29 ウィリアムとマルコとベッティと
「また一人でここにいたのか」
ウィリアムは一人でご飯を食べているベッティをさがしてやってきた。
「あ、この間の・・・何か御用ですか?」
ベッティはウィリアムが第3王子だとは気が付いていない。
クラスでも浮いた存在であり、誰もそれを教えてくれる人はいないからだ。
「うん、お前と話がしたいな、と思って。マルコも一緒にご飯を食べながら話さないか?」
どうやら3人で一緒に食べようということらしい、と気が付いたベッティは嬉しそうにうなずいた。
それから毎日のように3人で話をしながら昼ご飯を食べるようになっていった。
「だから、シャーロットおねえさまばかりずるいんです」
「ずるいって何が?」
「だって、何でも持っているし、貴族科だし」
「それがずるいなら、貴族科の皆さま皆ずるいことになりますよ?」
「え??」
「だって、貴族に生まれてずるいってことだろう?
それはシャーロット嬢は何も関係なくないか?」
「・・・」
「なんでも持っているが、貴族としてマナーや教養を学び、衣装や宝石を買うのは周囲に金を払うことで経済を回していることにもなる」
「そうですよ、一般科の生徒はそんな貴族に仕えて給金をもらうために学ぶんですよ。
それぞれの立場が違う、というだけですね。誰も生まれを選ぶことはできませんからね」
「高位貴族だからって、悩みも何もない事はないしな」
ウィリアムはそう言って苦笑した。
そうやって一つ一つ、ウィリアムとマルコが話すことがベッティに理解できるようになっていった。
「お前、公爵家の親戚だと言っていたが、違うぞ?」
「ウィリアム様までそんな事を言うんですね、ひどい」
騒ぐベッティをウィリアムは静かに諭す。
「まあ、黙って聞けよ」
「そうそう、落ち着いて」
「・・・」
「これを見てくれ」
マルコが出してきたのは1枚の紙。
「これは何ですか?」
「これは、お前の家系図だ」
「家系図?」
「そうです。ベッティさん、貴女はひどいと騒いでいますが、本当は自分がどのような立場なのかわかってないんじゃないかと思ったんです。
それで、ウィリアム様といろいろ調査してきました」
「それでできたのが、お前の家系図だ」
ベッティは珍しそうに自分の家系図を見ていた。
「ほら、やっぱりあたしと公爵家は親戚じゃないですか」
そう指摘するベッティの指先は、ロバートとメルダの婚姻の所を差していた。
「そこが勘違いの始まりだよ」
「勘違い?」
「そうです、ベッティさんのお母様とロバート様は確かに婚姻関係ですね。
でも、婚姻の際にベッティさんは養子縁組してないんですよ」
「それは何回も聞いたわ」
ウィリアムは赤いペンを出して、ロバートとメルダの婚姻の所に線を描いた。
「もし養子縁組をしていたら、ここにお前とつながりができるだろう?
だが、養子縁組をしていないから、この線はつながらないんだ」
ペンで大きくバツをかいた。
「そんな・・・」
「まあ、一緒に住んでいたら、勘違いしても仕方がないよ」
「だから、ベッティさんは一般科で学ぶことになるんですよ」
ベッティはきちんと目の前で書かれたことを理解し始めていた。
「あたし、今まで何を・・・」
「うん、勘違い令嬢だな」
ははっと笑いながらウィリアムが答えると、ベッティはぷうっとほほを膨らませた。
「勘違い令嬢は卒業しましたよね、ベッティさんは。これはそのご褒美ですよ」
マルコはクスクスと笑いながらベッティにデザートを渡した。
「ありがとう」
ベッティはデザートを食べながら何となく、シャーロットに謝りたいな、と思い始めていた。




