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鍛冶師の追放

「マグナス、お前を俺達のパーティから追放することにした」

「なんだと! ふざけるな、冗談もいい加減にしろ!」

 小さな街の小さな酒場に、俺の怒声がこだました。

 ガヤガヤと騒がしかった店内が、一瞬にして静まりかえる。

 客達の誰もが、俺達のいるこの空間に冷めた視線を向けていた。


「冗談ではない! 俺とお前の関係はここまでだ、明日からはもう、来なくていいからな!」

「そんな……理由を教えてくれないか? なぜだ? 俺はみんなの役に立っていただろう? 俺がいないとみんな困るだろう?」

「端的に、そういう態度が気に食わないんだよ。俺だけじゃない、パーティ全員の意見だ」

 同じ故郷から出てきたこいつとは、腐れ縁と行ってもいい仲だった。

 幼い頃から剣士を夢見るこいつを少しでも手伝おうと、俺は鍛冶師を目指すことにした。

 二人でいつか、最強の勇者になってこの世界の頂点に立つんだと……思っていた。


 俺にはどうやら才能があるようだった。

 仲間達にも伝えていないが、俺には金属の性質が見える【鑑定眼】に近い能力がある。

 さらに金属同士を掛け合わせることで、より強い性質の金属を生み出すことさえ可能だった。

 鍛冶師としての能力はほどほどだったが、それでも素材の差があるおかげで、市場では出回らない高品質の武具を提供することが、できた。

 俺の武器のおかげで切り抜けた戦いが何度もあったことは、間違いない。


 このパーティは、俺の能力で支えられていたと言っても、過言ではない。

 だというのに、この俺を追放? なにを考えているんだあいつは。理解できない。意味がわからない。


 黙っている俺に背を向けて、あいつは店を立ち去っていく。

 もう二度と、肩を並べて戦うことはないのだろう。

 酒場は少しずつ、何事もなかったように活気を取り戻す。

 残された俺は椅子に座り込む。目の前の、食べかけの料理は脱色されたように不味そうに見える。


「……許せねえよなぁ、復習してやる」


 ◇


 その後俺は、ギルドで紹介された落ちこぼれの鍛冶師と組んで、小さな武器屋を始めることにした。

 彼女も俺と同じく追放された身で、なんだかんだと気が合った。

 俺の作った最高級の錬鉄が、彼女の腕で鍛え上げられ神話級の武器になる。

 いつの間にか俺達は、神の鍛冶師と呼ばれるようになっていた。

 武器を作ってくれだって? 国家予算級の金額が必要だが、大丈夫か?

 ……というわけだが、それはまた別の話。


 ◇


「セレネさん。あいつ、どう思います?」

 聞き捨てならない台詞を吐いた男を遠くから眺めていた俺は、尊敬する先輩であり、上司でもあるセレネさんに話しかけた。

 セレネさんは困った顔をしながら、悩ましげに息を吐く。

「そうねえ……って感じ。マヒナ君はどう思いました?」

「今の時点では、なんとも言えないですね。どっちもどっちというか、当然の結果というか」

「私はあの子の面倒を見るから、マヒナ君はパーティのケアをお願いできる?」


 典型的な【聖騎士】のジョブを持つ勇者と、【錬鉄師(れんてつし)】というマイナージョブを持つ勇者の組み合わせ。

 他のメンバーは、良くも悪くも普通の勇者。とはいえ聖騎士にせよ錬鉄師にせよ、かなり優秀と評価されるジョブで、二人とも努力を怠っているわけでもない。初めのうちはギルドでも期待が集まっていただけに、なかなか成果を出せない様子にやきもきしていた。

 周囲からの期待の高さと、自分たちの成果が釣り合っていない。そのことは彼ら自身が一番理解していたのだろう。徐々に二人は焦りだし、そんな状態ではクエストの達成率も落ちる。

 ギルドでもサポートはしていたが、それでもいつかこうなることは、なんとなく想像できていた。


「じゃあちょっと、私は彼に声をかけてくるね」

「セレナさん、大丈夫ですか? 怪しまれたりしない?」

「大丈夫よ。彼がああ(・・)なることは読めていたから。あらかじめそれとなく声をかけておいたから」

 根回し済みと、いうことか。

 流石はセレネさん。マグナスという男は突然声をかけてきたセレネさんに違和感を持つどころか、信頼しきった相手にすがるような顔をしている。いや流石というか、もはや恐ろしい。

 というかそもそも、セレナさんが俺を飲みに誘ってくれたのも、この場面に遭遇させるのが目的の可能性すらある。

 ちなみに彼女のジョブは秘匿されていて、俺の鑑定眼でも見抜けなかった。レベルが違いすぎると鑑定がキャンセルされることもあることを、俺はセレナさんを見たときに初めて知った。

 いろいろな意味で、彼女はやはり恐ろしい。


 ◇


 次の日のこと。

 いつも通りにギルドの業務をこなしていると、一人の男が肩を落として相談カウンターの列に並んでいた。

 昨夜、錬鉄師を追放していた聖騎士の勇者だ。

 順番が回ってくる前にさりげなく手を回し、俺の元に来るように誘導をする。

「次の人、どうぞ〜!」

 あくまで偶然を装って声をかけると、青ざめた表情の彼はカタカタと震えながらゆっくりと顔を上げる。

「今日は、どうなさいましたか?」

「その、俺はこういう場所を使うのは初めてで……」

「初めてでも、大丈夫ですよ! 何か困ったことでもありましたか? まずは話してみてください」

「ああ、実は……」


 彼は、支離滅裂に今の状況を話してくれる。

 俺の持っている事前情報と組み合わせると、だいたいこんな感じのようだった。


 つまりまず、彼とマグナスは幼なじみというやつらしい。

 最初のうちは、仲良く上手くやれていたのだが、少しずつ違和感を持ち始めるようになる。

 マグナスは一級品の素材を消費して、特級品クラスの素材を生み出すことができるのだが、鍛冶師としての才能はいまいちだった。

 彼から見てマグヌスの行為は、せっかく作り上げた最高の作品を、叩いて壊して鉄くずに変えているようにしか見えなかった。

 できあがった作品は、市販品より少し優れた程度の性能で、聖騎士である彼にとっては物足りなかった。

 かといって、古くからの友達でもある彼が作った駄作を、使わないわけにもいかず……

 駄作を使わされるストレスと、せっかく苦労して集めた素材を湯水のように使われることに対するいらだちと、そこに久しぶりに飲んだ酒の力が加わって、ついに昨日、彼を追放してしまったとのことだった。


「それは、大変なことになりましたね……」

「そうなんだ。酔っていたとはいえ、俺はとんでもないことを!」

「ですが、過ぎ去ったことを後悔しても仕方がありません。これからのことを考えましょう」

「そう、ですよね。仕方のないことですよね……」

 彼は後悔しているような素振りをしてはいるものの、内心はそうでもないようにも見える。

 なんとなく、自分は悪くない。ということを誰かに認めてもらおうとしているような……?

 まあそんなこと、俺の業務には1ミリも関係ないわけだが。

「とにかく今は、先のことを考えましょう! 何かお困りのことはありますか?」

「困りごとか……だと、武具の調達に困っているな。今までは全部、あいつに頼りきりだったから」

「そういうことなら、もちろん! 良い武器屋を紹介しますよ」

「セレネさん、報告書って、こんな感じで良いですか?」

「大丈夫よマヒナ君、ありがとね。あと、この報告書を読んでくださっている読者様にお願いがあります」

「セレネさん? 誰に話してるんですか……?」

「細かい内容は個人情報だから公開できないけれど、こんな感じに不定期で投稿するから、良ければ評価やブクマをお願いできますかしら」

「セレナさん⁉ 評価とか、ブクマとか、何の話」

「マヒナ君は、知らなくて良いことよ」

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