6 入学式での出来事
学園に到着するまで、ベッティのくだらない話にシャーロットは疲れ果てていた。
馬車の中でベッティは学園での生活について自分の希望をべちゃくちゃと話し続けていたからだ。
シャーロットはデビュタント前とはいえ、他の貴族令嬢ともお茶会などで交流があり、学園での生活もある程度は把握している。
だが、ベッティは単なる居候だ。
もちろんお茶会にも招待されていないし、友人と呼べる貴族令嬢は当然一人もいない。
それにもかかわらず、ベッティは、自分は素敵な男性の婚約者が欲しいとか、学園で人気者になりたいとか、夢物語を話し続けてくるのだ。
そんな苦行をさせられて疲れ果てていたシャーロットも、馬車を降りて友人たちの姿を見つけると、気分が少し上向きになった。
可愛い妹の入学式ということもあり、先に来ていたフリッツとグリーが待っていてくれた。
「シャル」
「お兄様!」
「うん、制服姿もよく似合ってるね」
「朝は会えませんでしたから、ようやく見てもらえました」
シャーロットが嬉しそうにしている。
「シャーロット様、おめでとうございます」
「ありがとう、グリー「わぁ、おにいさまぁ~」」
ベッティがバタバタと走ってきてフリッツに飛びつこうとしてグリーにとめられた。
「何するのよ!使用人の分際で!!」
ベッティの金切り声に周囲の視線が集まる。
「ベッティ嬢、ここは貴族の集まる場所です。わきまえてください」
毅然とした態度のグリーにベッティはべぇっと舌を出した。
周囲がざわめく、当然だ、学園に入学する年だというのに、そんな態度はありえない。
恥ずかしくなってシャーロットが俯いてしまうのを見て、フリッツがそっと肩を抱いた。
「おにいさま?」
「何度も言っているが、私はベッティの兄ではない」
そういってフリッツはシャーロットを連れて講堂に移動を始めた。
グリーもそれに習い、そのままベッティをその場において立ち去った。
「シャル、大丈夫かい?」
「えぇ、お兄様、ちょっと恥ずかしかったですが、大丈夫です」
「今朝はベッティも一緒の馬車だったの?」
「はい、どうしても、とおばさまと二人でと言われてしまって・・・」
「まったく、明日からはベッティには専用の馬車を用意させよう」
「公爵家の家紋が入った馬車に乗せるわけにはいきませんものね」
「グリー、頼めるか?」
「かしこまりました」
講堂に近づくと、背の高い男性が手を振っている。
「殿下だ・・・・、ったく」
フリッツが苦笑いを漏らす。
「待っていたよ!ロティ!」
婚約者であるアレクサンドル第2王子だった。
アレクサンドルは嬉しそうにシャーロットの手を握った。
「制服、とてもよく似合っているよ、なんて可愛いんだ」
「あ、ありがとうございます」
シャーロットは顔を赤くして下を向いた。
「あぁ、本当に可愛い、俺のロティは」
そういってアレクサンドルがシャーロットの頬に手を伸ばすと、フリッツがすかさずその手を叩き落とす。
「何してるんですか!人前ですよ」
「え~、だってこんなかわいい婚約者がいたら触りたくなるだろう?」
「何言ってんですか、デビュタントまではこの婚約は公にしないことになってるでしょう、
こんなところでベタベタしたらばれますよ?
それに、シャルはまだ入学式に来た子供なんですよ!!お触りは禁止です!!」
「お兄様!私はもうこどもじゃありませんっ!!」
3人がそうやっている間に時間が来たようだ。
「ロティ、今日は帰りにフリッツと一緒に家に寄るからね」
生徒代表の挨拶があるといって、アレクサンドルは先に行くときにシャーロットに囁いた。
「うふふ」
「嬉しそうだな」
「もちろんですわ」
幸せな気分で講堂に入って行くと、ざわついている。
「どうしたんだろう?」
様子を見に行ったグリーが、眉間に深いしわを寄せながら戻ってきた。
「あいつですよ、ベッティ」