魔王国への再侵攻
ルインがイヴリスの元にやって来る数日前、魔王国には勇者軍が再び攻め入って来ていた
魔王イヴリスを倒したことで兵士達はこのままの勢いで完全な勝利を手にしようと開戦直後から果敢に攻めてくる。兵士達の中にはこのまま自分達が押し切って魔王軍を討ち果たす英雄となる、そう思う者達も少なからずいたであろう。しかし現実はそんな都合よく思い描いた通りの結果にはならない事の方が多い
「人間共め、今日も懲りずに攻めてきたな。彼我の戦力差を理解していれば攻めてくるような愚かな真似はしないはずなんだがな・・・魔王様を倒したことで欲をかいているようだな」
「その魔王様が実は生きてるって教えたらどんな顔をするかしらね。ふふっ」
戦が始まって今日で三日目、勇者軍の猛攻は各所に配置されていた四天王とその配下達に軽くあしらわれ連戦連敗。最初にあった勢いは衰えつつあり、今はなんとか魔王軍に抗い戦いを挑んでいる状態だった
それでも兵士達が諦めることなくどうにか踏ん張っているのは、勇者がまた魔王と戦った時のように今回も大業を成し遂げてくれると信じているからである
四天王の一人半人半鳥のグレイスは配下に用意させたお茶を啜りながら死物狂いに迫ってくる人間達の必死な様を優雅に眺めていた
「それにしても本当に退屈ねぇ、私達がここにいる意味ってあるの?それに比べてあっちは随分と楽しそうにしているみたいだけど・・・ドゥルージと持ち場交代してもらおうかしら」
「やめておけグレイス、彼奴は戦いの邪魔をされると味方だろうと襲いかかってくるからな。それに我々には与えられた役目がある。己の持ち場で為すべきことをするんだ」
「相変わらずドラグはお堅いことね。まっ、あとでマリアちゃんに小言言われるのもアレだしねぇ。でも退屈だから少し参加してこよっと」
ただ観戦し続けることに飽きたグレイスは自身が指揮をしてしいる軍の方へ参戦しに飛んで行ってしまった
グレイス、ドラグの配置場所は勇者軍の左軍と右軍、それぞれが配下に指示を送りそれらを迎撃して魔王国への侵入を阻止するのが今回の役目。そして先程名前が挙がったこの場にはいないもう一人の四天王、鬼人族のドゥルージはというと中央で勇者と戦闘を繰り広げていた
2人は昼夜問わず戦い続けていて実力は全くの互角。三日が経過して未だに勝負がつかないでいた。周囲の兵士達は魔王を倒した勇者であれば四天王程度そう苦戦することなく突破できるだろうとタカをくくっていた為驚きを隠せないでいる
「ハッハッハ!まだまだこんなものではないだろう勇者よ!もっと吾輩を楽しませてみろ!」
「くっ・・・!」
鬼人族は無尽蔵のスタミナと身体強化の魔法で戦う近接戦闘が得意、それに加えてドゥルージは勇者と同じ剣術を用いて戦っている
4本の腕それぞれに剣を握った四刀流、上下左右あらゆる角度から襲いかかる攻撃をギリギリのところで捌く
神経がすり減るような戦闘を三日ずっと続けていると流石の勇者にも疲労が表れ始めていた。一方のドゥルージには全く疲れた様子が感じられず、寧ろ今が戦の最中だという事を忘れて純粋に勇者との戦いを楽しんでいた
その様子を上空から窺っていたのは魔王軍全体の指揮を担うマリア、マリアは圧倒的有利な戦況を前に勇者軍に背を向けた
「あらマリアさん、何処に行くの?」
「城に戻らせてもらうわ。これ以上蟻に構ってる暇なんてないのよ。この程度の相手四天王の貴方達だけでどうとでもなるでしょうし私にはやることがあるから今後の全体の指揮は副官であるアイリーンに任せるわ。万が一危なくなったら呼んで頂戴。まっ、必要ないでしょうけど」
副官として隣にいた森人のアイリーンにそう言い残してマリアはその場から去っていった。こんな結果が分かりきった戦よりもマリアにはイヴリスを見つけ出すという事の方が余程重大なこと
あれから探索範囲を拡げてイヴリスを探しているが痕跡が完全に消されてしまっている為、捜索は困難を極めていた
魔王国領は粗方探し終え残すは人間達の領土、数だけは多い人族の領土は魔王国領の何倍も広くそこから見つけ出すとなると至難の業になる
イヴリスをどうやって見つけようかと考えながら歩いていると噴水のある広場へとやって来た。この城の中にある広場にはイヴリスのペットであるルインが毎日昼寝の場所として利用している。そのルインの姿が昨日から目にしていない事をマリアはふと思い出した
「いつもなら昼寝してたらするのに珍しいわね・・・ん?ルインはイヴリスにテイムされて主従契約をしてるのよね。あれっ、何か重要な事を忘れているような・・・」
喉元まできているが思い出すことが出来ないマリア、頭をフル回転させ必死に思い出そうとしていると配下の者がマリアの方に向かって走ってきた。慌てている様子でマリアの元に到着する頃には息を切らしていた
「マ、、リア様!ご、ごほう・・ゴホッゴホッ!」
「落ち着きなさい。どうしたの」
「し、失礼します。スゥー・・・ハァー・・・マリア様!魔王様の物と思われる布の切れ端が見つかったとの報告がありました!」
「それは本当!?何処なの!直ぐに場所の詳細を教えなさい!
配下の報告はイヴリスの居場所を特定することが出来るかもしれない大きな手がかり。ついさっきまで考えていたルインの事など一瞬で頭から抜けてしまった
ようやく掴んだ貴重な手がかり、少しでも可能性があるならとマリアは勇者軍との戦の経過など目もくれず大急ぎで報告があった場所へと飛んで行った
「待ってなさいよイヴリス!すぐに迎えに行って連れ帰してやるんだから!」
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