魔王、二度目の町へ
着替えを済ませたルインを隣の席に着かせルカ、カミラと朝食を共にしているとルイスが遅れて起きてきた。よろよろと覚束無い足どりで気怠そうなにしながら頭を抱えている
「イヴさん来てたのか、おはよう・・・あいててて」
「なんだ昨日の酒がまだ抜けてないのか?そういえばママさんも昨日は呑んでたよな。二日酔いは大丈夫なのか?」
「平気よ、こう見えて結構お酒には強いんだから」
「それはそうとイヴさんの隣の子は誰なんだ?」
あとから来たルイスはルインを見て首を傾げる。ルカとカミラにもまだ名前を教えただけで詳しくは話していなかったので再度紹介することに
ルインの見た目は獣人という体で話すことも出来たがいつボロが出るかも分からなかったから正直に魔獣だということを伝え、子供の頃に親とはぐれていて他の魔獣に襲われていたところを助けたら懐かれて一緒に暮らしていたという風に話した
ルイス達は目の前の可愛らしい姿をしている獣人の女の子が魔獣だなんて信じられないといったような顔をしていたが、高位の魔獣は人の姿に変わる事が出来ると説明したらそういう存在もいるのかとなんとか納得させることができた。実際ルイン以外にも人の姿になれる魔獣はいるので嘘ではない
しかしルインとの出会いを聞いたルイスは別の角度からイヴリスを攻めてきた
「イヴさん、記憶が戻ったのかい?」
「は?・・・あ、あぁ!いや完全にではないがルインと出会って断片的に思い出すことはできたかなぁ!?」
記憶が無くなっているという設定の事をすっかり忘れていたイヴリスは慌てて誤魔化す。自分ででっちあげた嘘が煩わしく感じてきたが他に良い言い訳も思いつかないのでなんとか辻褄を合わせるしかないと溜め息をついた
3人に紹介を済ませ朝食を食べ終えたところで外の方を見てみると、他の村人も起きてきて活動を開始しだしていたので全員にルインを紹介することに。先程と同じような説明をした後ルインの姿を見た村人達からは特に反対意見が出ることも無く受け入れられた
ゴルドの時から感じていたがこの村の住民は異種族に対しての偏見や敵対心がない。魔王国に攻めてきた兵士達は人族以外の存在は悪しき存在だというような思想を持っている者が殆どだったので、人族全員がそういう考えかと思っていたがそうではないようだ
「よし、じゃあ紹介も終わったし出掛けるとするか」
「あるじどこ行くの?ルーも行っていい?」
「あぁ、端からお前も連れて行くつもりだ。ちょうど買い足したい材料があるからちょっと乗せていってくれ」
「やったー!行くー!」
行くのは前回行ったホルストンの町、残りのお金を使ってクリムシューの材料とゴルドに頼まれた釘を追加で調達しに行く
魔獣の姿に戻りルインの背中に乗って町を目指す。ルインが得意魔法の属性は風、自身を浮かせ風に乗って上手く宙を走る事で地上を走るよりも大幅に時間を短縮できる
「やっぱり空の方が見晴らしが良くていいな!これなら大分早く町に到着することが出来そうだ!」
「思いっきり走るのきもちー♪」
天候も良く穏やかな陽気の中をスイスイと進んでいく。あっという間に山がある場所までやって来てそこを通過している途中でイヴリスの耳が何かを捉えた
「ん?ルインちょっと止まれ」
「どうしたのあるじ?」
森の中からなにやら争うような声が聞こえてきたのでルインを止めて再度耳を澄ます。すると今度は剣と剣とが交わる音と女性の悲鳴の様な声が聞こえてきた
音のする方へとルインを向かわせ確認しに行くととイヴリスの視界に入ってきたのは人族の同士が争っていた。人が乗っているであろう馬車とその馬車を護ろうとしている小綺麗な鎧を纏った兵士、そしてそれを兵士の倍以上の数で包囲している武装集団。後者の方の人間達は身なりがあまり整っておらず小汚い様相、この山を通過する者達を襲うならず者だと考えられる
馬車の窓は開いていてそこから中にいる人物が見えた。馬車の中には女性が2人、悲鳴を上げたのはあの者達だろう
「なんだか襲われてるみたいだね〜。まっルー達には関係ないから行こっかあるじ」
人間間のいざこざに興味がないルインにとって襲われている人間達がどうなろうと知ったことではない。イヴリスも襲われている者達が殺され犯されようと大した関心はない
けれど女達の身なりと兵士が纏っている鎧からイヴリスはお金の匂いを感じた
「ルイン、あれを助けるぞ」
「えー・・・?知らない人間を助けるのー?村の人間じゃないよー?」
「襲われてるあの人間達を助ければ後々いい事が起きる・・・と私の勘が告げている気がする」
「あるじがそう言うなら別にいいけど。あっちのやられそうなのを助けるんだよね」
「あぁ、お前は馬車に乗ってる奴とそれを守っている人間を助けてやってくれ。襲ってる奴は私が始末する・・・加減するのも面倒だし頭目以外は殺しても問題はないだろう」
イヴリスの指示に従いルインは動き出す。上空から一気に降下し馬車の近くに着地、その拍子にならず者数人がルインに勢い良く踏み潰され血飛沫を上げて一瞬で肉塊へと変わった
突然の出来事に襲撃されていた方もしていた方も混乱していた
「うわ~潰しちゃったよあるじ~、ばっちぃよ~」
「ちゃんと考えて着地しないからそうなるんだ。あとで綺麗にしてやるから我慢しろ」
「な、なんだこいつら!」
混乱している隙にイヴリスはルインの背中から離れならず者達へと距離を詰めて頭を拳で消し飛ばしていく。あまりに刹那の出来事で頭を飛ばされた敵は自分が死んだ事すら理解出来ず暫くバタバタと体をのたうち回らせていた
「ひ、ひぃ!化け物!」
「おいおい、私のような美女を前に化け物なんて酷い言い様じゃないか。まぁいい、可能な限り苦しまず殺ってやるから安心して殺されろ」
自分達がようやく狩る側から狩られる側になったと実感したならず者達は抵抗したところで勝ち目がないと本能的に判断し、我先にと武器を放り投げて逃げ出していった。それをイヴリスがみすみすと逃がすはずもなく、生きようと必死にもがく者達を一人また一人と淡々と作業するかのように仕留めていった
その中に他のならず者とは違い装飾類を身に付けた男がいた。今まで襲った者達から奪った戦利品なのかこれ見よがしに着飾っている
その男が一番頭目の可能性が高かったので殺すことはせず、脚の腱の部分だけを切り逃げる事が出来ないようにした
「こんなものか、もっと抵抗してくれた方が運動になるんだが呆気なかったな」
「あるじ~ちゃんと守ったよ~」
馬車を襲っていたならず者は頭目らしき男を除いて全滅、返り血で汚れた服を綺麗にしてイヴリスは馬車の方へと歩いていった
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