魔王、酒を煽る
体目当てで襲いかかってきた男達を一蹴しお金を調達したイヴリスは町の大通りへと戻り泊まる宿を探し始めた
町までの移動の他に無駄な労力を使ったお陰でお腹を空かせてしまったイヴリスは最初に目に留まった宿屋に入ることにした
大通りを少し歩いていくと他の店よりも一際賑わっている場所を発見した。お店の中を覗いてみると大勢の人間が楽しそうに飲み食いをしている
看板を見るとそこのお店はどうやら宿も兼営しているようだったので、料理のいい匂いで空腹が更に増してしまったイヴリスがこれ以上我慢出来ずこの店の宿に泊まることにした
「いらっしゃい、お客さん。なんにする?」
「飯もそうだが宿に泊まりたいんだ。とりあえず3日程泊まりたいんだが金はいくら必要だ?」
「はいはい、宿泊のお客さんね。それだと素泊まりなら銀貨12枚、朝食と夕食付きなら銀貨20枚になるよ」
「よし、ちょっと待っていろ」
金額を言い渡されると男達からくすねた袋の中からお金を探り始めた。町に入る際、男達が支払いをしている姿を眺めていたのでどれが銀貨かは理解している。といっても袋の中に入っている殆どが銀貨と銅の硬貨の二種類しかなく見極めるのは簡単だったので、適当に手で掬い上げてテーブルの上に無造作に置きそこから提示された金額分の銀貨を支払った
「毎度、部屋は二階に上がって右奥の部屋を使っておくれ。食事の方なんだけど見ての通り今混んでいてね、準備にちょっと時間かかるから待ってくれるかい?あっ、お酒ならすぐ出せるよ。お酒は別料金になっちゃうけど」
「おお酒か!勿論頂こう!」
食事のお供といえばお酒、イヴリスにとってお酒は水変わりとして呑む位好物で魔王国では呑まない日はなかった
今すぐ何か口にしたかったイヴリスだったが、気分は完全に酒へと変わり一刻も早く呑みたいという欲求に駆られながら鍵を受け取り二階の部屋を目指した。宿の部屋は可もなく不可もなくで村長の家よりは最低限のものは揃えられていてずっとマシだが、それでもやはり物足りなさはあった
だが今のイヴリスにそんな事はどうでも良かった。荷物をベッドへと放り投げ一目散に下へと戻り空いてる席に着いてお酒を注文した
「ッカー!久しぶりの酒は体に染みるなぁ!おかわりを頼む!」
ジョッキから溢れそうな程注がれたお酒を一気に呑み干しすぐさま二杯目を注文。通常銅貨5枚で一杯、二杯で銀貨一枚となるが宿を利用している者に限り銀貨一枚で三杯呑むことができるらしく、それを利用して次々と注文していくイヴリス
ものの数分でイヴリスの座るテーブルには大量のジョッキが並べられていきそれをホール担当の女性が慌てて片付けていく。それでもまだまだ足りないと追加でお酒を注文するイヴリスの背後に一人の男性が近寄ってきて声をかけてきた
「そこの綺麗な姉ちゃん、いい呑みっぷりだなぁ」
久々のお酒にありつくことが出来て気分が良かったのに水を差されたような気分になったイヴリスは露骨に不機嫌な態度をとり男の方に目を向けた
ただでさえ男絡みで一悶着があった後なのでまた面倒な事になるのではと思い、無視することにして再びお酒に手を伸ばそうとしたがそんな事などお構いなしに男が話を続けてきた
「どうだい俺と呑み比べといかないか?」
「呑み比べだと?」
「おう、お互い同じ酒をジョッキで頼みぶっ倒れるかどちらかがギブアップするまで呑み続ける。それで負けた方が勝った奴の今日の酒代を全て支払うってルールだ。どうだ?」
「つまりタダ酒が呑めるということか!その勝負受けて立つ!」
男の勝負に食い気味に挑んでいくイヴリス。ただ飲食をする者より若干お得に呑めるからといってやはり無料というわけではないので飲める量には限界がある。イヴリスにとってこの勝負は願ってもいない提案だった
意気揚々と注文しお互いの前にお酒が置かれると、いつの間にか2人の前にはギャラリーが集まっていた
「あの嬢ちゃんギムレットの勝負を受けるなんて無謀なことをしちまったな」
「どっちが勝つか賭けるか?」
「バカッ、そんなの分かりきってて賭けになんねーよ」
いかにも酒豪の見た目をした男とまだ成人したばかりの勢いだけでお酒を煽っているようにしか見えない女性、傍から見たらどちらが勝つかなんて一目瞭然だった。しかし・・・・
「もう・・・ダメだ・・・」
「なんだ、勝負を挑んできた癖にだらしがない奴だな。まぁこれで酒代がタダになるなら儲けものだ」
「う、嘘だろ・・・ギムレットが潰されるところなんて初めて見た」
「あの嬢ちゃん何者だよ・・・」
ジョッキ30杯目に差し掛かったところで男は限界を迎え仰向けに倒れてしまった。対するイヴリスはというと酔い潰れるどころか顔色一つ変えずに呑み続けていた
その後あれだけ呑んだ後ならと何人か勝負を挑んでくる者が現れたが全員が潰され、その光景を目の当たりにしていた者達はただただ呆然と立ち尽くすしかなく、以降イヴリスに勝負を挑んでくる様な輩は現れなかった
お酒を一通り嗜んだイヴリスは夕食もしっかりと完食、久しぶりに気分良く眠りにつくことができた
翌日、朝食を済ませた後店主に建築関係の人材を探している旨を伝えると、親切に地図まで描いてその人材がいそうな場所を教えてくれたのでそこへと向かってみることにした
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