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第8話 火山の村(2)

「お代はいらないから、たんと召し上がれ」

「おおっ!」


 テーブルに並べられた色とりどりの料理を眺め、俺は思わず感嘆の声を漏らす。

 鶏のソテーに魚のムニエル、クリームシチューに野菜たっぷりサラダなどなど。

 普段はテキトーに食事を済ませていた俺にとって、ご馳走とも言える数と種類の家庭的な料理が並んだ。


「いただくのー」

「あっコラ。俺が狙ってたやつ!」


 パルフィがフォークを刺したステーキに、俺もバシッとフォークを刺す。


「行儀悪いわよ」


 二人の神の卓上の攻防に、レナが呆れた声でたしなめるが。


「道端に落ちてた女神に言われたくねぇよっ」

「あ、あれは作戦でしょっ。人を落とし物みたいに言わないでよっ」

「ナイフで鶏肉を切り分けながら声を荒らげてる奴に言われたくねぇよ」


 俺の指摘に文句を返しつつも、鶏肉を丁寧に一口サイズにしているレナに説得力はなかった。


「ははっ。元気のいい神様たちだね。足りなければまだ作ってあげるから、じゃんじゃん食べておくれ」


 他に客がいないからか、店主の威勢のいい声が店内によく響く。

 まるで肝っ玉母さんのような豪快さは、俺たちの気分も高めてくれた。


「そう言えば、妖獣ラウルも増えたって聞いたんだけど」


 レナが料理をパクつきながら尋ねると、店主は〝よくぞ聞いてくれた〟と言わんばかりに話し始めた。


「幸いまだ村の中に入ってきてはないんだけどね。村の近くで妖獣ラウルを見たって話を聞くようになったんだよ。普段は現れても村の近くまで来たりはしないから、お山さんと同じで何か変なことが起きてるんじゃないかって噂で持ちきりなんだよ」


 妖獣ラウルに太刀打ちできる人間は軍や冒険者と呼ばれる者たちぐらいで、普通の人間が戦えるような相手ではない。

 そんな存在が村の近くまで来たとなれば恐怖しかないだろう。


「山の噴火が増えた時期と重なるのか?」

「そうだね。時期としては同じぐらいだね」


 俺の質問を店主は肯定する。

 ほぼ同時期に噴火が増え、妖獣ラウルを見かける機会も増えたのならば関連性が疑われる。


「なるほど。調査するなら両面からするほうが良さそうだな」


 料理を食べる手を止めアゴに手を当て考える仕草をした俺に、レナは表情を輝かせた。


「なんか冒険えいぎょうらしいことをしてるゼノが見れて、ワクワクしちゃった」

「そうか? ただ気になったことを聞いてそう思っただけだけどな」

「やっぱり叩笑神ツッコミは違うわね。物事の本質ってのを鋭く見抜く才能が守笑神(ボケ)と違うわ」


 感心したようにウンウンと頷くレナに、俺は複雑な表情を浮かべる。

 叩笑神ツッコミたるもの、ネタをやるとき以外でも何事にも鋭くツッコミを入れられるように常に目を光らせている。

 その心掛けと本能が自然と深い思考も生んでくれていた。


「まぁ、相手のボケに対してツッコむのが叩笑神ツッコミだからな。色々と気づくようにはなってるのかもしれねぇけどよ」


 そう言って、俺はフォークを鶏肉のソテーのあった皿に刺すが。


「あれ? って料理全部無くなってるじゃねぇかよ!」


 いつの間にか美味しそうな料理たちが消えた皿に、これでもかと目を見開いた。


「しゃべってる間に、パルフィが全部食べちゃったわよ?」


 あっけらかんとして、レナは相棒を親指で差す。

 するとそこには、最後の一口をハムハムごくんと飲み込むパルフィの姿があった。


「全部美味しかった」

「味の感想聞いてるんじゃねぇよッ! なんで全部一人で食うのかって言ってんだよッ!」


 聞きたいこととはまったく別の言葉を投げられ、俺は声を荒らげる。

 どう見ても一人で食べ切れるはずのない量があったはずなのに、皿にはタレやら汁やらしか残っていなかった。


「ゼノ、ご飯いらないのかと思った」

「神も飯は食うだろうがよッ! ってか、食うの速すぎだろッ!」


 人の三倍は食べると聞いてはいたが、まさか人の三倍の速度でも食べるのは完全に予想外だった。


「めっちゃ食いたかったのに……」

叩笑神ツッコミなのに、パルフィの行動には気づかなかったわね」

「どんまいっ」

「なんかもうツッコむ気も起きねぇわ……」


 犯人に励まされ俺は頭をテーブルに突っ伏し落ち込む。


「ははっ、いい食いっぷりだねえ。まだ作ってあげるから、ちょっと待ってな」


 そんな騒がしい神々のやりとりを聞き店主は豪快に笑い声を上げると、再び店の奥へと戻り調理を始めた。

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