魔王、敗北する
魔王イヴリスを打ち倒すべく戦いを挑んだ勇者、両目を犠牲に得た力で魔王と激闘を繰り広げる。目が見えないという大きなハンデは相手の魔力を探知する事ができる"魔力索敵"と地形を把握する"地形探査"、この二種類の魔法を併用することでカバー。禁術は身体能力だけでなく本来の魔力量も大幅に上昇させるので二種類の魔法を同時使用しても問題なく戦うことができる
「いいぞ、もっと私も楽しませてみろ」
「貴女・・・それだけの魔力を持っていてどうして魔法を使ってこないの」
魔力索敵は相手の魔力の質を感知するだけでなく相手の魔力量を知ることができる。魔王の魔力量は人では到底到達し得ない領域、それ程までの魔力を持っていながらもこれまでイヴリスは魔法を使う気配はなく勇者の攻撃を軽くいなすだけで反撃してくる素振りすら見せない。勇者はそれが気に食わなかった
「大した理由じゃない。私は力を制御するのが苦手でな、魔法で攻撃してしまうと周囲が消し飛んでしまうから自重しているんだ。それに魔法まで使ったらあっという間に決着がついてしまうだろ?」
「・・・絶対倒す」
魔王の言葉を聞き先程よりもあからさまに鋭い殺意を向けてくる。当然イヴリスは挑発目的で発言したつもりなど微塵もない。ただ事実を述べたまでのことで他意はなかった
勇者と魔王の戦いは激化の一途をたどり周辺で戦っていた者達はその光景を見て息を呑む。周りからすれば互角に戦っている様に感じられるかもしれないが実際に戦っている勇者は徐々に焦りを見せ始めていた
魔法に斬撃、いかなる手を使っても魔王を倒すどころか傷一つすら与えることが出来ていなかった。序盤から全力を維持し続け体力も魔力も激しく消耗しているのに対し魔王は息を乱していない・・・このままでは他の勇者と同じ道を辿ることになってしまう
攻撃が通用していない勇者は一度息を整える為に距離を大きく開ける。その姿を見てイヴリスはこの辺りが限界かと悟った
イヴリスは戦う前からこのような結果になるのは分かっていた。確かに禁術を使用した目の前の勇者は今までのどの勇者よりも強い・・・・が、しかしそれは歴代の勇者の中での話で自分に匹敵する程の強さなのかと問われたら答えは否。両目を犠牲にしても尚魔王の領域に至ることは出来ない、その事に落胆はしたがやはり自分に勝る勇者が現れることはないのだと知ることができただけでもイヴリスにとっては収穫だった
勇者の力量は十分に理解した。これ以上戦っては相手が倒れてしまうだろうしと思いイヴリスは動き出す
「そろそろお前の限界が近づいているようだな、最後に渾身の一撃を私に食らわせてみろ!勇者!」
勇者に煽る様なセリフを放ち敢えて相手の最高の一撃を使わせる。普通の攻撃で倒されても構わないがそれだと相手も不審に感じる可能性があるのでここは相手の持つ最大火力の攻撃を受けて倒されるという算段を立てた
安い挑発だと知っていても勇者は乗るしかない。魔王の言う通り残されている力は残り僅か、魔王を倒すの為に彼女は切り札を出さざるを得ない状況
現時点で自分が出せる力の全てぶつけて魔王を倒す。一度深呼吸をし柄に手をかけ居合の体勢に入る勇者、それを無防備な状態でただ眺めているイヴリス
たった数秒、その数秒の沈黙は周囲の者達にとって悠久の時かのように感じた。しかし周りの空気とは裏腹に決着は一瞬でついた
「赫聖一閃」
剣を抜いた瞬間に姿を消す勇者、再び現れたのは魔王の背後。あまりに一瞬の出来事で何が起こったのかと周囲にいた者達が困惑していると突如魔王の体が炎に包まれた
勇者の持つ剣は選ばれた者のみが使う事が出来る"七彩聖剣"という唯一無二の剣で、所有者の得意とする属性を極限まで高めてくれるだけでなく全属性が扱えるようになる国の至宝。今放たれたのは火属性と最速の居合を掛け合わせた技で渾身の一撃、これを塞がれてはもう勇者に残された手はない
全てを出し尽くした体でなんとか振り返り攻撃を浴びせた魔王の方に視線を向けると、魔王は炎に包まれたまま地面に伏していた
「やるな・・・まさかこのわたしがやられると・・・は・・・」
どうにか振り絞ったか細い声で放った言葉を最後にそれ以上魔王が動くことはなかった。恐る恐る焼けた魔王の体に近づき生死の確認、そして完全に事切れたことが分かると勇者軍側からは割れんばかりの歓声が上がった
「倒した・・・勇者様が遂に魔王を倒したぞー!」
「うおおおおおおお!!!」
歓声は他の場所にも伝播し各所に魔王が倒されたことが報される。対照的に今まで圧倒的な強さを誇っていた魔王様が倒されてしまった魔王軍の配下達は、現実を受け止められないといったような様子でその場で立ち尽くしていた
歓喜に打ち震える者、現状についていけていない者。魔王を倒した勇者はそのどちらでもなく唯一人腑に落ちていなかった
彼女が魔王を斬った時の手応えは確かなものだった。けどそれまで全く歯が立たなかった相手だけにあまりにもアッサリいきすぎている
しかし魔王の亡骸は確かに目の前にある。魔力索敵の反応もなし、周りの配下達の様子からして身代わりという可能性も感じられない。不審に思う点はあったが焼けてしまっている状態ではこれ以上確認する術は勇者達にはなかった
力を使い果たしもう立つことさえままならない勇者は事後処理を他の者に任せ、一度回復をする為後方に配置してある支援部隊の場所まで後退することにした
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