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第二十三話 事後処理と約束。

「3、2、1、ハッピーニューイヤー!!!」


 メイン通りから叫び声が聞こえる。どうやら新年を迎えたらしい。木村はようやく落ち着いたようで、川井が持っていたコーヒーを飲んでいる。それを確認して、玉川は木村の前に立った。


「さあ、落ち着いたなら一つずつ片付けていこう。まずは、あの男からだ。」


 状況が状況だけに、パトカーに乗せて待機させていた須川という男の処遇。


「須川さん、お尋ねします。青葉が言っていたことは事実ですか?」


「事実なわけねーだろ!俺はこの女にナイフで脅されてここに連れてこられたんだ!佐藤の弁護はしたが、共犯者扱いされても困る!何か証拠でもあるのか?」


 さっきまでは縛られていたし刃物も向けられていたが、今は逃げられないように見張られているだけ。そのせいか、威勢よく叫んでいる。が、


「あんた、素直に認めた方が話が早いぞ。」


 サラッと言ってのけたのは玉川だ。須川は反論しようとしたが、それよりも先に玉川が話しを進めた。


「あんたは木村を何者かわからずに発言しているのに対し、木村はあんたの職業から行動パターンまで把握している。弁護士ならその時点で勝ち目がないことくらいわかるだろ?」


 すると木村が須川にスマホを見せた。


「まず、今日あなたが私を襲った映像がこちらです。この映像は駐停車の入り口の車のカメラです。毎回駐停車の入り口で襲うこの人なのできれいに映ってますね。」


 確かに須川が木村にナイフを当てて歩いていく映像だ。須川の表情が明らかに変わった。


「次にあなたが1週間前に人を襲ったときの映像。近くのビルのカメラから撮られたものです。この後、ここで押し倒したときの映像がこちら。すぐに車が来たので諦めて逃げて行きました。さらに、その2週間前に人を襲ったときの映像がこちら。このときは私が悲鳴をあげて撃退しました。」


 木村が次々と映像を流していく。ここまで来ると捏造したと思われそうなほどだ。


「まさかとは思うが、ずっと尾行していたのか?」


 恐る恐る聞く玉川に木村は笑う。


「そこまで暇じゃないですよ。この人が襲った人を助けて協力してもらって、また別の人を助けて協力してもらってを繰り返しました。協力者がたくさんいるのは、あの日から今日までに四人も襲ったこの人が悪いんですよ。」


 須川は震えている。恐怖か怒りかは不明だ。木村は淡々と話しを進めていく。


「最初の協力者は玉さんたちに紹介した彼女。彼女の両親は娘の話を聞いて惜しみない協力をしてくださいました。ちなみに今日の映像は彼女のお母さんの車のものです。次の被害者の彼氏さんは話をしたら「犯人は俺が殺す。」って聞かなくて。落ち着かせるのに苦労しました。その人はビルのカメラの設置と確認をお願いしました。さらに…、」


「木村。もういい。諦めたみたいだ。」


 玉川にそう言われた木村は隣の須川を見た。誰が見ても諦めたのがわかる。たぶんここまでやられたら誰でも諦めるだろうけど。


「じゃあ、一応私の姉さんの事件の共犯だという証拠だけ…。佐藤がベラベラしゃべっている動画がこちらになります。あなたがいろいろと手を貸してくれたか罪を重くされずに済んだと。よかったですね。感謝されて。」


 とてつもなく冷たい声でそう告げてから、須川の前に座った木村。


「あなたを恨んでいる人は、あなたが襲った人とその家族。今現在で20人くらい。おそらくもう少し増えるでしょう。あなたは罪を認めないこともできます。ただ、その分だけ私たち被害者の怒りと恨みを買いますから。この国の司法は復讐を否定しますが、それでも私たちの復讐心を否定することはできません。命が惜しければ最大限素直に罪を認めてください。私は見てますからね〜。」


 呪いのような言葉だった。刃物を向けられているわけではないのに須川の汗が止まらない。川井は須川をパトカーに乗せた。


「木村、あとは死んでいった人たちが『自殺した』という証明なんだが。」


「あ〜、それならもう終わったはずですよ〜。」


 玉川の問いかけに木村は笑顔で答えた。玉川と川井はわからないままだ。すると木村はスマホの画面を見せた。ネットニュースには『亜由比での連続殺人事件は、実は集団自殺だった?』と出ている。


「新年を迎えたタイミングで、それぞれの親族の皆様が各種SNSにアップしてくれたはずですから。兄さんがそれぞれの人にデータを送っておいたみたいです。私がしたのは受け取った皆さんに確認の連絡をしたくらいです。ネットにあげたくない人がいたら私が代わりにやろうと思っていましたから。ただ、皆さんちゃんと『やります』と答えてくれました。兄さんのお母さんだけは11時過ぎに私が電話で説明してお願いしました。その時にはまだ、私は死ぬつもりでしたけど。」


 川井が隣でスマホを見せた。上司から着信が山積みだった。玉川が川井にうなずいて見せ、川井は上司に電話。説明をしていく。


「じゃあ、私もそろそろ自首しますね〜。迷惑行為は自覚していますし、須川への殺人未遂は確かです。須川に自首させて自分は無罪なんてありえませんから〜。」


「ああ。それでいい。ただ、吉川君の母親には警察署に着くまでに連絡しておけよ。あと、おそらく重い罪にはならないだろうから、終わったら連絡してくれ。約束だ。」


「え〜?ミカ先輩に怒られませんか〜?」


 木村らしさが戻ってきた。玉川もさすがに笑った。


「三人で新年会のやり直しだろ?お前の家で。」


 木村は満面の笑みでうなずいた。電話を終えた川井が木村をパトカーに促す。


「そういえば、警察に向かう前に下で一回止まってもらえますか?須川被害者の会のみんなが、心配で来てしまったみたいなので。みんなに挨拶します。」


 木村のスマホにはメッセージが多数。下を見ると人だかりが見えた。


「死ななくて良かっただろ?」


「はい!ありがとうございました!」


 大きく告げて頭を下げた木村、顔を上げたときは笑顔だった。川井と木村は須川とともにパトカーに乗って行った。玉川は静かに駐車場からメイン通りの方を眺めていた。いつもなら騒がしいはずの町も、今日は静かな年明けを迎えられそうな気がした。



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