魔王、精霊と出会う
村人達を襲う病気の原因を探る為迷いの森へと再び入る事を決めたイヴリス、しかし1人ではまた遭難してしまう恐れがある為森をよく知る狼達を共に連れていく事にした
村の人間達でも迷いの森の中を案内してもらうことはできるが、病にかかる可能性がある以上無駄に面倒を増やすわけにはいかない
「お前達、何か異変を感じたら報せるんだぞ」
「バウッ!」
狼達に囲まれながらイヴリスは森の中へと入っていく。相変わらず周囲は薄暗く鬱蒼としていてここにいると迷っていた時の事をつい思い出してしまう。抜け出せなくなる事以外は至って普通な森、原因をさっさと突き止め帰って食事にしたいイヴリスは移動手段を徒歩から変更する事に
「おぉ!これは楽チンだなぁ!」
狼の親玉クロの背中に乗り森の中を駆けていく。狼達ならこの森を走り慣れているしイヴリスが疲れる事もない。速度も上がり探索範囲も広がった
小一時間程森の中を走り回った事でイヴリスはある疑問を感じた。それは狼達以外の魔獣が一向に現れないことだ
遭難していた時もそうだが森の中で一度も魔獣を目撃したことがない。狼達は何時も村の分と自分達の分の魔獣を狩ってくるからいないということはまず考えられない
邪魔する相手もおらず探索に集中できるので寧ろ助かりはしている。だがこのついでに食料確保もしてしまおうと思っていたのでアテが外れてしまっていた
「何の手がかりもなく走り続けても意味がないな・・・ん?」
森の大分奥までやって来たところで景色が霞みがかってきた。初めて森に入った時と同様視界を遮る様な濃い霧が徐々に迫ってくる
思えばこの森に入った時に霧は発生していなかった。それがなんの前触れもなく突然現れたことに違和感を感じたイヴリスは辺りを見回す。霧が発生しているのは前方のみで進んできた方向からは霧が生まれていない
「もしかしてこの霧が病気と何か関係していたりするのか?」
これだけでは断定できないが、この霧は意図的に生み出されているかもしれないと長年生きてきたイヴリスの直感がそう告げていた。他に足がかりとなるものもありそうに無いしとりあえず霧の向こう側を目指すことに
あの時は空腹で一刻も早く森を抜けようとただ闇雲に走り回っていたが今回は違う。この霧が意図的にしろなんにしろ拡散されているのだとしたら霧が濃くなっている場所を辿って行けば発生源に辿り着くことが出来るはず
やることが決まればあとはひたすら突き進むだけ。狼達を走らせて霧の濃い場所濃い場所へと向かっていく
進むにつれて霧は段々と濃くなっていき視界が悪くなる。しかし狼達にとって庭のようなこの森ではどうということはなかった
「お?景色が変わったな」
霧の発生源を目指し続けているとやがて開けた場所にやって来た。霧の濃さで全体までは見えないが進んでいくと中央には今まで見てきた樹よりも一際大きい樹があるのを確認した
この霧のせいで魔法を使うことは出来ないが中央の樹からは何者かの気配がする。隠れて誤魔化そうとしているようだがイヴリスを欺くことはできなかった
狼達よりもずっと強い気配、ここにいる相手が霧の発生源で間違いないようだ
まどろっこしいのを好まないイヴリスは隠れている相手を炙り出す為強硬策に出た
「おい、そこにいるのは分かっているぞ。10秒以内に出てこなければこの森ごとお前を消す。10、9、8765432・・・」
「ちょちょちょ!ちょっと待って下さい!」
イヴリスの突然のカウントダウンに隠れていた人物が正体を現した。樹の中から現れたのはセミロングのブロンドヘアーで背中に羽を生やした女性。見た目はイヴリスと同じ人の見た目と大きな差はないが、その女性は人とは明らかに違う雰囲気を放っていた
「ほぉ、樹木精霊か。珍しいな」
「なんなんですか貴女は・・・」
イヴリスに対して嫌悪感丸出しな表情を見せてくる女性の種族は樹木精霊。森を住処にしていて滅多に姿を現さない精霊種の一種。この精霊が村人達に危害を加えていたのか定かではないが霧を生み出していたのは間違いない。樹木精霊はとても臆病で他者を近づけさせない為に自分の縄張りに入ってきた者には妨害を行ってくる。死に至らしめる程の事をしてくるというのは聞いた事がないが、イヴリスはこの者が病気の原因だと感じ単刀直入に話を切り出した
「なぁ、お前が人間達を病にさせて殺したのか?」
「・・・・そうですけどそれが何か?」
「人間達を近づけさせない為だったら殺すまでしなくていいだろう」
「・・・人間達が私の仲間を騙して無理矢理連れていったんですよ!だから怖くって・・・!」
予想は的中したが樹木精霊にも理由があった
迷いの森で暮らすより以前に住処としていた森がありそこで平和に生活を送っていた。そこでたまたま人間達に見つかってしまい住処を変えようとしたが、人間達は共存を持ちかけてきたという
樹木精霊は臆病ではあるが友好を深めた相手を信じやすい傾向がある。精霊は珍しい故に高値で取引されるから一旦はいい顔をして精霊達を騙して油断したところを捕まえられたのだろう。精霊は基本束になって生活しているので孤独になった彼女は恐怖に耐えられず今回の様な行動を起こした、とのことらしい。あの霧は人間のみ有効でその他には魔法が使えなくなる位で毒自体は効かないそうだ
涙ながらに理由を話す精霊はイヴリスに問いかけた
「見たところ貴女は人間ではないですよね。どうして人族なんかに紛れて一緒に生活しているんですか?」
「ふっ、生きていると色々あるんだよ・・・まぁ存外人との暮らしも悪くはないからな。お前が話す様な悪い奴もいれば良い奴もいる」
「そんな事言っても急に信じられるわけないじゃないですか・・・」
暗い表情を浮かべる精霊をよそにイヴリスは記憶を遡っていた
霧の発生源は突き止めこれで病気の件は片付く。しかしそれよりも前に霧のせいで魔法が使えず野垂れ死にそうになっていた事を精霊の話を聞いていて思い出した
「そうだ!こんな事よりも私を飢え死にさせかけた事だ!お前の霧のせいで魔法は使えなくなるわ空腹で力が出なくなるわで餓死するところだったんだからな!その分をしっかり精算してもらわないとなぁ?」
「えぇ!私の話を聞いてたのなら許してくれても・・・」
「そんなの私に関係ないだろ。じゃあ好きな方を選ばせてやる。私にこの森ごと消されるか大人しく言うことを聞くか」
「それって実質一択なんじゃ・・・なんだか人間達より危険な香りがするんですけど」
イヴリスに対して危機感を覚えた精霊。今なら逃げ出す事も出来るがそれを目の前の存在が許してくれないだろうと本能で感じ取った
何をされるのかと怯える精霊にイヴリスは一声かけた
「安心しろ、危害を加えるつもりはないしお前を騙そうとはしない。この私が誓ってやろう」
「・・・はぁ、分かりましたよ!もうどうとでもなれです!」
半ばヤケクソで従うことを決めた精霊。病の件も片付きイヴリスは狼の背中に乗り一先ず帰路へとついた
読んでいただきありがとうございました!
「よかった」「続きが気になる」など少しでも気に入ってくれていただけたら幸いです
次回は土曜日20時に投稿予定です。よろしくお願いします!




