魔王、勇者と相対す
新連載!少しでも楽しんで頂けたら幸いです!
魔王国エルムガルド、数多の種族が存在している多民族国家であり強力な個の力を備えている。そこを落とそうとしているのは人間のみで構成されていて勇者を筆頭とし魔王を打ち倒す為に集められた勇者軍だ
魔王と勇者の勢力は長きに渡り戦いを展開繰り広げている。しかし数は多いものの個々の力が劣っている勇者軍より魔王軍の方が戦力は圧倒的に上で結果からいってしまえば魔王軍の連戦連勝、勇者軍は一度たりとも勝ちを手にしたことがなかった
その魔王軍の頂点に座しているのが魔王イヴリス。彼女の力は突出していて攻め込んできた勇者含めその仲間を幾度も退けており、またその気になれば単騎で国を落とすことも容易といわれている
魔王イヴリスは強さだけでなくその美貌も群を抜いていて誰もが一度は目を奪われる。加えて不老長寿で何代にも渡って引き継がれている勇者と違い魔王はイヴリスの代から一度も変わっていない
そんな圧倒的な力を持つ魔王軍に対し、それでも尚勇者軍は魔王を倒す事を諦めなかった。勇者達にとって魔王を倒す事は悲願、魔王を倒すことが出来れば世界に平和が訪れると全員が信じて戦っている
そして勇者軍は今日も打倒魔王を旗印に魔王国に攻め入ってきた
「イヴリス!また勇者が攻め込んできたよ!」
玉座に座るイヴリスの元へとやって来たのは魔王の右腕として長く仕えているヴァンパイアのマリア・ローズ。このマリアも不老の存在で唯一イヴリスが魔王となる前から側にいる人物、ヴァンパイアは日光を嫌うことから肌は青白いのが一般的だが、このマリアの肌は日差しで焼けたような小麦色をしていて日光への耐性を持ち合わせている
その見た目と特性からか同族からは嫌悪する者が多く現れ迫害を受ける。幼いながらも両親に危害が及ばないよう孤立を選びヴァンパイアの国を出ようとしたところをイヴリスに拾われ今に至る
魔王様と敬称で呼んではいるがお互い友人のような関係を築いている。そんなマリアからの報告で勇者が攻め込んできた事を知った魔王は長い溜息をついた後口を開いた
「マリア、私は決めたぞ」
「なになに?もしかして遂に勇者軍を滅ぼして世界を取る気になったの?」
「違う、私は・・・魔王をやめることにした」
「へっ?」
イヴリスの突拍子のない言葉にマリアも思わず間抜けな声を漏らす。長い付き合いでもこの魔王の考えている事はマリアでも全ては理解出来ない。イヴリスは続ける
「私はな、飽き飽きしているんだ。勝てもしないのに毎度毎度懲りもせずに攻めて来る勇者やその取り巻きを蹴散らす日々に。もううんざりだ・・・よって魔王やめることにした!」
「ちょっ・・・!アンタが魔王をやめたら下についてる部下はどうすんの!」
「あいつらが勝手に私に勝負を挑んできてボコボコに負かしたらなんか勝手に配下になったんだろ!そもそも私は魔王とかやりたくてやったわけじゃないし~!とにかく私は勇者なんかとは戦わないぞ!」
「ふざけた事言ってないで早く勇者を倒して来い!この駄王!」
「いーやーだー!私はここから一歩も動かないぞ!」
勇者と戦う事を激しく拒絶し玉座にしがみついて梃子でも動こうとしないイヴリス、しかしそんな彼女をマリアは玉座ごと無理矢理引き摺っていき勇者のいる場所へと連れていく。その姿からは最早魔王の威厳など欠片も感じられなかった
この様に駄々をこねているイヴリスだが、最初の頃は自分に挑んで来る者がいる事が嬉しくて意気揚々と勇者と戦っていた。けれど現実毎回本気を出す前に呆気なくやられてしまう勇者ばかり、数人を相手にしたところで既に飽き始めていて今では作業と化してしまっていた
獅子が子猫相手に本気になれるはずがない。今のイヴリスはどうすればこの退屈な日々から抜け出せるのか、そればかりを考えていた
マリアに引き摺られながら頭を捻らせてイヴリスは一つの考えを思いついた。毎度勇者達に勝ってしまうから奴らも懲りずに攻めてくる・・・ならいっそ負けてしまえばいいのではないかと
魔王軍は実力至上主義の傾向が強い、敗北した者がトップを務めているなんて納得いかないという者がきっと続出するはずだ
「これならきっと上手くいくはず。ふふふ・・・」
「何ブツブツ言ってんの?ほらっ!勇者様のお出ましよ!」
玉座があった場所は地上から優に100mは超えている。そこからマリアは容赦もなく魔王を勇者の元へと放り投げた
当然この程度でイヴリスが死ぬことはおろか怪我もしないという事を知っての行い。それが分かっていたとしても実際に行動に起こそうとする者はいない。こんな真似ができるのは彼女と魔王の関係性があってこそだろう
尻もちをついて着地したイヴリスは何事もなかったように立ち上がる。そしてその先には相手の大将である勇者が立っていた
「現れたわね魔王、貴女は私の代で必ず倒す」
似たような言葉をこれまで何度も聞いてきた。魔王と対峙した時の定型文なのかと考えてしまう
目の前に立ちはだかる今代の勇者は魔王と同じく女性、これまでに幾度となく勇者と戦ってきた魔王だが女の勇者を見るのはこれが初めてだった
それよりもイヴリスが気になったのは彼女の両目を覆っている包帯、そんな事をしたら戦闘はおろかまともに歩くことすらできないはず
「おいお前、その包帯はなんのつもりだ。まさかその状態で戦うんじゃないだろうな」
「これは・・・この目は貴女を倒す為の代償として払った」
勇者のその言葉を聞きイヴリスは記憶を遡った。昔マリアが人間の国に密偵を放った時に得た情報で、人間が魔王を倒す為に編み出した魔法の中に人体の一部を代償として払う事によって強大な力を得ることが出来る魔法があった。人はそれを禁術と呼んでいる、と
目の前の勇者はその禁術を使い両目を犠牲にしてまで魔王を倒しに来た。常軌を逸している行いにイヴリスは思わず笑みが零れ高らかに笑いだした
「あっはははははは!!!」
「・・・何がおかしい」
辺り一帯に響く甲高い笑い声に自分の覚悟が笑われていると険しい顔つきになる勇者。それに気がついたイヴリスは勇者の方に視線を戻す
「すまない、お前の覚悟を笑ったんじゃない。そこまでして挑んでくる者はお前が初めてだったので嬉しくてな。いいぞ、そうでなくては面白くない」
「そんな事を言っていられるのも今のうち、覚悟しなさい」
その言葉を皮切りに魔王と勇者の戦いが始まった。後にこの戦いが二人の今後を大きく変えるものになろうとは誰も知る由もなかった
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