魔王、村を豊かにする
村人達の病の原因であった樹木精霊を捕らえ自身に従わせたイヴリスは、精霊を村の場所まで連れて行った
ヤケクソで付いてきていた精霊はその道中で冷静になり、自分の身を心配しているようで終始おどおどとしていた
「わ、私をこれからどうするつもりなんですか。やっぱりどこかに売りさばくんじゃ・・・」
「諄いぞ、何度も言うがそんな事をする気は毛頭ない。それに売り飛ばすならお前を自由にさせるより拘束しておいた方がいいだろ。お前は私の為に働いてもらうんだからな」
「そんな事言って私を油断させたようとしているんじゃ・・・もしかして私の身体が目当てで!?」
未だに警戒している様でこの様な問答を移動中の間何度も繰り返してウンザリしていた。売り飛ばせば一時的に大金を得られるだろうがそれでは根本的な問題は解決しない
イヴリスは樹木精霊を別の方法で活躍してもらおうと考えている。その活躍の場へと到着した
「着いたぞ、お前にはこれからここで私の為に野菜を作ってもらう!」
「ここで野菜を・・・?」
イヴリスが連れてきた場所は迷いの森と村のちょうど中間地点に位置する何も無い平坦な土地、樹木精霊にはここを新たな畑として野菜を作りを行ってもらう。現状村の主食となっているのは肉、数日程度ならいいがこれからの事を考えると必ず飽きがくる。村で野菜も作られてはいるがあまり品質のいいものでもないしそもそも野菜作りは日数がかかってしまう
しかし樹木精霊が育てるのであればそれを大幅に縮めることができる。樹木精霊が住む土地は魔力の影響により豊かな土壌へと変わり育つ植物も成長が早くなる。野菜を育てれば栄養満点で上質な物が出来上がるに間違いない
様々な植物を季節関係なく育てる事ができるという能力を持っている。イヴリスの求める人材として彼女は打って付けなのだ
「えっ?えっ?野菜を育てるってそんな事でいいんですか?」
イヴリスの出してきた指示に今まで警戒していた分呆気にとられてしまった精霊。樹木精霊にとって植物を作ることなど寝ながらでも出来る作業、ここに来るまでどんな事を要求されるのかとずっと怯えていたのでそんな些細な事でいいのかと思わず聞き直してしまった
「前に樹木精霊が作った野菜を食べた事があるんだがあれはとても美味かった。お前が野菜を作ってくれれば食事の水準がまた一段上がるだろ?私は楽して美味いものを食べたいんだ」
「そんな事でいいのでしたら・・・ということはつまり人間にも食べさせるということなんですよね?」
「そうなるな、嫌か?」
「まぁ色々と思うところはありますが売り飛ばされてしまうよりは自由があってずっといいですね・・・でもできれば人間とは関わりたくはないです」
人間を信用する事は出来ない精霊は村の人間達と接触をしない事を条件に野菜作りを了承してくれた。イヴリスとしても精霊の事をどう説明しようかと思っていたので好都合である
あとは村の人間達に病の事をなんて話せばいいか、いくら考えたところで名案は思い浮かばないのでその時咄嗟の思いつきでどうにか乗り切ってくれるだろうと未来の自分に委ねることにした
「それにしても私の他にも精霊に会った事あったんですね。因みになんという名前だったか憶えていますか?」
「随分と昔に一度だけだがななんだったか、セから始まったようなセー・・・セレなんとかだったと思うが。お前よりもずっとちっこくて大したことはなさそうだったぞ」
「小柄な樹木精霊って・・・もしかしてセレス様のことでは!?」
イヴリスが精霊に以前会った樹木精霊の特徴を話すと途端に前のめりになって食いついてきた。話によると昔出会った樹木精霊はどうやら樹木精霊の中で最上位の存在だったようで同じ種族である彼女でさえ素顔を見たことがないという
樹木精霊の間では有名な人物らしく精霊のイヴリスを見る目が変わっていた
「まぁそんな奴の事はどうでもいい、それよりもお前の名前を聞いていなかったな。覚えてやるから教えろ」
「そんな奴って・・・まぁいいです。私の名前はネイチェルと言います」
「よしネイチェル、とりあえず何でもいいから野菜を作ってくれ。美味ければ種類は問わない、頼んだぞ」
野菜作りの方はネイチェルに任せておけば問題なし。イヴリスは村に戻り村人達に報告をしに向かった
村に到着すると真っ先に村長であるルイスの所へと行き病気の原因だったものは排除したと伝えた
すると案の定一体何が原因だったのかと説明を求められたので、イヴリスはとりあえず迷いの森に毒霧を吐く魔獣がいてその毒霧を知らずのうちに吸ってしまったから病にかかった、という事にしてその魔獣は既に討伐済みだとルイスに説明をした
「というわけで村を脅かしていた病気の問題は解決することは出来たがまたいつ似たようなのが出るか分からないから今後は迷いの森には近づかない方がいいだろうな。何かあったら私か狼達で対処するとしよう」
「そうか・・・魔獣の仕業じゃどうしようもないな・・・イヴさんもありがとう、助かったよ。被害に遭った者達には私から伝えておく」
イヴリスの言葉を信じたルイスは感謝を述べた。それを聞き心の中で上手く誤魔化せたとガッツポーズをする
謎の病の件はこれにて一件落着、それから一週間が経った頃にネイチェルの元に行ってみると何も無かった土地に青々とした野菜に果実の様に丸い実が生った野菜が所狭しに出来上がっていた
「こんな感じで良かったですか?」
「どれ、一つ味見・・・んん!美味いぞ!良くやったな!」
「そ、そうですか?えへへ・・・」
イヴリスの嘘偽りのない素直な意見を聞かされたネイチェルは褒められ慣れてないのか露骨に照れる
これで肉の確保に続きネイチェルのお陰により新鮮な野菜を手に入れた。衣食住の食を充実させたイヴリスは次なる手を模索した
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