魔王、人の村でお世話になる
人間の少女ルカとの出会いによって森を抜けることができたイヴリスはルカの村に連れていってもらうことに
ついでに森で倒した熊も一緒に持ってきた。食べられるか分からないが万が一食べられなくても毛皮は使えるだろうし少しでも印象を良くして取り入ってやろうという魂胆だ
「着いたよ、あそこが私の住んでる村なんだ」
迷いの森から少し歩いたところにルカの住む村に到着した
村に帰って来れたのがよっぽど嬉しいのかルカはイヴリスの手を引いて村へと走っていった。村に到着し中に入ると入口付近にいた他の村人から視線を向けられた
始めその視線は自分の美貌に見惚れているのだろうと思っていたイヴリスだったが、どうやら視線はその後ろで引き摺られている熊が原因なようだった
好奇の眼差しを向けられながら村の中を歩き続けているとルカが一軒の建物の前で立ち止まった
「ここが私のお家、パパとママいるかな」
「ふむ、ルカはこの家に住んでいるのか」
ルカが自分の家だと言う建物はイヴリスには少し大きめな小屋に見えていた。というのもイヴリスは昔マリアと共に人間の国の都市部にこっそりと訪れた事があり、そこで二人が見た人間の家はここより遥かにまともな造りをしていて材質も木ではなくレンガが積み上げられた家だった。イヴリス達の住む場所も似たようなものだったので最初は不思議に思ったが、国の中心部と人里離れた村では人も技術も差があるのは仕方がないのかと思い口にすることは無かった
ルカが扉を開けるとその先にはテーブルの席に二人の男女が着いていた。二人は扉を開けたルカを見た瞬間安堵の表情を浮かべながら駆け寄ってくる
「ルカ!どこに行っていたの!」
「村中探しても見つからなかったから心配したぞ!」
「ただいまパパ、ママ」
二人に強く抱き締められ苦しそうにするルカ。その様子を蚊帳の外で眺めるイヴリス、長い事生きているイヴリスだが血の繋がった身内はいない。唯一家族とも言えるようなマリアも出会った頃にはそれなりの歳で自立していたので子を心配するという感覚がいまいち分からなかった。しかし水を差すのは良くないという事位は理解している為家族の時間が終わるまで大人しく待った
そしてようやく父親の方が家の入口で立っているイヴリスの存在に気づき一瞬視線を向けるとルカの方に向き直った
「ルカ、そちらの方は?」
「この人はイヴお姉ちゃん、迷いの森でお腹を空かせて倒れていたの。熊を倒しちゃう位強いんだよ!」
「ルカ、お前迷いの森に入ったのか。それに熊って・・・あそこは魔獣がそこら中にいて危険だから入ってはいけないとあれ程言っただろ!」
「た、だって皆の為に何かしたくって・・・」
父親の言う魔獣とは魔力を有している獣の事であり普通の獣とは違い遥かに凶暴な性格をしている。稀に高い魔力と共に知性を備えた意思疎通の図れる魔獣が現れる事もあるが大抵の場合が前者、我が子がそんな危険な生き物がいる場所に一人で行ったと聞いて黙ってる親はいない
父親に強く叱責され今にも泣きそうなルカ、先程とは一転して重い空気が漂う。こういった重苦しい雰囲気を好まないイヴリスは今度は割って入り無い頭を使ってルカのフォローに入った
「まぁまぁご主人、娘が言いつけを守らなかったのは確かに良くないことだ。だがそのお陰で助けられた人物がいるというのも事実、私が言うのもなんだが今回のところは大目に見てくれないか」
「・・・失礼、ルカを連れ帰って来てくれたこと感謝する。もし良ければだが夕食でも食べていかないかい?」
「おぉ!お言葉に甘えるとしよう。あっ、そうだ。森で倒したんだがこれは食えるんだろうか?」
玄関先に置いといた熊を見せるとルカの両親も他の村人達と同じような反応をしていた。聞くとこの熊はバーサーク・グリズリーという魔獣だったようで食材としても大変美味とののと
夕食にそれを出してもらうことにしてイヴリスは汚れた体を清める為に浴室へと案内してもらった。"浄化"という魔法がありそれを使えば体から汚れを完璧に取り除くことはできる。しかしイヴリスも一応は女性の身でありお風呂は当然好むところ、石鹸の香りと温かいお湯に浸かることによって心身に安らぎを齎してくれるのだ
そんな期待に胸を膨らませた状態で浴室へと向かうイヴリスだったが望みはすぐさま潰えた。ルカの自宅の浴室は実に簡素なもので浴槽もなければ体を洗う道具や石鹸も置かれていない。あるのは風呂上がりに使う用の使い古されたタオルと溜水のみ、少し考えれば家の外観から察することは出来たのだろうが久々にお風呂に入れるという気持ちが先走り、その分ガックリと肩を落とす結果に
とはいえ汚れた体のままでいる訳にはいかないし相手の善意で入れさせてもらっている身、冷水をわざわざ魔法でお湯に変え石鹸が無い分丁寧に洗い体を綺麗にした
何はともあれようやく体がサッパリし浴室から出てくるとちょうどルカの母親から声がかかる。食事の準備が出来たようなので席に着き共に夕食を頂いた
「あんなお肉調理するの初めてでお口に合うといいのだけれど」
「おぉっ!いただこう!」
食卓には先程の熊の肉で作られた様々な料理が並べられていた。どんなものかと一口食べると口の中でホロホロと崩れていく程柔らかくなっていて肉の旨みが口一杯に広がった
久々に食べるまともな料理にイヴリスは涙しながら口にした。ルカの母親が作った料理はどれも胃袋をガッチリと掴まえていた
料理に夢中になっている間ルカの両親から自己紹介をされた。父がルイス、母がカミラと言いルイスはこの村の村長を務めているとのことだった
対してイヴリスが素性を明かしたらどうなるかは目に見えているので、森で目覚めてからの記憶が曖昧で森にいた経緯や故郷は覚えておらず今は自分の名前しか分からないという体で話をした
「記憶がないだなんて・・・さぞお辛いでしょう」
「いやぁあっはっはっは・・・それにしてもママさんの料理は本当に美味しいなぁ!」
咄嗟に作った作り話なのに同情してくれたルカの母親に負い目を感じたイヴリスは手料理を褒めちぎり話を逸らそうとした。しかし次の瞬間、外の方から突然扉を強く叩く音が家の中に響き渡る。何事かと村長が急いで扉を開けに行くとそこには真っ青な表情をした村人が息を切らしながら立っていた
「村長大変だ!迷いの森からまた魔獣が襲ってきたぞ!」
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