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14話 練習試合 水成高校VS常和学園

 チームを結成して約1ヶ月。部員数僅か6人の水成高校バスケ部は、全国区の強豪、常和学園に挑む。


 強豪とはいえ、常和は基本的に高山がスカウトした特待生しか入部を受け入れていない。なので部員数は20人程度だ。


 そして、選りすぐりの20人の中から更に選抜された5人の選手が、常和学園のベンチから水成高校を値踏みするような視線を向けている。無理もない。常和の選手が今まで対戦してきた高校と比べて、水成高校は明らかに貫禄が足りていないのだ。


「水成バスケ部にとって、今日は記念すべき初試合だ。つい先月まで試合に挑むことすらできなかった私たちにとってはこれが一歩目となる。……でも、歩幅が狭くては全国制覇にたどり着く前に終わってしまう。だが幸運なことに、君たちの目的地、日本一のチームが今目の前にいる。この千載一遇のチャンス、どうせなら大きく踏み出そうじゃないか!」


 星咲から試合前の一言をもらった鹿島たちは、一斉に返事をした。その返事は、今までの緊張が嘘のように、勇ましい雄叫びとなって館内に轟いていた。同時に、選手たちの表情からは影が消えていた。


 普段はめちゃくちゃな星咲ではあるが、こういう時はしっかり締めてくれる。本当にこの先生は生徒を鼓舞するのが上手い、と鹿島は感心の微笑みを浮かべていた。


「ピッ。練習試合を始めます。両チーム、コートに入ってください」


 審判を務める常和部員の指示に従い、両チームの選手たちがコート中央に集まる。


 こうして見ると、両チームの露骨な身長差が浮き彫りになる。常和学園の選手の殆どが170センチに近く、雪村に至っては180に近い。それに対して水成高校は、水戸が170手前、炎咲がかろうじて170を超えている程度だ。


 しかし、水成高校が高さで劣っているのは承知の上。だからこそ、使ったことのない戦術脳を働かせたのだ。


 鹿島は水戸に目配せをして頷き合う。そして滝凍にも目配せをしたが、見向きもされなかった……。


 おい、作戦には従ってくれるんだろうな?鹿島は滝凍に怪訝な視線を向ける。


「ジャンプボール」


 審判の声を聞いた炎咲と雪村がセンターラインを挟んで向き合う。2人の選手を中心に、試合開始直前の緊張感が館内中を支配した。


「ピッ」


 笛の音と共に上空へ投げられたボールを、2人のジャンパーが奪い合う。が、ただでさえ身長で有利な雪村の跳躍は、炎咲との身長差を更に広げ、楽々と常和選手付近の床へボールを叩きつけた。


「よし」


 そう言いながらボールを受け取った常和学園主将『瀬戸綾香』が、体勢が整ったのを確認してから雪村へボールを戻す。


「行け」

「はい」


 瀬戸からパスを受けた雪村は、意表をつく形で手を出してきた炎咲をターンでかわし、続く心音と宇佐木を縫うようにすり抜けゴール下に侵入。流れるようにレイアップシュートを決めた。


 水成 常和

 00ー02


 次の瞬間、ゴール下に備えていた水戸がボールを拾いエンドラインを跨ぐ。そして間髪入れずに大きく振りかぶり、相手陣地の3Pラインとサイドラインの狭間、コートの右隅に待機している滝凍へ投擲する。


「え……」

「は!?」


 水戸から放たれたボールは朱色のレーザーと化し、自陣へと戻る雪村とそれを迎える瀬戸の間を貫通する。コートを一直線に縦断したボールは、寸分の狂いなく滝凍の手元に届いた。


 今日、滝凍結月は人生初、試合形式での放物線を描く。


「美しい……」


 3−2


 得点を決めた滝凍は自陣に帰ってくることなく、その場で恍惚としている。

 

 しかし鹿島はそんな滝凍に対してディフェンスに戻れと指示を出さず、ニヤリとした表情を浮かべているだけだった。


 動揺のままにリスタートをする常和学園は、瀬戸がエンドラインからボールをコートに入れる。


「氷華。もう1度行くぞ」

「いいんですか?7番(滝凍のビブス番号)を放っておいて。1人残った方が……」

「相手に合わせる必要はない。全員で攻めて全員で守るのが常和のバスケだ。それにいくらフリーとはいえ、試合中に3Pシュートを決め続けるなんて不可能だ」


 そうして雪村は巧みなドリブルでインサイドにまでボールを運び、炎咲と心音を引き付けてから、ゴール下に走り込んできた常和の選手にパスを出す。そしてレイアップシュート。


 3ー4


 しかし、水成高校のカウンターは一瞬だった。


 水戸のレーザーパス。滝凍のシュート。


 6ー4


「瀬戸先輩……」

「い、今のはたまたま……次は外れるわよ。その時はリバウンド頼むぞ、氷華」

「はい」


 瀬戸はドリブルでセンターラインまでボールを運び、宇佐木のマークを振り切った雪村にパスを出す。そして、雪村に追いついた宇左木の背後に、瀬戸が体を寄せて盾となる。


 スクリーンをかけられた宇佐木は身動きが取れず、雪村のドライブを目で追うことしかできなかった。そして心音のカバーも間に合わず、雪村のジャンプシュートが決まる。


 6−6


「戻れ!」


 と、瀬戸はボールがリングを潜ったことを確認するや否や、常和の選手たちをディフェンスに向かわせる。


 しかし、水戸の高速パスは戻る常和選手たちの背中をごぼう抜きし、滝凍はディフェンスに阻まれる事なく、余裕を持ってシュートを放った。


 9ー6


 ここで瀬戸は、当然のようにリングを通過したボールを眺めながら、怪訝な面持ちを浮かべていた。


 『7番のシュートは、放たれた瞬間に失点を覚悟するほどの、残酷で美しい、薔薇の如き放物線だ。けどこの違和感はそれだけじゃない。水成高校の攻撃意識がまるで無い。今の速攻も、誰ひとり走り込んで来なかった。オフェンスリバウンドの重要性を理解していないのか……』


「それとも、7番のシュートをよほど信頼しているのか」


 瀬戸はそう口ずさむ。


「瀬戸先輩。このままだと点差が開きます。私たちもスリーで応戦しましょう」

「氷華……そうね」


 常和学園は、水成高校のデフェンスの隙を作り3ポイントエリアからシュートを放つべく、意識的にアウトサイドを旋回するようにボールを回す。


 しかし、1人少ないはずの水成高校のデフェンスに隙が生まれない。どんなに素早くパスを回しても、シュート体勢に入った時には間合いを詰められている。


「……まさか!」


 瀬戸が苛立ち混じりに声を漏らす。


 水成高校のデフェンダー4人は、ゴール下にポジションを取る2人の常和選手には構わず、3ポイントエリアにのみディフェンスを集中している。つまり、3ポイントエリアに限れば『4対3』常和側が数的劣位。


 これは明らかに3ポイントシュートのみを警戒し、2点の失点を許容した戦い方だ。2点の失点を3点の得点で挽回する。


「こんな出鱈目な戦術で勝てるほど、バスケは甘くない」


 瀬戸は低い声音でそう言うと、マークを振り切れていない状態で強引にスリーを放つ。


 『ガコン』と、瀬戸が放ったシュートはリングに阻まれる。この時既に水戸はゴール下に向かっていた。無論、リバウンドを取るためではない。


 ゴール下にいた常和学園の選手がこぼれ落ちてきたボールを片手で迎え、そのままタップシュート。


 9ー8

 

 水戸はゴール下の争いには参加せず、ネットをすり抜けてくるボールを静かに迎え入れる。


「パスコースを切れ!」


 ゴール下にいた常和の選手が戻ろうとすると、既に守備に向かっていた瀬戸が背を向けながら指示を出す。それを聞いた常和の選手は急いでコート右隅のパスコースを切る。しかし……。


 水戸は切られたコースとは反対の、コート左隅へ投げ入れる。そこにはさっきまで右隅から微動だにしなかった滝凍が待ち受けていた。


 高速で送球されたボールは瀬戸を楽々と追い抜き、左隅で受け止められた。滝凍は再び余裕を持ってシュートを放つ、かに思われたが、雪村が投擲された物体に追随する速さでコートを駆けて来ている。


 滝凍の手からボールが離れる瞬間。雪村は勢いよく飛び上がり、既に地上から随分と離れ、尚上昇を続けているボールに……指先を当てる。


 『ガコン』


 滝凍結月のシュートからこの音を聞いた事がなかった鹿島たちの目には、リング上で転がるボールが衝撃的な光景として映っていた。


 『パシュ』


 12ー8


 ネットの摩擦音。安堵する水成高校。しかし鹿島だけは、この後の惨劇を予測していた。


「た、たたタイム!」


 左手のひらに右手の指先を下から突き立てて『T』のポーズを取り、慣れない口調でタイムアウトを宣言した鹿島は、滝凍の元へと走り出す。


 滝凍は、勢い余ってコート外の壁際まで出てしまっている雪村へ、闇に満ちた眼力を飛ばしている。


「間に合うと思ったんだけどな……。早いね、君のシュート」

「ぶっ殺す」


 そう言い放った滝凍は、悠然かつ不気味に雪村へ迫る。


「落ち着け滝凍!シュートを邪魔されるのはルール上仕方のない事なんだ。頼む、もうこれ以上問題は起こさないでくれ!」


 鹿島は試合前の暴力事件と同じように、滝凍を羽交締めにして止めに入る。しかしそれでも滝凍は拳を振りかぶる。


「炎咲!手伝ってくれ」

「はいよ……」


 鹿島からの要請を受けた炎咲は、呆れながら滝凍を力尽くで引きずりベンチに下げた。


 タイムアウト中になんとか滝凍を宥めることに成功した水成高校は、その後の試合もそのままの勢いで得点を取り続け、『水成21』対『常和16』で第1クオーターを終えた。

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