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7 入学式の出来事Ⅱ


 「だから、私は公爵家の娘だって言ってるでしょ!」

「名簿にはその様な記載はありません」

「だったらその名簿が間違ってるのよ」

「そんなわけないでしょう、学園の入学者をちゃんと把握してますから」

「じゃあ、どうして私の名前が載ってないのよ!!」

騒ぎの中心にいたのはベッティだ。


「何を騒いでいるんだ?」

「貴族科の席に座ろうとして、名簿に名前が載ってないから駄目だと言われたらしいぞ」

「名簿に載ってないって、貴族じゃないってことだろう?」

「やかましいな、早く一般科に連れて行けよ」

「一応女性だから遠慮してるんじゃないか?」


周囲の生徒が騒ぎに対して色々話している。

それが耳に入ったフリッツたちは顔を見合わせた。


「グリー、ベッティは一般科だろう?」

「もちろんです」

「じゃあ、なんで貴族席に着こうとしてるんだ?」

「あんな奴の考えることはわかりませんね」


ふいにこちらを振り向いたベッティはフリッツたちを見つけたらしい。


「おにいさまぁ!私の席がないんです」

仕方なく、フリッツ達はベッティに近寄って行った。

「ベッティ、ここで騒ぎを起こすな」

「でもぅ、おにいさまぁ、私の名前が名簿に載ってないっていうんですぅ」

「当たり前です、貴女は一般科の生徒になるのですから」

「え?」

「こちらは貴族科の席です、名簿に名前があるわけないでしょう、さぁ、早く行きますよ」

グリーが素早くベッティの背中を押して移動させていく。

「ちょ、ちょっとぉ、シャーロット姉さまは?「シャーロット様は貴族科です」

なんでよ!ずるいわ!」

「何もずるくありません、静かにしなさい」


「お兄様、私、毎日 ずるい って言われるんです。何がずるいんでしょう」

「シャルは何もずるくないよ、ベッティが勘違いしてるだけだ」

そういってフリッツはシャーロットの頭を優しくなでた。


この時、はっきりとベッティが単なる居候であることを周知していれば、今後シャーロットが誤解されることもなかっただろう。

そうすれば、あんなに苦しむこともなかったのに・・・。

穏便に済ませてしまったことが悔やまれます。

フリッツはそう語った。



~~~~~~~~~~~~~~~

「なあ、ベッティは何故貴族科に入れると思ったんだ?」

「おそらく、メルダ叔母さんが家内を仕切っていることを、後妻になったと勘違いしたのでしょうね」


「あなたが誤解させるような態度をとるからよ!」

エマーリアがまたゼルマンの腕を扇で叩く。

「痛っ、エマがいなくなったから何もする気がしなかったんだよ、ワシは、多分」

「信用できませんわ、今だってメルダたちがうちに来ることを了承しているでしょう?」

「それは、ロバートと結婚して親戚になったのだし・・・」

「メルダはいつでも私のドレスや宝石を欲しがりましてよ?

公爵夫人でうらやましいと、それはもうしつこいくらい。

来る頻度も毎週3、4日くらいで、お茶会や観劇に向かう私に一緒に連れて行くように何度もいうのですわ」

「何?」


「旦那様、ベッティ様もお嬢様のお部屋に勝手に入っては、いろいろ物色して、あまつさえ、

【たくさんあるんだからいいでしょう?】と言って持ち帰ろうとするそうです。

その度にサラを始めとしたメイドたちが止めているようですが、肝心のお嬢様が強く断れないため、メイドたちも困っているそうです」

「そんな話は初めて聞いたぞ?何故報告しない?」

セバスティアンのいきなりの報告に珍しくセバスティアンがため息をついた。

「はぁ、旦那様、旦那様はご自分で

【ロバートの妻になったのだから、公爵家の客人として扱うように。貴族の生活は慣れていないだろうから、多少の事は目をつぶってやれ】とおっしゃられたんですよ」

「・・・」

「ほら、やっぱりあなたがメルダ達を増長させたのよ」


ゼルマンは別にメルダに興味があるわけではなかったが、弟が恩師から頼まれてベッティを連れたメルダと結婚することになった事をかわいそうに思っていた。

ロバートは騎士団に所属している、身分は子爵だ。

マルクス公爵家の持つ爵位の一つだが、騎士団副団長にまで上り詰めたロバートは、領地経営をしなくてもよい爵位を望んだため子爵となったのだが、メルダはそれが気に入らないらしい。

伯爵家に変えてもらえないかメルダに責められる、とロバートが愚痴をこぼすのを聞いていたゼルマンは、ロバートの息抜きのためにメルダ達の来訪を拒まなかったのだった。


なんか、浮気の言い訳みたいにたどたどしく説明をするゼルマン。

話せば話すほど、冷汗が止まらない。

「だから、その、ロバートが不憫で・・・・」

妻も息子も家令も沈黙している。

「あの、だから、その、メルダにはまったく興味がないというか・・・」

なんでこんな言い訳がましいことをしなければいけないんだ!!ゼルマンの声にならない絶叫が心の中で響く。


「ふふっ」

エマーリアが我慢できなくなったのか笑いをこぼす。

「父上…ぷぷっ」

「だ、旦那様、ふっふ」

グリーも椅子の後ろに立っているが、肩が揺れている。


「あなた、そんなに必死に言い訳しなくてもよろしくてよ」

エマーリアの言葉にゼルマンの緊張がほぐれた。

「初めからそんなこと思っていませんわ」

ふふふっと笑いながらエマーリアがゼルマンの手に自分の手を重ねた。

「なんだ、からかったのか?」

「いいえ?」

「え?」

「初めからきちんと話していただいていたら、それなりの対応を致しましたのよ」

「そうなのか?」

「もちろんですよ、旦那様。私達使用人も、きちんと旦那様のお考えを伺っていれば、たとえ親戚であっても公爵家としての対応をさせていただきます」


「父上、叔父上は離縁になっても困らないのですよね?」

「ん?あぁ、跡取りにはライナスがいるし、本来は後妻など娶るつもりもなかったからな」

「では、離縁して頂けば、あの二人とは縁がなくなりますよね?」

「そうだな」


「それとは別に、シャルには公爵家令嬢としての矜持を持たせないといけないわね。

早速教育しなければ!」

エマーリアの言葉は次の日から実行され、夫人のサロンやお茶会、王宮とシャーロットは淑女の教育をされることになるのであった。





設定として、学園では貴族として登録された人物は貴族科、それ以外は一般科と分けられます。

一般科は平民が所属していますが、侍女やメイド、従者や執事といった貴族に仕える養成所のようなものなので、例外として下位貴族なども選んで進学することも多いです。

なので入学者の名簿は学園で時間をかけて厳重に把握されています。

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[良い点] 仲良し家族ぅー
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