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2話 滝凍結月

 滝凍結月。私立水成高校の1年1組。身長は160センチくらい。細身。長髪。顔は、個人的には美人だと思う。性格はというと、僕は人の性格を良し悪しで語るのは好きじゃないので、明言は控えよう。率直に性格が良いと言えないあたりで察してほしい。


 滝凍が誰かと楽しそうに会話しているところは見たことがないので、友達はいないのかもしれない。鉄仮面のように微動だにしない表情と、彼女が醸し出す独特の雰囲気が、滝凍を近寄りがたい存在へと仕立てている。


 バスケの経験はないらしい。ではなぜあのとき彼女はバスケットボールを持っていたのかと、僕は疑問に思った。ここが滝凍の真骨頂なのだ。変わり者の典型とも言えるが、彼女には変なこだわりがある。


 滝凍結月は、放物線が好きらしい。

 そう、数学のグラフでよく見るあれだ。投射された物体が、重力に従って地面に落ちるまでの軌跡をそう呼んだりもする。


 常人には理解できない趣味趣向だが、理解する必要はない。3年間、同級生としてそれなりの時間を共にした僕も、滝凍結月に対して理解や納得をしたことは、一度たりともありはしない。


 きっかけがなんだったかは覚えていないらしい。まあそういうものだろう。僕もゲームが好きだが、好きになったきっかけなんてわからない。そもそも好きという感情に的確な理由は必要ない。面白いから。楽しいから。これだけで説明できるものだ。


 滝凍は放物線に美を感じるらしい。街中で曲線を基調とした建造物を見かけた時や、自分で描いた放物線を見て『美しい……』と口ずさんでいる。ちなみに、幼少の頃からノートに曲線を描き続けることで暇を潰してきた彼女は、フリーハンドで正円を描ける領域に達している。


 そういえば、なぜ滝凍がバスケットボールを持っていたのかの説明がまだだった。しかし勘のいい人ならすでに気づいているのではないだろうか。バスケットには様々なプレーが存在するが、その中でももろに放物線を描く瞬間がある。


 そう、シュートだ。

 放たれたボールが、重力に従ってリングをくぐるまでの軌跡が、彼女はたまらないらしい。


 しかし残念なことに、バスケットはチームスポーツであり、協調性を欠く滝凍にはミスマッチの競技なのだ。幼少の頃にバスケのシュートに魅了された滝凍は、母親の勧めで1日だけミニバスを体験した。そしてたった1日でチームを崩壊させたという伝説は、今もその小学校で語り継がれているという。


 そんなわけでチームに所属することなく、シュートのみを積み重ね、チームワークやコミュニケーションは更地のまま、ついに彼女も高校で初めてバスケ部に入部する事になった。


「お前ら、バスケット好きなのか!?」


 この声の主。体育教師であり、女子バスケ部の顧問を務める、破天荒な女によって……。

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