで終わりだと思いますか?」


 確信をつく質問だ。玉川は首を横に振った。


「容疑者が犯人なら、まだ続く可能性は高い。犯行声明までするやつだ。目的が『警察を嘲笑う』なのか『町の人に恐怖を与える』なのかはわからない。ただ、どちらにしてもまだやる可能性は高い。」


「私もそう思います。だからこそ容疑者の書き込んだサイトは常にチェックしてますから。ちなみに容疑者はファントムって名前で…、」


 そこまで言って川井はタブレットの画面を見せた。そのとき、


『明日、三十一日の午後十一時半時。事件が起きる。』


「容疑者の書き込みです!」


 川井の声に緊張が走る。玉川と木村も画面を見た。


「玉さんの予想通りでしたね。」


 木村の言葉に玉川はうなずく。


「もし、犯人ならハロウィン当日でかつ日曜日のこの日を狙わない手はない。しかも各役所は休みだから市が対応するのも難しい。」


「私、署に戻ります!」


 川井はドアを壊す勢いで店を出ていく。


「私も行きます。」


 木村も慌てて後を追った。残された玉川はマスターにコーラを注文。さすがに酒を飲む気にはなれなかった。


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