勇者の凶報
シルキィワームを捕まえ布となる糸を出す魔獣を手に入れたイヴリス、服一着作れるまでの量に達する糸が集まるまでには数日かかるようで、ゴルドはその間に別の作業に着手し始めた
「糸を布にするには機織り機が必要じゃな。儂は暫くそれの製作に取りかかるからその間にネットスパイダーの方も捕獲頼むぞい」
「あの、私ここに来る前は服を作って売っていて機織り機も少し使った事があるのでもしかしたらお役に立てるかもしれないです」
「おぉ、それは助かるわい。よろしく頼む」
ゴルドが機織り機というものを作ると聞いていたのは新たに村にやって来た女性、それを使った経験があるらしくゴルドの助手を自ら買って出た
作る方はそちらに任せ、イヴリス達はネットスパイダーの捕獲へと向かった。ネットスパイダーが巣を作るのに使う糸は一見細く簡単に切れてしまう様に見えるが、とても丈夫なのでこの糸を縫い合わせるのに使う
探してみると以外とあっさり見つかり、頭一つ分位の大きさでシルキィワームよりデカかったが蜘蛛は問題なく捕えることができた
数週間程経つと機織り機も完成し十分な糸を確保することができたので、布の製作から取りかかり服の完成に至った
流石以前服を作っていたというだけあってイヴリスが買ってきた服と遜色がない出来栄えだった
「うん、肌触りもいいし中々いい出来なんじゃないか」
「イヴ殿の体に合わせて作ってみたんじゃ、試着してみてくれ」
「私の?体なんか計らせたことあったか?」
「あ、すみません。先日お風呂入っていた時に見させてもらいました。私人の体を見ただけでサイズを当てるのが得意でして」
「別にそれ位計らせてやるのに。だが記念すべき一着目か、有難く着させてもらおうじゃないか」
イヴリスは自宅に一度戻り作ってもらった服に着替えると見せびらかした
「どうだ?」
「わぁ素敵です!まるで高原に咲く一輪の花みたいです!」
「馬子にも衣装じゃな」
「言ってる意味は分からないが馬鹿にされてるのはなんとなく分かるぞ。しかし白い服は慣れないな、それに戦闘時にこんなヒラヒラとしたワンピースだと動き辛いし破いてしまいそうだ」
「そういった目的で作っていないからの・・・それを着ている時位は淑やかにし振舞ってみてはどうじゃ?」
お淑やかに振る舞うなどという行為はイヴリスから最も縁遠い行い、自分のそんな姿を想像しただけでも吐き気を催しそうになる
「まぁそれは置いといて・・・これだけの出来なら町でも十分売れるんじゃないか?今度町に行って知人に聞いてみるからもう何着か作ってくれないか?」
「わ、分かりました!頑張ります!」
「期待しているぞ」
後日ゴルド達に追加で何着か服を作ってもらった後、イヴリスはルインに乗って再び町へと向かった
街の入口に到着すると以前マーガレットから貰った札を見せると簡単に入れてもらうことができた。列を無視し税を払わずに入ることができるのは気分がいい
商会に到着するとマーガレットが他の従業員と作業をしている姿を見つけたので声をかけた
「やぁマーガレット、久しぶりだな」
「あっ!イヴさん!ご無沙汰しています。先日は本当にお世話になりました。あれから母の体調も変わらず調子がいいみたいで毎日元気一杯で働いています」
「あぁあのマッチョな母親か、元気そうでなによりだ。それよりも今日はこの2つを売りに来たんだ。商会で売ってもらうことはできるか?」
「お洋服とこれは・・・お酒ですか?少し拝見させて下さい」
イヴリスは服の他にも村で作ったお酒を持ってきていた。マーガレットにそれを渡すと商品として売り物になるか確認し始める。マーガレットの目つきは先程とは打って変わり真剣そのもので、服の縫い目や質感、お酒の香りや味等を念入りに確かめていた。いくら恩がある相手でも商売の事となったら話は別ということだ
正直お酒の方は売りに出すかどうか迷ったが、お金になれば村がより潤うし他のお酒も楽しめるだろうという考えで売ることを決めた
「素材もいいですし縫い目もしっかりしていますね。お酒も美味しいですしこれなら売り物として取り扱いできますよ」
「それは良かった、まだ安定供給は難しいがよろしく頼む。取り分の分配はマーガレットを信じて任せるとしよう」
「分かりました、適正価格で取り扱わせてもらいますね。父や母にも私から言っておきます」
商売の事はからっきしなのでそこは町一番と謳われている商会を信用して任せることにした。契約書の様なものに名前を書いている途中、マーガレットが先日来た勇者の事を話し始めた
「あっそうそう、イヴさんこの前この町に勇者様が来たじゃないですか」
「えっ、あ、あぁそういえばそうだったな。それがどうかしたのか?」
「その翌日に物資を求めて勇者様方がうちに来たんですがその時にイヴさんの事を話しまして」
「なにっ!?勇者に話したのか!」
「え?は、はい。私達を助けてくれた恩人だと。助けてもらった時の事を話したら名前や特徴を聞かれたので・・・」
その他に勇者に自分の事を何か話していないかと問うと、それ以降は話題に上がらなかったとの事で一先ず正体はバレていないだろうと安堵した。流石に名前や特徴が似ている位で魔王と断定してくることは無いだろう
「いいか?これからは他人に私の事をあれこれ話すんじゃないぞ。例え相手が勇者であってもな」
「ご、こへんなはい~」
マーガレットの両頬を抓ると涙目になりながら謝ってきた
迂闊に個人情報を漏らさないよう注意をしていると、町の中央から周りに何かを伝えながらビラのような物を投げている男がこちらに向かって来ているのが見えた
男の言葉を聞きビラに目を通した人間達は皆同様に開いた口が塞がらない状態になっていた。一体どうしたのかと男の声に耳を澄ますとそれは驚きの内容だった
「号外!号外!勇者アリシアと魔王が裏で繋がっていた事が発覚!死罪が決まったぞ!」
「勇者が・・・死罪だと?」
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