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魔王、食料を確保する

イヴリスが狼の群れを付き従わせて村へと戻ってくると入口で待っていた村人達がどよめいた。魔獣を倒しに行ったはずなのにまさかその魔獣を村に連れて帰って来るとは誰も思いもよらなかっただろう

よく見ると村人達の手には万が一イヴリスがやられた時の事を考えて武器が持たれていた。武器といっても包丁や農具といった類でとてもじゃないが魔獣を倒せる様な代物ではなく、イヴリスがいなかったらこの村は終わっていただろうと容易に想像できた

襲撃問題が解決し狼達を連れてそのまま村に入れようとすると村長のルイスに止められた。当然だ、イヴリスならいくら奇襲されようとも傷つけられることはないが村の人達は別、今まで自分達に危害を加えていた魔獣が突然大人しくなったからといって安心とはならない



「イ、イヴさん本当に大丈夫なんだろうな。この魔獣達がいきなり襲ってくるなんてことは・・・」


「安心していいぞ、こいつらは私に完全服従したからな。ここの村の人間達にも手を出さぬようしっかり言い聞かせておいた。そうだよなお前達?」


「「アオン!」」


「いやでもなぁ・・・うーん、ちょっと待っててくれるかい」



ルイスは村の人達を集めると話し合いを始めた。イヴリスの事を知っているのはルイスとその家族くらいなもので殆どの者は一度目にしたか完全に初対面かのどちらか。他の者から見たら魔獣を従える危険人物なのではと思われても仕方がない

しかしそこは村長であるルイスがなんとか説得してくれたようで、結果的には快くとまではいかないがどうにか村の人達も一先ずは様子見という形で納得してくれた

けれどいきなり村の中で共に生活するのはやはり抵抗があるということで村の入口付近に小屋を建ててそこで暮らすことに

更にただ野放しにしておくのは村人の精神衛生にも良くないということでイヴリスが保険として対策を施した。狼達にそれぞれ"制約の首輪"という魔法を使い村の人間に危害を加えるような行為が出来ないようにした。もし無理にでも制約を破ろうとすると首が締め付けられ最悪胴体から切り離されることとなる

これでようやく一通りの対策を終えた狼達は小屋が出来るまでの間はとりあえず野ざらしの状態で過ごさせることにした。元々外で生活をしていたのだから大差ないだろうし村人からしたら番犬代わりにもなって村の安全面は前より改善されるだろう

ひと仕事を終えてルイスと共に帰宅すると玄関前にはルカが帰りを待っていた



「イヴお姉ちゃんおかえり!大丈夫だった?」


「おぉルカ、問題なく解決したぞ。だが今日はもう疲れたから寝たいな」


「じゃあ一緒に寝よう!こっち!」



ルカに手を引かれ寝室へと連れていかれる。今日出会ったばかりだというのに何故かここまで懐かれてしまったイヴリスは困惑したが、不思議と嫌な気分ではなかった

普段寝る時は一人で誰にも邪魔されない環境でないと寝起きが悪くなり機嫌を損ねてしまうイヴリスだったが、その日はルカと共に心地の良い眠りについた

翌日、朝御飯の匂いに反応して目を覚ましたイヴリスはカミラの朝食を食べた後村の外にいる狼達の元へと向かった



「よしお前達初仕事だ!獲物を狩って私の所に持ってこい!」


「バウッ!アオアオーン!」



イヴリスが命じると親玉の鳴き声と共に狼達は森の方へと駆けて行った。イヴリスがやる事はただこうして狼達に指示を下すだけ、その後の事はリーダー役である親玉に任せてある。親玉は簡単な言葉であればこちらの言う事を理解できるようでイヴリスの指示を聞いた後、他の狼達を引き連れて狩りに行くようで基本寝て待っているだけで食料が向こうからやってくる

一時間程経過すると狼達が森から帰ってきた。狼は森の中で狩ってきた複数の魔物をイヴリスの前まで持ってきて献上した



「よしよし、じゃあお前達の取り分はこれ位か。ご苦労だったな」


「バウッ!」



村人達で消費できる分だけ貰いあとは狼達の取り分とした

働いた者には取り分をしっかりと与える。一方的に搾取する事も容易だがそれだと反抗して森の中で自分達だけ腹を満たしこちらの獲物はわざと逃がしてしまう恐れがある

狼達にそこまでの知性があるか分からないしイヴリスにかかればそれを監視することも簡単、だが出来るだけサボりたいイヴリスはいちいちそんな面倒な事はしていられないのでなるべく友好的な関係を築くようにしている

それに村人の数はイヴリスを入れても30人に満たない。今回狩ってきた一番大きい獲物一体だけでも保存食が作れる程事足りるのだ

狼達に獲ってきてもらった獲物は村の人達に解体してもらった。イヴリスは料理なんて当然出来ないし解体など以ての外、血抜き等ちゃんと処理をしないと美味しく食べられないのでそこは経験のある者達に任せた

狼達が狩ってきた獲物で最も大きかったのは牛のような見た目をしたホーン・バイソンという魔獣、その名の通り頑丈で立派な角があり市場でも高く取引されているそう。肝心の肉の方は以前食べた熊よりも癖がなく、柔らかくて美味しいと評判のようで期待が高まった



「出来たわよぉ、いっぱい食べてちょうだい」



解体を終え村人全員に肉を配分した後ルイスの自宅に帰ったら早速カミラにホーン・バイソンの肉を焼いてもらった

狼を従えているイヴリスには一番脂が乗っていて上質な肉が与えられたので贅沢にそれを丸焼きにしてもらい、両手で持ち上げて勢いよく齧りついた

噛んだ瞬間口の中にダイレクトに肉の味が伝わり肉汁が溢れんばかりに出てきた。熊の肉とは段違いの柔らかさで噛んでいるうちに溶けて無くなってしまう程、カミラオリジナルの味付けもあって食べるのを止められなかった



「すごーい!こんなに美味しいお肉生まれて初めて食べた!」



ルカもバイソンの肉が気に入ったようで夢中になって食べていた。その様子を向かいの席で見ていたルイスが突然泣き出す



「イヴさんありがとう・・・この子にお腹いっぱい食べさせてあげられる日が来るなんて・・・」


「私はただ狼達に獲物を狩ってくるよう指示しただけだ。礼なら狼達に言うんだな」



今回で村人も狼達の有用性を理解しただろう。まだ時間はかかるだろうがそのうち村人と狼達の間にわだかまりが無くなり、わざわざ自分が指示を出す必要も無くなる日が来るのを望むイヴリス。魔王国に居れば労せずともそれは手に入るが、あそこではマリアが築き上げたものの上にただ座していただけ

今度は自分自身の手で一から作り上げる。ここはその場所にうってつけかもしれない。イヴリスは己の欲望を満たす為に何が出来るか、肉を貪りながらそんな事を考え続けた




読んでいただきありがとうございました!

「よかった」「続きが気になる」など少しでも気に入ってくれていただけたら幸いです

GW期間中は毎日投稿しております。よろしくお願いします!

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