勇者、精霊の力を得る
イヴリスはアリシアが負った火傷を治癒魔法で治し、アリシアが目を覚ますのを待った。その様子を見ていたサラマンダーはこの場から再度出ていくようにと促された
「おい、さっさと出ていけと言っているだろう」
「そう言うがサラマンダー、お前始めからアリシアを試していたんだろ?」
「何のことを言っている?吾輩はただこの小娘に身の程を教えてやっただけだ」
「最後の攻撃に入るまでの流れ、お前わざと引っかかったフリをしていたじゃないか」
サラマンダーは黙る、図星だったようだ。蒸気で目眩ましされようとも魔力の流れを追えばあの土塊になんて騙されることはなく、アリシアの狙いが自分の懐だとすぐ暴きあんな直前に防御する必要はなかった
「お前もアリシアから何か感じ取ったからそんなマネをしたんじゃないか?」
「別にただの気まぐれだ」
「以前契約した奴と何か関係があると読んでいるんだがどうだ?」
「他人の過去にズケズケと入って来て踏み荒らそうとしおって・・・貴様にそんな事を話す義理はない」
詮索をしてくるイヴリスに段々と苛立ちを見せるサラマンダー、2人が話しているとアリシアの意識が戻った
「ん・・・・」
「おっ、目が覚めたようだな」
「イヴリス・・・火傷の痛みがない・・・貴女が治してくれたんですか、ありがとうございます。どうやら駄目だったようですね」
「なに気にすることはない、確かに勝てはしなかったがアリシアが思っている結果とは違うようだぞ」
「えっ?」
イヴリスの言葉の意味を理解出来ないアリシアがサラマンダーの方に目を向けるとサラマンダーから直接その言葉を聞くことができた
「吾輩と契約をするならそれなりの器になってもらうぞ」
「それはつまり私に力を貸してくれるということですか・・・?何故ですか?私は貴女に一太刀も入れることが出来なかったのに」
「吾輩がいつそんな事を言った。吾輩は貴様の意志と覚悟を確認しただけだ。嫌なら吾輩は別に契約をしなくたっていいんだぞ」
「い、いえ。お願いします!」
なんとかサラマンダーの力を借りることがアリシア、大精霊の力を得れば大幅にレベルアップできる。しかしそう簡単にすぐ契約できるというわけではないことを次のサラマンダーの言葉で知ることとなった
「だが今はまだ仮契約だ、正式に契約をする前に貴様を一から鍛え直さないといかん。先程もいったが吾輩と正式な契約をするならそれなりの器になってもらんとな」
「あの、器というのは・・・?」
アリシアが尋ねるとサラマンダーがどこからともなくグラスを取り出して説明をしだした
「今の貴様の器がこれ位だとしよう。そして今元々ある貴様の力でこの器は既に一杯、そこに吾輩の力が加わったら器から溢れ出すのは目に見えているだろう」
「つまりその器というのを大きくすればいい・・・というわけですか。それで一体どれ位の期間鍛えれば貴方の力を使いこなさせるようになりますか」
「そうだな、最短で見積もって一年だ」
「い、一年!?」
サラマンダーの口から出た期間に思わず声が大きくなるアリシア。自分が想定していた以上の期間の長さに驚きを隠せないでいる
「言っておくが死に物狂いで鍛錬を積んで最短で一年だ。本来はもっとじっくりと鍛えた方がより力を発揮することができるんだがな」
「それでも一年・・・一年も経ってしまったら・・・」
アリシアの懸念も当然だろう、一年も鍛錬に費やしていたらその間に国の状況も大きく変わる。強くなるのにはそれ位の時間は必要だろうがそう悠長なこともしていられない
だがそれはサラマンダーも承知していること、既に対策は考えてくれていた
「安心しろ、吾輩だってそれ位は考えている。いいか、この空間は現実の世界と時の流れが異なるのだ。現実で一日経過する頃にはこっちでは十日位の時間が経過したことになる」
「とするとこっちでは大体一ヶ月程度が経過することになるのか」
「但し先程も言った通り相当過酷なものになる。文字通り途中で死に直面することもあると思うがそれでもやるか?」
「勿論です、よろしくお願いしますサラマンダーさん」
こうしてサラマンダーの力を得る為のアリシアの血の滲む様な特訓が始まることとなった。これから何度も死の淵に立たせることになるだろうがアリシアならきっと乗り越えてくれるだろう
「だがずっとこの火山地帯にいなくちゃいけないのか?アリシアにも休憩は必要だろうし私達も村の様子を見に行きたいんだが」
「それなら吾輩がそちらに移ればよかろう」
「なんだ移動できるのか、だが姿は変えられるのか?」
「それ位造作もない」
イヴリスに言われ蜥蜴の姿をしていたサラマンダーは姿を変えた。するとそこに現れたのは深紅の髪を靡かせたアリシアそっくりの女性だった
「お前女だったのか・・・というよりなんだその姿、まんまアリシアじゃないか」
「精霊に性別などない、この姿になったのは特に他の姿が思いつかなかったからだ」
「私は姿までは確認できないので別に構いませんが」
「アリシアが良くてもこっちが混乱するんだ。それに私とも髪色が似てるし色々被ってるんだお前は!別の姿に変われ!」
「注文の多い奴だな」
出発前に一悶着あったが、イヴリス達はなんとか目的を果たし村へと帰還した
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