第二十四話 これを読む人たちへ。
インターネットに拡散された吉川刑事を含む今まで被害者とされていた人々が自殺だったという事実、さらに木村と須川の自首により、この事件の真相が世間と警察に正しく知らされることとなった。新年の空気を吹き飛ばす事実の公表で、本来は休みのメディアも競って報道した。ネット上は警察への否定的な文言が並ぶ一方で、ハロウィンなどの騒ぎの裏でたくさんの人が傷ついたという事実に悲しみと騒ぎへの批判も並んだ。警察は事件の経緯や事実関係の正しい公表とを求められ記者会見が開かれた。その場には警察上層部の人間の他に川井と上司も出席した。記者からの質問は事件時の警察の捜査やこの真相に行き着いた経緯、さらに吉川がどんな刑事でなぜこのような行為に及んだのかということに集中した。それに対して答えたのは誰よりもこの事件の捜査に携わり、誰よりも吉川を一番近くで見てきた川井だった。
「吉川さんは誰よりも優秀な刑事でした。警察署内の人望も厚く、誰よりも尊敬された人でした。私も含め吉川さんの行動に疑問を持てる人などこの警察署内にはいませんでした。だからこそ、吉川さんがこの事件を起こしたと知ったときはショックでした。でも、吉川さんの過去を知ったとき、この警察署内のすべての人がある意味で納得していました。吉川さんが誰かを愛しその人が殺されたとしたら、吉川さんは絶対に許さないだろうと思えたからです。誰よりも正しく誰よりも優しい吉川さんだからこそ、誰よりも深い怒りと悲しみと復讐心を持ってしまったのだろうと思います。ただ、それでももっと他に方法がなかったのかという疑問が私の中で消えません。本当に残念です。」
川井の言葉に対し、それ以上聞き返す記者はいなかった。川井はさらに事件の真相と今後について語った。
「この事件はこの町の騒ぎが原因で起きた三年前の悲劇と七年前の事件が原因で起きました。だから、逆に言えばこの町の騒ぎがなければ起きなかったのかもしれません。この事件に関わった私の後輩は『警察は困っている人を助けるべき』と言っていました。この当然のことがこの町ではできていなかったのかもしれません。大勢の若者が集まったことによる信号無視や車道を歩くことでの車に対する妨害などの交通違反、ゴミの不法投棄や路上での飲酒などの禁止行為の繰り返し。私は警察官として地域のルールを守らない人に注意をし続けました。しかし、これらは注意だけではルールを守らせられない事態になっています。地域の法改正と警察の罰則が必要なのだと思います。大半の人がルールを守っているのならば、ルール違反者だけを適切に取り締まれば誰も悲しまないと思います。地域に寄り添い地域の人たちのためにルールを守らせることが私たち警察の使命だと思います。」
川井の言葉には木村や井ノ上の言葉、そしてこの事件で自殺という選択をしてしまった人たちの願いが込められていた。だからこそ記者もあえてそれ以上の質問をできなかったのだろう。
記者会見の最後、川井はこう発言して締め括った。
「この事件で私たち警察は『佐藤による連続殺人』という方針を最後まで変えることはできませんでした。この事件に最初から疑問を持ち、この事件の真相に正しくたどり着いたのは、私の先輩で記者の玉川さんという方のおかげです。なのでこの事件の総括は玉川さんの記事に委ねるべきだと思います。私自身も玉川さんがこの事件をどう締め括るか楽しみです。」
あまりにも重い責任を川井はこっちに投げつけてきた。玉川はテレビを見ながら静かにため息。それでも、玉川自身にもこの事件を正しく伝える責任がある。捜査内容、それぞれの人の悲劇、井ノ上や木村がこの事件に関わった理由、書くべきことを順序よく書いていった。最後に総括。玉川は悩んだ。ただ、それ以上にこの事件には様々な賛否があった。だからこそ玉川はそれを読み手に問うことにした。
『この記事を読む人たちは、テーマパークの行列に並んだ経験はあるだろうか?大型イベントの開始待ちの行列でもいいし、コンサートの行列でもい。その時を思い出してほしい。市や町などの公的なイベントでなければ、おそらくそこには警察官の姿はなかったはずだ。同時に目立った問題も起きなかったはずだ。
それに対してこの町の騒ぎは明らかにそれらのイベントとはかけ離れている。ルール違反や迷惑行為が目立ち、それを注意するために警察まで出動しなければならない事態になっている。町に酔っ払いが'溢れ安心して道を歩けない。自分の住む町を酔っ払いが破壊して、それを守るために自分のお金が遣われる。夜が明けるとゴミが散乱し、自分が汚したわけではないのに、片付けをしなければならない、。ゴミの回収も当然、税金が遣われる。そんなことが自分の町で起きたらと想像してみてほしい。私は楽しむことを否定する気はないし、若者が騒ぎたい気持ちもわからなくはない。ただ、それでも物事には限度があると思う。誰かが悲しんでいるにも関わらず、『俺たちが楽しいから良いんだ』と騒ぐのなら、それは犯罪者の心理と同じだと思う。もしも楽しみたいなら、正々堂々地域の代表に許可を得るべきだと思う。もちろんその時には『警備員を自分たちのお金で雇い、地域に迷惑をかけないように注意し、出たゴミは自分たちで片付ける』といった最低限のことはしなければならない。もしできないのならば、地域の代表は許可をしないだろう。
この町で起きた悲しい事件は、もしかしたら防げていたのかもしれないと私は思う。それはこの事件を起こした側に、『誰よりも正しくありたかった警察官』『誰よりも人の命を救いたかった救急隊員』『自分の家族と自分の患者を同じように大切にしていた医者』が含まれていたからだ。誰よりもこの町のために力を尽くした人が、このような悲しい事件を起こしてしまったこと、起こさなければならないと思ってしまったことを重く考えなければならないと思う。
最初に聞いた『イベントの行列』の話を思い出してほしい。なぜ警察官がいなくても、大きな問題が起こらないのか。それはテーマパークであれ、イベントであれコンサートであれ、それに参加する人がその場所や人のことが好きであり、同時にそのイベントの成功を願っているからだろう。だとしたら、この町で騒いでいた人に聞きたい。『あなたはこの町を好きですか?』と。もし、本当に好きならば、その町に嫌われるようなことをはしないと思うから。誰もがこの町を好きであれば、こんな悲しい事件は起きなかったと思うから。
最後に、読む人たちに問いたい。
「この事件の、犯人は誰だ?」と。』




