魔王、材料を揃え甘味を食す
牛達を捕らえたイヴリスは魔法で囲いを作って逃げられないようにした。閉じ込められた牛達は拘束を解かれた後も特に暴れる様子を見せなかった。イヴリスを襲った牛の末路が他の牛達の脳裏から離れず、抵抗したら同じ道を辿るとおもっているのかもしれない
「さぁ牛の次は鳥だ、牛と違って奴らは飛んで逃げるからな。出来るだけ静かに動くんだぞ」
「アオン!」
「馬鹿っ、静かにと言ったろ」
「クウゥン・・・」
鳥は警戒心が強く安易に近づこうとするとすぐ気づかれてしまう。気配を消す魔法を狼達にかけて再度捜索を続けさせる
すると数刻程経った後、茂みの中から狼がイヴリスの元へと報告にやってきた。相手に悟られぬようゆっくりと森の中を歩いていくと二羽の鳥が目の前に現れた
今回は牛の時よりも早く見つかった。二羽は番なのかずっと行動を共にしている、しかしイヴリスがそれよりも気になったの鳥のサイズ。町で見た卵を産ませている鳥は手で抱えることができる程度の大きさだったが、今目の前にいる鳥は先程捕らえた牛の全長を優に超えていて人が容易に乗れる体躯をしていた
「なんか町で見た鳥と大分見た目が違う気がするが・・・鳥の翼とか尾ってあんな感じだったか?まぁ顔が鳥だし卵を産むならどれも同じだろ。奴等を捕まえよう」
普通の鳥と異なる特徴がいくつかあったものの鳥類なら問題ないだろうと予定通り捕獲にとりかかる。忍び足で近寄りながら牛達と同じように魔法で捕らえようとしたその時、パキッと何かが折れる音がした。下を見ると誤って地面にあった枝を踏んでしまっていた。それに気づいた次の瞬間には枝の折れる音に反応した鳥の大きな目玉がギョロッと動きイヴリスと目が合った
鳥は翼を大きく広げると森中に響き渡る程の鳴き声を上げた
「キュイイイイイイイイ!!!」
片方が泣き喚くともう片方も共鳴するように鳴き始めた。一方は耳を劈くような甲高い鳴き声、もう一方は地鳴りが起きているかのような低い鳴き声。その2つの声が合わさり不協和音のような歪な音がイヴリス達を襲う
両手で耳を塞いでも容易に貫通してくる。暫く聞かされていると次第に狼達の足元がおぼつかなくなり一匹、また一匹とバタバタ倒れ出した。どうやらこの鳥達の鳴き声を聞き続けていると脳を揺さぶられて意識を飛ばされるようだった
ただの鳥ではないことは分かっていたが狼達がやられるのは想定外、狼達に続きイヴリスもそれで戦闘不能にしようとする。しかしいくら続けてもイヴリスにはその程度の攻撃はただの騒音でしかなく全く効果が表れなかった
「うるさい、いい加減にしろ!」
「ギュピッ!?」
痺れを切らしたイヴリスが自分の背丈よりも高い位置にある鳥達の頭を跳躍して叩いた。すると鳥は鳴き叫ぶのを止めた
どうやら鳥達の弱点は頭に飾りのようについていた鶏冠だったようで、軽く叩いたつもりだったのに簡単に倒れてしまった。誤って殺してしまったかと慌てて鳥達の様子を窺う
「死んでは・・・ないようだな。ふぅ、結果オーライだ。少しすれば起きるだろうしこのまま連れていくか。ほらお前達さっさと起きろ。これ位でやられるなんてだらしがないぞ」
「ク、クゥン・・・」
落ち込む狼達を起こし捕らえた鳥を村の近くまで引き摺っていき牛達のように囲いを作り入れていく。空を飛んで逃げるかと思ったが、この鳥達は翼があるだけで飛ぶ能力は備わっていないようだった
牛も鳥もイヴリスの前に反抗する意志はなく大人しいもの。抵抗しなければ餌も貰えると分かったようで従順に囲いの中で暮らしている
とはいっても狼の時と同じくいきなり村人達を近寄らせるわけにいかない為、少し離れた場所で飼育することに。村長のルイスにもこの事を報告しておいた
「イヴさん、これだけの魔獣をよく手懐けられたな」
「ん~・・・あっそういえば昔ペットを飼おうと思って魔獣懐柔を覚えたんだっけ。多分それを無意識に使っていたからすぐ大人しくなったのかもしれないな」
「魔獣懐柔って一体か二体位が限界だと聞いたが・・・いやもうイヴさんのする事に驚きはしないが」
ルイスにも報告を済ませ村には人間よりも魔獣の数の方が多くなってしまったわけだが、これであとは乳を出してもらい卵を産んでもらうだけとなった
ゴルドからは捕らえた牛と鳥はホーンブルとコカトリスという魔獣でどちらも中々に手強い魔獣だと聞かされる。ブルの出す乳もコカトリスが産む卵も栄養価が高く食用にも向いているとも教えてもらった
乳の方は雌の牛を選出し乳搾りの経験がある村人にイヴリスの監視付きでやってもらった。一度煮沸してから味見してみたが普通の牛の乳よりも濃厚な味わいで問題なく飲むことができた
それから更に数日が経過したところで雌鳥が卵を産んだ。体が大きいだけあって卵のサイズも通常のものより何倍も大きく、卵一つで普通の卵の何十個分にもなった
これで材料は揃いあとはレシピに書いてある通りに作っていくだけ。しかしイヴリスは食べる専門、自分で作るとなると失敗する自信しかなったので普段から料理をしているカミラにレシピを見せて作ってもらうことにした
「どうだママさん、作れそうか?」
「クリムシューを作るのは初めてだけど頑張ってみるわ」
「よろしく頼む!」
その後カミラは失敗を繰り返しては微調整をしながら再挑戦、本来必要な設備が整っていない中工夫を施しつつ何度目かの挑戦でようやく完成に至った
見た目は町で食べた物と遜色がない。イヴリスは出来上がったクリムシューを手に取りそれを口に入れる
ホーンブルの乳とコカトリスの卵で作ったクリームは濃厚でありながらも決してしつこくなく、生地は町で食べた時のものより少し硬めでサックリとしていて食感も楽しむことができた
「美味い!美味いぞ!ママさん!これならいくらでも食べられそうだ!」
「上手く出来たみたいでよかったわ。子供達も喜んでるみたいだし」
「これ甘くてすっごく美味しいねー♪」
お菓子が大好きな子供達にも大好評で作ったクリムシューはあっという間に完食された。材料が限られている為まだ日常的に作ることは出来ないが、今後他の材料も安定供給できるようにしていずれはクリムシューの食べ放題をしてやると新たな目標を目指すイヴリスであった
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