魔王、病を治す
狼達を従えて獣を狩れる様になり食事がワンランク上がった。まだまだ質的には物足りず肉以外にも必要な食材を調達したいところだが一先ず飢える事はなくなった
最初は狼達を恐れていた村の人間達も自分達に獲物を取ってきてくれる存在には十分感謝しており、危害を加えてこないことが分かると徐々に気を許すようになった
特に村いる子供達は狼達に懐いて背中に乗って遊んだりしていた
「行くよークロ!」
「バウッ!」
クロと呼ばれている狼は親玉の事であり子供達がいつの間にか名前まで付けていたようだ。他の狼達にも同様に名前を付けているようだが、イヴリスは一匹足りとも名前を覚えていない
イヴリスは昔から固有名詞を覚えるのが苦手、というより端から覚える気がなく魔王国にいた時もマリア以外は四天王の名前すら覚えておらず、配下達に用がある時は「おい」や「お前」等で呼んでいたので狼達の事も他のより体格がいいという特徴がある親玉だけ覚えていればいいやという考えだった
なのでルカの名前を覚えているというのはイヴリスなりにそれだけ迷いの森での一件で恩を感じたということ
草地に寝転びながら子供達が狼と戯れている様子を眺めていると、村の一角が何やらザワついているのを感じ取った
「なんだ?ヤケに騒がしいようだが」
ちょうど退屈していたイヴリスは野次馬精神でその場に行ってみることにした。騒ぎの元に駆けつけてみると一軒の家に辿り着き、そこには大人達が集まっていた
間から割って入り集まっている原因の元を探すと家の奥で一人横たわっている男性を見つけた。男性は体の至るところに痣の様なものができていて息絶えている状態で病気の類だと判断できた
「くそっ・・・またこの病気か」
「なんだ、この村ではこの病気が流行っているのか?」
聞くところによるとこの謎の病は今年に入って既に10人がかかっているらしく、その10人全員が亡き者となっている致死率100%の病気と村人達の間で恐れられている
医者に診てもらおうにもこの村には都合良く医療関係に携わっていた人間もいなければ治癒系の魔法が使える者はいない。感染する病気なのかも分からない為皆距離を置いて様子を眺めていた
隣に座っているのは女性は亡くなった男性の妻なのか息絶えた後も中々離れようとはしなかった
「甦りの魔法でも使える者がいればな・・・」
「バカッ、そんな御伽噺に出てくるような魔法使える奴なんかいるわけないだろ」
隣にいる男達が呟く甦りの魔法というのは死者を甦らせる事が出来るという失われた魔法と言われている魔法のこと。人間達の間ではそう呼ばれていて御伽噺に出てくる架空の魔法と思われているようだが、イヴリスはその死者を甦らせる蘇生魔法"回生"を使用する事が出来る
だが実際の蘇生魔法は誰でも復活できるような万能なものではなく、まず第一条件として対象者が死んでから一時間以内でないと効果がない。それが前提として更に対象には生き返らせる時に必要となる莫大な生命力が備わっていないと蘇生は叶わない
生きていた時にどれだけの生命力が残されていたかがこの場合カギとなる。即死等のケースであれば蘇生が成功する可能性は高いが、病気等で弱りきって亡くなった後となると生命力が著しく低下している状態なので成功確率はグンと下がる
もしその状態で無理に蘇生しようとすると、失敗した場合死者は別の形で世に生み出される事となる。死者は自我のないアンデッドとして生まれ変わってしまい、そうなると最早元の姿へと戻す手段は無くなるので始末するしかなくなってしまう
それに人間は元々の生命力が他の長命な種族と比べて劣っているのであまり人間相手には蘇生魔法は使いたくないと考えている。そもそも蘇生魔法なんて見せびらかして使ってしまったらそれこそ大騒ぎとなってしまうので黙っておくことにした
「大変だ!また例の病気を発症した奴が出たらしいぞ!」
別の自宅から亡くなった男性と同様の病気と見られる者がまた現れたということでそこへ向かってみると、同じように体に痣が発生して苦しんでいる男性がいた。流石に発症してすぐ命を落とす様な病ではないらしくまだ息はある。ただでさえ人手の少ないこの村でこれ以上人が減るのは問題なので仕方なくイヴリスが動く事にした
「おい、その病気治してやろうか?」
「アンタは・・・いや、でも・・・」
「いいからどいていろ。完全治癒」
完全治癒、どんな重傷の怪我や病気でも一瞬で健康な状態へと治す事が出来る治癒魔法の中で最上位となる魔法。魔力消費が激しい為病気を治す程度なら魔力消費の少ない他の魔法でもどうとでもなるが、自分に使う機会がないイヴリスは生憎この治癒魔法しか扱う事が出来なかった
苦しむ男性に完全治癒を使うとたちまち体にあった痣が消えていき、荒くなっていた息も落ち着きを取り戻した
少しして目を開けた男性は異常がなくなった自分の体に驚愕していた
「なんともない・・・治ってる!」
男性の言葉に家の外でその様子を見守っていた他の村人達からは歓声が上がる。イヴリスにとっては成る可くして成っただけなので特に感情は変わらない
それよりも何故このような病気が蔓延しているのかの解明をする為に助けた男性から情報を聞き出す
「お前、病気になる前変わった場所に行ったり変な物拾って食べたりしなかったか?」
「そんな野良犬みたいな真似はしてないさ・・・最後に行った場所といったら迷いの森位なもんだな。そこに山菜が沢山あるから採りに行ってたんだ」
男性の口述からしてその山菜に問題があったのかと思ったが、その山菜自体に毒が無いのは確かであると山菜を詳しく知る者は言っていた。他の村人から亡くなった人間達の話を窺うと皆共通して迷いの森へと入っていたという事実が判明した
狼達も迷いの森へと頻繁に入っているが病気にかかった様子もない。病気を持ってきたという線も考えられるがそれだったら狼と遊んでいた子供達が既に病気になっているはずだからその可能性も低い
なんにせよ原因は迷いの森にあると感じたイヴリスは原因解明の為再び迷いの森へと入る事に決めた
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