エピローグ
「さ〜て、どこへ行きますか〜?」
「だから、どこぞのアニメの次回予告じゃないんだぞ?」
冬が過ぎて春になった頃だった。正直、この掛け合いをまたやるとは思わなかった。が、平和な日常が戻った証だと玉川は捉えていた。木村青葉はいつもの笑顔で玉川の横を歩い行く。
この町で起きた悲しい事件は玉川の総括で幕を下ろした。木村は結果的に事件を起こしたわけではなく、また何人もの女性が襲われるのを防いだことからすぐに釈放された。井ノ上は再度自首し、自殺幇助の罪で警察に逮捕された。ただ、情状酌量で執行猶予になりそうだ。木村は井ノ上に面会し、手紙の改ざんを謝罪した。井ノ上としては娘の婚約者が誰かわかっただけで十分だったから、木村を怒ることはなかった。出所したら伊藤の写真を娘の写真の隣に並べると言っていたらしい。
「玉さん、指示がないなら私一人で行きますよ〜?」
そう言って先へ進む木村は、玉川の助手として記者の仕事を始めていた。人懐っこい笑顔で近づき、物怖じせずに何でも聞き出すスタイルで、すでに多くの取材をこなしている。わかってはいたが、記者の素質は高く優秀だ。
「玉さん。この町、どうなりますかね〜?」
ふいにそう言われて木村をの方を見ると、その視線の先に若者たちの姿があった。何やら騒いでいる。
「なるようになるとしか言いようがない。が、良くも悪くも落ち着くとは思う。」
「良くも悪くも…、ですか?」
不思議そうな木村に玉川は若者たちを見ながらうなずいた。
「良い方向に進むなら、それは誰かが主催するイベントにすること。誰にも迷惑をかけずにみんなが楽しめるなら、それは続ける価値がある。悪い方向に進めば、今よりももっと規制を強くするしかない。もはや治安に関わる事態だから。路上での明らかな飲酒や迷惑行為は即座に逮捕して罰則と罰金。そこまですればすぐに落ち着くだろう。」
「なるほど。」
木村は手帳にメモしていく。その手が止まるのを待って、玉川は「それに…、」と話を進めた。
「こんな騒ぎをいつまでも続けられるはずはない。医師も警察官も不足しているこの国で善意での活動にも限界がある。特に、医師不足の行き着く先は『救急医療の廃止』だろう。そこまで行かないまでも、『急性アルコール中毒は診察しない』という方向になっても不思議はない。夜まで必死に働いて酔っ払いの対応をさせられたら医者の心が折れるだろうから。警察官の話も同じで、そもそも交通整理を警察官がやっていること自体おかしい。それならば他の犯罪の抑止にまわすべきだ。車の進行の妨害になる人は片っ端から逮捕すれば人はそんなにいらないはずだから。」
「なるほど〜。」
どうやら納得したようだ。メモを終えた木村は手帳をしまってから、玉川の目を見た。
「で〜、玉さんはいつ先輩と結婚されるのですか〜?」
いきなりぶち込むのも木村らしい。返答に悩む玉川に木村はさらに言葉を続ける。
「まさか、あの時の『俺たちの今後を見守れ!』は私を死なせないための言葉だけじゃないですよね〜?先輩は明らかに本気で聞いてたと思いますよ〜?まさか、私たちの期待を裏切ることなんてないですよね〜?」
「いや、まあ、裏切ることは…、」
「じゃあ、期限を決めましょう!夏までに結婚を前提のお付き合いスタートで、年内に婚約してください!」
「お、おい…。そんな急には…、」
「つべこべ言わないでくださ〜い。それとも泊りがけの取材で二人の変な写真を撮って先輩に送りつけた方がいいですか〜?そしたら先輩からアタックしてくれますよ〜?」
「それはアタックの意味が変わるだろ!命に関わる!」
そこまでツッコんで玉川は深く息を吐いた。そもそもこの手の勝負で木村に勝てるはずもない。
「わかった。お前の望み通りになるようにする。」
「そうしてくださ〜い。」
弾けるような笑顔の木村に玉川はただただうなずいた。
「よし。仕事に戻るぞ!まだまだ取材しなきゃいけないことがある!」
「は〜い!」
玉川と木村は歩き出した。この町の明るい未来を信じて。




