4 変わりゆく家
やがて、母が亡くなった。
葬儀の日、父は顔を上げることもできず、一人で歩くこともままならないのか、家令に支えられていた。
シャーロットも泣きはらした顔で一言もしゃべらず、ずっとフリッツの手を握っていた。
皆が沈痛な表情の中、ベッティ母子だけはぺちゃくちゃとおしゃべりをしている。
あまりの姦しさに見かねてフリッツが注意をしたのだが、少しするとまたしゃべりだす。
何度目かにフリッツは使用人に二人を別室に移動させた。
「おにいさま、私も叔母さまを見送りたいのに」
「何度言っても判らないようだからだよ。頼むから最後のお別れは家族で静かにさせてくれ」
ベッティのうるささにフリッツはいら立ちを隠せなかった。
葬儀が終わり、学院に戻ってからはしばらくは帰宅することができなかった。
学年が終わりに近づき、卒業生のための準備に時間をとられるようになっていったのだ。
そして、妹からの手紙はほとんど来なくなった。
こちらから手紙を出しても返事がない。
グリーを使いに出すと、見たこともない使用人がいて、シャーロットはふさぎ込んで部屋から出てこない、と言われたらしい。
父はあまりに憔悴していたため、バロウズ医師の判断で別邸で静養しているらしい。
らしい、というのは、家令にも侍女長にも会うことができず、話だけしか聞けなかったためである。
ここまで話終えるとフリッツは冷めた紅茶を一口飲んだ。
「なんでメルダとベッティはずっと我が家にいたんだ?」
「さあ、わかりませんが、父上が許していたからでしょうね」
「なんでワシは許していたんだ?」
「さあ、わかりませんね」
「セバス、なんでだろう」
「さあ、わかりません、旦那様、それよりも話の続きを」
「それよりって・・・」
「続けますね、それから王家からシャルに婚約の打診がありました」
「第3王子か?」
「いえ、第2王子アレクサンドルからです」
「は?」
「なんですってぇ!」
いきなり扉がバタンと開き、エマーリアが入ってきた。
「あなたたち、話は全てきかせてもらったわ」
「ははうえ??「エマーリア?「奥様!」」」
「シャーロットとアレクサンドルが婚約ってどういう事?フリッツ、早くすべて吐きなさい」
「エマーリア、落ち着いて」
「奥様、今からその話を伺うところなんです。こちらにお座りになってください」
セバスティアンがエマーリアを落ち着かせてゼルマンの隣に座らせた。
「それで?なんでアレクから婚約の話が来るのよ、年齢的には第3王子じゃないかしら?
第3王子は嫌いだけど」
「嫌いって」とゼルマンが苦笑いをこぼす。
「一目ぼれだったんだって」
「誰が?」
「アレクが」
「誰に?」
「シャーロットに」
「・・・ロり「ロリコンじゃないですよ、多分」」
「多分なの?」
「・・はい」
「いつ?」
「母上が王妃陛下のお茶会にシャルを連れて行ったときらしいです」
「私がシャルをつれていったの?王妃様のお茶会に?どうしてかしら?」
「母上がシャルの自慢をするからですよ。王子しかいない王妃陛下に見せびらかしにつれて行ったみたいでしたし。その時にアレクが一目ぼれ、と」
「エマのせいではないか!シャルを王家になど、いや、そもそも婚約などまだ早い!」
ゼルマンは溺愛する娘にいきなり婚約の話がでてしまい、相当焦っていた。
「まぁ、アレクならいいかしら」
「ワシは反対だ」
「まあ実際にはシャルのデビュタントの時に正式に発表予定ですから、まだ嫁にはいきませんよ」
「お嬢様の婚約話はさておき、坊ちゃまの夢?と言っていいのかわかりませんが、今後起きることをもう一度確認させてください」
「あぁ」
セバスティアンが続きを促すとフリッツはまた話を始めた。