28 ウィリアムの成長
ベッティの話を聞いたウィリアムは、少し考えた後、アレクサンドルのもとに向かった。
「兄上・・あの、少し時間をいただけますか?」
「ウィリアム?ああ、いいぞ。ここでは話しにくければサロンに行くか?」
「できれば・・・お願いします。あの・・・フリッツ殿も・・・」
フリッツとアレクサンドルは顔を見合わせてから、軽く頷くとサロンへと連れ立った。
「それで?何をしに来たんだ?」
「聞きたいことがあって」
「フリッツに関係あるのか?」
「多分、ですが・・・その、ベッティという女生徒をご存じですか?」
ベッティの名前を聞き、フリッツが立ち上がった。
「落ち着け、話を聞いてからだ」
アレクサンドルに言われ、フリッツは席に座った。
「知っている、と言ったら?」
「その、今日外で一人きりでご飯を食べていたので、声を掛けました。
親戚に声を掛けたら身分違いだと言われ、それで皆から避けられていると。
それから、子爵家からも追い出された、とも言っていました」
「それで?それを聞いてどうした?」
「マルコから、一方の話だけを聞いて判断するなと言われましたし、マルクス公爵家から見たらどうなっているのかを知りたいと思いました。あのロバート副団長が理由もなく追い出すなど、そんなことをするとも思えませんでしたし」
その言葉を聞いて、アレクサンドルはふっと笑みを漏らした。
「随分と成長したな。兄として嬉しいよ」
「兄上・・・」
「ベッティの事だがな、フリッツから話した方がいいだろう」
そう水を向けられ、フリッツはベッティの事を話した。
彼女の母親がロバートの後妻になった経緯、それによって子爵家に住まわせていたが、ベッティとは養子縁組はしていなかった事、
何故かベッティは親戚として公爵家に来てはシャーロットの持ち物を奪っていったこと。
入学式では子爵家を名乗った事。
ロバートから公爵家に関わらないように注意されていたにも関わらず、学園でシャーロットに絡み、騒ぎを起こした事。
それによって、貴族科、一般科の生徒達から孤立してしまった事。
それらを淡々と話した。
「なるほど、わかりました、でも彼女はそれを理解していないようですね、なあ、マルコ」
「はい、ベッティ嬢の話し方では、子爵令嬢で公爵家の親戚なのに、と言っておりましたね」
「まだそんなことを言っているのか」
「ちっとも反省していないのだな」
アレクサンドルとフリッツは苦笑した。
「さて、ベッティをどうするか、だなぁ」
「はあ、どうしますかねぇ・・・」
二人がそう言ってぼやいていると、
「私が、その、ベッティ嬢と話をしてもいいでしょうか?」
ウィリアムの思わぬ提案に二人は驚きを隠せなかった。
「ウィリアム、どういう意味だ?」
「私は、辺境伯領に行くまで、周りの見えていない愚か者でした。
何もできず、何も知らず、ただ、王族、という肩書に甘え、兄上たちをうらやみ、妬んでいました。
でも、警備隊見習いとして働くうちに、今までの自分が恥ずかしくなりました。
それには、きちんと話を聞いて、間違いは間違いだ、と指摘してくれる仲間がいてくれたから、気が付けたと思うのです。
確かに、話を聞けばベッティ嬢は困った人物ですが、私はきちんと話を聞いて、自分の事を見直せるようにしてあげたい、と思いました。
あ、もちろん、マルコにも助けてもらいたいのですが・・・」
「ウィリアム様、もちろん協力いたしますよ」
マルコは騎士団所属であったが、ウィリアムの監視役として辺境伯領に派遣されていた。
ウィリアムが暴れれば容赦なく叩きのめし、自分の身の回りの事をできるように教え込んだ。
もちろん、派遣されたのはマルコ一人ではなかったが、段々と自分の事を見直すことができるようになったウィリアムは、何故かマルコになついた。
今回、一時的に学園に戻るように言われたウィリアムが、マルコを従者として一緒に戻ることを希望したのだ。
「ウィリアム、お前に任せてみよう」
「はい、ありがとうございます」
「ただし、手に負えないと判断したら、早めに助けを求めてこい」
「はい」
「とりあえず、学園に戻ってきたのだ。王宮でもきちんと話をしよう。兄上も含めてな」
アレクサンドルの言葉にウィリアムははっと顔を上げた。
「兄上も?3人で、ということですか?」
「もちろんだ。辺境伯領でのお前の働きを聞いて、兄上も会うのを楽しみにしているそうだ」
それを聞いたウィリアムは嬉しそうに笑った。