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26 メルダの行く末


 「うまくいったようで何よりだ」

そう言って笑うのは、ゼルマン。

「うまく乗せたものね、見てみたかったわ、ロバートが人をはめるところを」

「義姉上、やめてくださいよ、人をはめるだなんて・・・。

うまく誘導できた、とは思っていますが、なんにせよ、疲れましたよ」

ロバートは苦笑交じりにそう言って、紅茶を飲んだ。


「それにしても、男爵をまた頼ろうとするなんて、何を考えているのかしら?」

「あんな女の考えることなどわかりませんよ。考えるだけ無駄です」

「ロバート、辛らつだな」

「そりゃそうですよ、あんな女を押し付けられて、家でも気が休まらず・・・。

我が家の財政もかなり使い込まれ、使用人たちに迷惑をかけてしまった。

ライナスにも迷惑をかけてしまったし、何より、フリッツやシャーロットにも迷惑がかかっただろう?

申し訳なくて・・・」

「そのことはもういいのよ、フリッツの悪夢のままにならなかったんだし」

「はは、あの夢ね、初めは気が狂ったのかと心配しましたよ」

「わしもそう思った、それに、夢の中のわしは本当に自分か?と思うくらい駄目な奴だったし」

「聞いているだけで離縁したくなりましたわ」

「エマ!!」

「ふふっ、冗談ですわ」

「心臓に悪い」


二人のやり取りを見ていたロバートはつと、立ち上がると、膝をつき、騎士の礼をとった。

「どうした?」

「兄上、義姉上、この度は、我が家の膿を出すために、多額の資金援助をありがとうございました。

あの援助がなければ、こんなにスムーズに離縁まで行けなかったと思います。

我がラーウズ子爵家は、公爵家に感謝と、その恩に対して忠誠を誓います」

ゼルマンとエマーリアは顔を見合わせると、にっこり笑ってうなずいた。


「ロバート、お前の礼はしかと受け取った。

だが、ワシらは実の兄弟でもある。困ったときはお互い様だ。

次代も仲良く付き合っていけることを願うよ」

ゼルマンの言葉に、ロバートは深く頷くのだった。



その頃、荷物をまとめ、馬車に乗ったメルダは、男爵家の領地へと向かっていた。

「ちょっと、どうして王都から出てしまうのよ」

メルダが御者に声をかけると

「前男爵様の所へお送りするように言われてますんで」

「どういうこと?前男爵?」

「あっしには詳しいことはわかりやせん、到着したら聞いてくださいよ」

「どうなってるのよ!!」

怒鳴りつけるメルダに、御者は「うるさい客だよ・・」とぼやきながら無視を決め込んだ。

相手にするのも面倒だったのだ。


ついたのは、やけに小さい家だった。

周囲には何もない、寂れた場所だ。

「何よ、ここは?」

メルダの荷物を玄関前に降ろすと、御者はそそくさと帰って行った。

「ちょっと待ちなさいよ!」


そう叫ぶメルダを無視して、さっさと帰ることにしたのだ。

「つれていって、降ろしてこい、決して連れて戻るな、という命令だからな」

御者は戻ったら結構な額の手当てがもらえることになっている。


「誰かいないの?ここはどこなの?」

仕方なく家の扉をたたくと、年寄りがのろのろと扉を開けた。

「・・・男爵様??」

「ああ、お前か、息子から連絡は受けている」

「どういうことですか?」

「お前のせいでわしはこのような所に隠居させられるのだ」

「私のせい?」

「そうだ、お前のせいだ、お前に同情して関わったばかりに、息子からも軽蔑されてしまった」


もともと男爵は騎士として働いていたのだが、その傲慢な態度にて度々問題を起こしていた。

騎士団への苦情も多くなり、退団へと追い込まれたのだった。

実家へ戻った後も、その傲慢さは収まることなく、男爵の父親は早くに隠居を迫られ、この小さな家に押し込まれたまま亡くなっていた。

家族に対してもその態度は変わらず、男爵の息子は祖父に対して行った事、母や弟妹への態度と暴力に憎しみを持っていたのだった。

メルダの件で公爵家から連絡をもらった際は、渡りに船とばかりに父親を祖父と同じように領地へと追いやることに成功した。


そんな状況を知らずに、メルダは男爵を頼る、と宣言したのだ。

まさに罠にはまった、と言えるだろう。



この辺鄙な所からまた王都へ戻るにしても、馬車がない。

近くに村があるらしいが、かなり寂れており、若者はほとんどいないそうだ。

必要なものは定期的に男爵家から送ってくるそうだが、使用人もいないこの家で、男爵と二人でできることを自分たちでやらなければならない。

メルダは絶望するしかなかった。


「こんなはずじゃなかったのに・・。こんなところで貴族との出会いなんてないじゃない」

「うるさい!口より手を動かせ。今日の食事がまだできんのか」

「何言ってるの、何もできないくせに!せめてマキ割りくらいやりなさいよ、元騎士でしょう?」

「わしはもう引退したのだ!」

「あんたもやらなきゃ私一人でできるわけないでしょう。

勝手なことばかり言わないで、働きなさいよ」


二人はお互いに罵り合いながら、長い年月を過ごすことになるのだった。

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