魔王、ドワーフを仲間にする
イヴリスの前に現れた小柄な体躯をした男性。彼の種族名はドワーフ、彼らは手先が器用で昔から剣や防具といった装備の製作を得意としている。武器以外にも家具や工芸品と多岐に渡る
ドワーフは魔王国や人間国のどちら側にもついていない種族で、その高い技術力で独自の発展を遂げ国を築いている
ドワーフの国は山の奥地にあると聞いたことがあり何故そのような種族がこのような人の町にいるのか不思議に思った
「お前ドワーフだよな?こんな人の町にいるなんて珍しいな」
「・・・なんじゃお主は?儂の事は放っておいてくれ」
「お前に興味があるから少し話を聞かせろ。ここじゃなんだし場所を移すか」
「おい、儂の話を聞かんか!というかどこへ連れていく気じゃ!ふぬぬぬぬ・・・!力強っ!」
襟首を掴まれ強引に連れて行かれそうになり抵抗するドワーフだったがイヴリスは構わず自身が泊まっている宿へと連れて行った
部屋に放り込まれたドワーフはここに来るまでの間、必死に抵抗を続けたが相手が全く意に介していなかったのを見て観念したのか大人しくなっていた
「で?なんであんな所にいたんだ?」
「先程も言ったがお主に話す義理は・・・」
ギュウウウウゴロロロロロロロ・・・・
話している途中に雷でも落ちたかのような音がドワーフのお腹から聞こえてきた。男の姿をよく見ると服は汚れているし少し臭いもしていてまるで以前のイヴリスの様だった
相手がお腹を空かせていると知ると否やイヴリスはそこを突いていく
「なんだ、お前腹が減ってるからそんなにイライラしているのか」
「ち、違う。儂は腹なんか減っとらん」
「ふーんそうかそうか。おっと、ちょうど飯の時間だし私は昼食でも頂こうかな~」
イヴリスは宿の店主に用意してもらっておいた弁当を男の目の前で広げこれ見よがしに昼飯を食べ始めた。ドワーフはその様子を目にして涎が垂らして眺めていたが、既のところで堪えているようだった
それを見たイヴリスはもう一押しだと感じドワーフの前に弁当をチラつかせて交渉を持ちかけた
「どうだ、私の奢りでお前の分を用意してやってもいいぞ」
「い、いいのか!」
「ただしこの町に来た理由を教えて貰うぞ」
「くっ・・・!わ、分かった!分かったから飯を食わせてくれ!もうかれこれ2日は何も食べていないんだ!」
ドワーフは思っていたよりもあっさりと観念した。店主に昼食をもう一人前追加で作ってもらいドワーフの前に置く、すると一心不乱で息付く暇もなく食べ始めた
その経験を一度味わっているイヴリスは食べ終わるまで話を聞くのは待ってやることにして自身も残りの弁当を食べ尽くした
「どうだ腹が膨れたら少しは落ち着いただろう」
「あぁ助かった、感謝する」
「さっ約束通り話を聞かせてもらおうか」
昼食を食べ終えるドワーフは始めの頃よりも少し落ち着きを取り戻していて、言われた通り事情を話し始めた
ドワーフがこの町に来ていたのは自国から離れ仕事を探す為だったという。人間であればその話でもなんらおかしくはないが彼はドワーフ、他種族に比べて人間のドワーフに対しての扱いはまだマシだが、それでも知らない土地で職を探すより自分の国で職を見つけた方が確実だろう
不思議に思う点はあるにはあったが、かといってそこまで隠すような話には思えなかった
「金を使い果たしてまでここに来た理由にしては薄いな。何かもっと理由があるんじゃないか?」
「実は儂は・・・儂は魔工が扱えないんじゃ」
「魔工?」
魔工とはドワーフ族にのみ代々伝えられている特殊な刻印がされた特別な工具を用いて行われる名称で、使用者の魔力をを込める事によって作られた物は通常の工具で作られた物よりも格段に優れた物へと出来上がる。剣であれば刃こぼれせずに岩をも切る切れ味へと変わり、盾であれば竜の炎にも耐え得る強度になる
他にも家具であればとても丈夫で長く使える一品に仕上がったりと様々な面で効果を発揮してくれる。当然それだけの工具となればドワーフ族以外にも欲する者が現れたが、刻印はドワーフの魔力のみに呼応するように刻まれているのでそれ以外の人物が魔力を込めたとしてもそこら辺にある工具と変わらない
「ドワーフの専売特許であるその魔工がお前は使えないと・・・」
「そうじゃ、まともに魔工が扱えない儂はあの国では落ちこぼれ。あそこでは雑用係程度の仕事しか与えられんじゃろう。それでも儂は自分の手で物を作りたいという欲求を抑えられず、ならばと人族の町で再起を図ろうとしたんだが誰も雇ってくれなくてな・・・魔工が扱えないドワーフなんて価値はないと言われてしもうたわい」
「つまり今のお前にはどこにも行く当てがないというわけだな。なるほどなるほど・・・」
周りからしたらこのドワーフの価値なんてたかがしれているのかもしれないが、今のイヴリスにとってはうってつけの人材
魔工が使えないというだけで基礎の知識はしっかりと身についていて普通の職人と遜色のない働き先を求めるドワーフ、これ以上ない人材を見つける事ができたイヴリスは正に好機だと思いドワーフを勧誘することにした
「なら私の住む村で働いてくれないか?」
「なんじゃと?」
「住民の家がかなり古くなってしまってな。村に直せる人間がいないからこの町でお前のような人材を探していたんだ。かなり辺鄙な場所で金がないから当面の賃金は三食の食事付きとなるだろうが・・・お前が必要なんだ」
正直雇う条件としてはあまりにもお粗末、断られてもおかしくない条件だ。ドワーフは暫しの逡巡の後答えを出した
「今の儂にはお誂え向きかもしれんのぉ。分かった、その話受けさせてもらおう」
「本当か!」
「このままこの町に居続けても結果は目に見えておるしの。それなら儂を必要としてくれている場所で働いた方がずっといい」
町に来て数日、ようやく村に行く事を了承してくれる人材を見つけることができたイヴリス。まだ陽は高かったがこれから村へ戻るとなると夜遅くになり迷ってしまう恐れがあったので、明朝に町を出ることにした
読んでいただきありがとうございました!
「よかった」「続きが気になる」など少しでも気に入ってくれていただけたら幸いです
次回は木曜日20時に投稿予定です。よろしくお願いします!




